2001年新ミレニアムのはじまり 

藤原道長が「この世をば我が世とぞ思ふ 望月の欠けたることの無しと思へば」と詠んでから約千年。空を飛び、陸を走り、光で通信する世の中となって、世界は小さくなりました。そしてこの「進歩」によって、人間が多くのことを失ったといえるかもしれません。
これからの百年、そして千年のスタートの年にあたり、歴史の海の中で、私たちは、なにをして、どのように、生きればいいのでしょうか。
また、何をしてはいけないのでしょうか。少なくとも、歴史に“汚点”を残さないために。

21世紀への提言 目次
{国内政治}2001年政治決戦 北海道大学法学部教授 山口 二郎
{アジア}アジアの知恵と女性パワーが日本を救う! 早稲田大学政治経済学部教授 坪井 善明
{ロシア}日ロは「共生関係」になった 札幌国際大学 助教授 荒井 信雄
{中国} 北海道大学 助教授 遊川 和郎
{ヨーロッパ}明るくなったヨーロッパ 東京大学法学部大学院 教授 高橋 進
{道内政治}21世紀の夜明け 小樽商科大学教授 相内俊一
{道内経済}昨年度はマイナス成長まぬかれる、新世紀もプラス成長維持か 札幌銀行 取締役企画部長 上田信行
{朝鮮半島}緊張緩和への日本の役割 衆議院議員 横路 孝弘

  (本稿は連合北海道が各先生にお願いし投稿いただいたものです。無断転載はご遠慮ください。) 

{国内政治} 2001年政治決戦
北海道大学法学部教授 山口 二郎


 昨年11月の加藤紘一氏による「クーデター未遂」は、多くの国民に失望感をもたらした。ただ、自民党内の良識派の限界が明確になったことによって、今後の日本政治を転換する主体をどこに求めるべきかということも、明らかになったといえよう。政権交代によってこの閉塞状況を打破するしか途はない。
 2001年は参議院選挙が予定されており、まさに21世紀の日本政治の方向を選択する決戦の年となる。まず何よりも、自公保の議席を過半数割れに追い込むことが政治転換の最低限の条件である。参議院で与党が過半数割れすれば、98年秋のように自由党や民主党に政権協力の餌を提示するであろう。しかし、民主党はその誘惑をはねのけ、早期解散を強硬に迫るべきである。景気回復のために政治の安定が必要という自民党の口実は嘘である。現在の経済混迷は、政治の閉塞がもたらしている。 21世紀のビジョンを徹底的に論争し、政権交代による改革路線を選択することで、初めて21世紀の日本の活路は開けてくるであろう。


{アジア}アジアの知恵と女性パワーが日本を救う!  
早稲田大学政治経済学部教授 坪井 善明

 
1997年の経済危機以来、急速に「21世紀はアジアの世紀」という掛け声は日本では聞かれなくなった。しかし、日本から1歩出てみて、東南アジア、インド,中国などの現場を歩いて見ると,皆生き生きとしていて楽観的で元気がよい。 一度困難を経験した分だけ、社会全体として成熟した様子が伺えるタイ。とくに、IT革命の波に乗りドイツも日本でも、技術者の受け入れを検討しているインド。様々な問題を抱えながらも、近代化に向けて大きく飛躍している中国。どこに行っても、活気がある。2010年頃には、アジアはインド、アセアン(東南アジア諸国連合)、中国,日本の4極が中心となって、経済活動が展開されると予想されている。 では、何故日本だけが他のアジア諸国と異なって、活気がなくなったのだろうか。一つは、この130年間、欧米一辺倒を国家目標にして、余りに近隣のアジアを認識レベルで無視してきたことにある。彼らから、学ぼうという謙虚な姿勢がない分、彼らの努力や叡智を見過ごしてきたのである。アジアの各国・各民族には長い伝統と厚い文化的蓄積がある。植民地化や度重なる幾多の戦争の戦場になった困難を克服して、現在があるのは、それなりの叡智と工夫があった。日本を手本もしくは教訓として学んだ部分も多いが、アジアの叡智や工夫に我々はあまりにも無頓着であった。 二つめは、日本社会をもっと徹底的に民主化して、男女平等社会を作り、女性の潜在能力を開花させる必要がある。驚くべきことに、他のアジア諸国の方が日本社会よりもずっと女性の社会的進出は著しい。 逆にいえば、アジアの叡智を学ぶことと女性の潜在能力を開花させることで日本も再生の可能性があることになる。対等で民主的なアジアの地域をつくること、これが21世紀のまずもっての課題であろう。


{ロシア}日ロは「共生関係」になった
札幌国際大学 助教授 荒井 信雄

 
終わったばかりの世紀の前半に、日本とロシアは5回にわたる戦争と軍事衝突を繰り返した。後半の50年間も、そのほとんどの時期に両国の政治的な関係は緊張と対立を特徴としてきた。もちろん、過去の日露関係史が陰鬱な記憶にだけ埋めつくされているわけではない。ヨーコ・レノン・オノが温かい回想の気持ちを込めてアンナ叔母様と呼ぶサンクトペテルブルグ生まれのアンナ・ブブノーワは、1918年に小野俊一と結婚して日本に渡り、40年以上にわたって諏訪根自子から前橋汀子に至る偉大なヴァイオリニストたちを育てた。とはいえ、20世紀の日ロ関係史に大文字で書かれるのは戦争であり、人々の悲劇であって、私たちの心を暖めてくれる人間の交流は、無視されるか、あるいは、せいぜい小さな活字で注記されるにとどまってきた。これほどに、悪しき意味で安定した二国間関係は他に類例を見ないといってよいだろう。しかし、20世紀の最後の10年には、それ以前には想像すらできなかった関係が北海道とロシア極東の間に生まれている。1990年には200億円弱程度だった北海道のロシアからの水産品輸入は1999年には600億円を超えた。ペレストロイカ、そしてソ連崩壊がもたらした経済自由化は、ロシア極東沿岸部の漁業者を起業家に変え、400億円を超える新しい対北海道マリーン・ビジネスを生み出した。ロシアの輸出企業が北海道市場に依存するのと同じように、道内の港湾都市の多くも新しく生まれたモノとカネの流れに依存している。さまざまな摩擦を伴ってではあれ、地域レベルで生まれた相互依存関係は、これからの日ロ両国の関係を示唆している。互いに相手を必要とする関係であり、それが人々の生活の向上につながる関係である。私たちが未解決なまま21世紀を踏み出した領土問題の解決もまた、国家間、そして地域間での相互依存関係の成否に大きくかかっている。


「中国」   
北海道大学 助教授 遊川和郎
 
列強に領土を蹂躙され半植民地状態で20世紀を迎えた中国は、1949年の新中国成立、そして79年に始まる改革開放政策によって目覚しい経済発展と国力の回復を遂げ、香港、マカオの返還を実現して新しい世紀を迎える。 過去20年にわたる市場経済化に向けた改革と対外開放によって国際社会における存在感は増し、これから2010年、20年とさらなる経済力、軍事力を背景に「大国化」していくことは確実と見られている。 しかし、当面の状況に目を向けると難問が山積しており、その課程を一概に楽観することはできず、またこれまで以上に「大国」の動向に厳しい目が注がれよう。 政治では、2002年の次期党大会で予定されている江沢民総書記を始めとする指導部の交代に向けて、円滑な権力の移行が先ず大前提となる。現指導部は残された台湾統一にも早急に道筋をつけたいところだが、米国新政権の出方によっては、緊張が増す可能性も否定できない。一方、深刻化する腐敗は党の存亡に係わる問題に発展しつつあり、幹部の育成や登用方法の改革など危機感を持った取り組みが必要とされている。 経済では、計画経済の残滓である国有企業問題や金融システム、社会保障(セーフティ・ネット)の確立が急務であることに加え、世界貿易機関(WTO)加盟を控えて、打撃が予想される農業など国内産業の強化、構造調整は待った無しとなっている。また、地域格差や貧富の拡大、環境問題といった経済発展の負の側面も顕在化しつつあり、その対応もゆるがせにすることはできない。 こうした難題や矛盾を抱えながらも、中国は一定の成長を遂げることによって、問題を解決しなければならない状況にある。持続的な発展と更なる改革の綱渡りが当分続けられることになろう。


{ヨーロッパ}明るくなったヨーロッパ   
東京大学法学部大学院 教授 高橋 進

 
1990年代のヨーロッパを振り返ってみると、ヨーロッパ、特に西欧が次第に明るくなってきたという印象をもつ。90年代の初頭のヨーロッパは暗かった。街を歩いている人たちの表情が暗いのである。特にイギリスは暗かった。サッチャー政権が採用したネオリベラルの路線がもたらした格差、人々の経済格差ばかりでなく地域的な格差の広がり、が目に見えて現れてきたのである。またフランスでもジュペ政権のネオリベラル路線のために一大ストが展開された。ドイツでも統一の歓喜はあっという間に消え去り、旧東独部の経済再建という重荷に悩むことになった。 このような暗い状態を変えたのが政権交代であった。イギリス、フランス、ドイツで次々に誕生した中道左派政権である。理念・政策もあることながら、澱んだ空気を一掃するという効果が強烈であった。政権交代とはこのようなものかということを実感させてくれたのである。中道左派政権のその後の歩みは、まさに政策革新といえるものであり、矢継ぎ早に様々な政策を打ち出し実行したのである。イギリスにおけるスコットランド等の分権、フランスでの週35時間労働の実施、ドイツでの経済改革などであり、全てが成功したとは言えないものの、政治が動いていることを強く印象づけたのである。 日本は「失われた10年」であった。いやそれよりも「失われた20年」にもなりかねない状況である。政治ができることは多い。日本も政治が頑張らないと、「失われた10年」がもたらした停滞と閉塞感は断ち切れないであろう。21世紀の初頭は、この意味で政治の正念場といえよう。


{道内政治}21世紀の夜明け  
小樽商科大学教授 相内俊一

 
21世紀を迎えたからといって、昨日までの政治状況が一変するわけではないが、これを一つの節目として、百年間の北海道の政治について考えることは意義のあることだろう。 20世紀の北海道は、北方に対する軍事的基地、農家の次三男層が一旗上げる入植地、戦後は植民地を失った後の食料基地、石炭を中心とするエネルギー基地として、中央政府の政策の下でその役割を果たしてきた。そのために、中央政府は多額の補助金や事業費を北海道に投入し、北海道もそれを当然のこととして受け入れ、更にはそれを増やすために大いなる努力をし、それなしにはやっていけないような体質になった。 これから百年の北海道は、中央政府の思惑ではなく、北海道自身の意思による「自己決定」によって設計されるべきだ。「自己決定」を権利として主張するために、自己決定能力と、自己管理能力を高めよう。高い能力を持った人材を育成するためにこそ、大いなる投資をすべきだ。北海道に適した産業を発見し、発展させる、実行力のあるシステムを導入しよう。 20世紀の最後の年に「地方分権一括法」が施行された。「地方分権」は、英語でもdevolution、上から下に権限が落ちてくるイメージだ。しかし、独立した個人の「自己決定権」は当然のこと。自分の一番身近な政治で自己決定を主張するのは、本来的な権利であるはずなのだ。「分権」を「権利回復」と読み換えて、社会のシステムを作り、動かしていこう。 はっきりとした意思をもって設計図を作り、そのために資源の配分を決定し、実現を保障することこそ、政治に課せられた責務である。したがって、それができる人材を政治家として選び、活用していくことが、重要な鍵になるだろう。


{道内経済}昨年度はマイナス成長まぬかれる、新世紀もプラス成長維持か
札幌銀行 取締役企画部長 上田信行

 
2000年度の道内景気は、個人消費と設備投資にやや明るさがみられ、かろうじてマイナス成長をまぬかれると思われる。設備投資は、総体で景気牽引力にはなりえず、個人消費も、雇用者所得の増加等もあって回復傾向が見られたが力強さに欠け、全面的な消費回復には至っていない。住宅投資は減少し、公共投資も前年を大きく下回った。観光産業は、有珠山噴火の影響が大きく、前年の水準を下回った。こうした状況の下、企業倒産は、件数・金額とも概ね前年の水準を上回り、企業の景況感は、日銀短観の業況判断などにより悪化傾向が明らかとなった。  2001年度の日本経済が、設備投資や個人消費に回復傾向を強めるとみられる中で、北海道の公共投資にかつての景気牽引の力が無く、住宅投資も、積極的投資環境が整わないなどから前年度を下回るとみられる。しかし、個人消費が緩やかに持ち直し、設備投資も非IT業種での戦略的IT投資が徐々に増加するなどから、道内経済はプラスの成長率を維持するとみられる。需要項目別に少し踏み込むと、個人消費は、企業収益・雇用の緩やかな改善により、雇用者所得の伸びがやや上昇し、物価の下落傾向もあって、持ち直すと見られる。住宅投資は、政策支援効果(住宅ローン減税・低金利)が一巡し、持家、分譲の着工が手控えられるなどから、総体の住宅着工戸数は減少する。設備投資は、地場製造業の設備投資は横ばいと見込まれるものの、非製造業で電力が引き続き増加、情報関連サービス業も増加が見込まれる等から増加するとみられる。財政面の制約から新たな追加策が見込めない公共投資のさらなる減少は不可避とみられる。


{朝鮮半島}緊張緩和への日本の役割
衆議院議員 横路 孝弘

 
南北対話が本格的に始まり、米朝・中朝関係も進展しつつある中で、日本と北朝鮮との国交回復は21世紀最初の大きな課題のひとつです。国交回復に向けて重要なことは、「信頼醸成」。もちろんミサイル問題など北朝鮮との間には解決すべき問題もありますし、同時に第二次大戦や植民地支配などについて日本が真摯な謝罪と補償をしなければならない問題もあります。しかしこれらは国交回復に向けての話し合いのテーブルについてからでも遅くないもので、交渉前から問題を設定したのでは一歩も進みません。まずは首脳レベルで会談し、それから懸案事項の分科会をつくり、協議していくべきです。 私は2年程前にも訪朝し、民主党も乾パン救援活動などを行いました。道内でも、農業技術者の相互交流を行っています。日本はこうした人道的支援を行いながら、同時に国交回復を進める必要があります。 最近になって、多くの国々が承認する動きや、北朝鮮がアセアン地域フォーラム(ARF)に参加するなど、国際社会に迎え入れる環境が整い始めましたし、国内の経済改革を進めて、国際社会で共存する努力もしています。日本は、北朝鮮が国際社会の一員として合理的な行動ができるように、そして緊張構造を除去して平和を共有できるようにしていかなくてはなりません。そのためにはARFのような機能を持つ北東アジアフォーラムを設立して対話の枠組みをつくり、非核地帯条約や経済再建など、各国と一緒に協力していく必要があると思います。南北統一構想によって朝鮮半島の戦争の脅威が取り除かれることにもなります。 日本は、米朝交渉の動きを見ているだけですが、これからは独自に積極的に交渉していかなければならないと思います。

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