件名: [abolition-japan 457] 中堅国家構想
2月末にサンタバーバラ(米カリフォルニア州)で中堅国家構想(Middle Powers Initiative)の会議があり、参加してきました。一つの国際NGOの内部会議でしたが、忘れない中にその雰囲気を簡単にお伝えしておきます。注目すべきNGOですので参考になると思います。
その前に「中堅国家構想(MPI)」について、初めての方に簡単に紹介しておきます。MPIは、主要な核軍縮NGOの連合体です。カナダのダグラス・ロウチ上院議員(元カナダ国連軍縮大使)が創設者であり、現在の議長をつとめています。新アジェンダ諸国(このMLでも紹介された7カ国)、オーストラリア、カナダ、日本、NATOファイブ(ノルウェー、オランダ、ベルギー、ドイツ、イタリア)などの中堅国家を支援して、核兵器国に核兵器削減と廃絶への行動を促そうという絞った目的をもったユニークなNGOです。現在は新アジェンダ諸国への支援を中心において、それを取り巻く形で、その他の中堅国家への働きかけを続けています。
さて、会議で決まった大きな方針は、昨年のNPT(核不拡散条約)の再検討会議で、全会一致で合意された「13項目の実際的措置」(文末に要約を掲載)の実行を迫ろうとする「新アジェンダ諸国」の動きを支援しながら、核兵器廃絶への道を加速させる、というものです。そのために、MPIが主催して、新アジェンダをはじめとする中堅国家の政府代表とNGO活動家の「13項目の検証」会議を開催することになりました。この会議で討議されたことが、参加者の相互作用を通じて秋の国連総会における各国の決議に反映されて行くことを狙ったものです。
日本の市民にとって大切なのは、日本政府が、少なくとも表面的には、比較的熱心に「13項目の実際的措置」の実行を求めるポーズをとっている国だということです。しかし、核抑止論を否定する新アジェンダ諸国と、核抑止論を肯定する日本とでは、その力点の置き方が明確に違ってくると思われます。具体的には、第6項で「核兵器全面廃棄の明確な約束」をしながら、核兵器に依存する政策を続けることの矛盾が、日本などでは問題になるはずです。
この違いが、初めて表面化しそうなのが、今年の秋の国連総会に提出される予定の、それぞれの国からの決議案です。このいきさつを知らなければマスコミは、日本の動向を正しく報道できない可能性があります。その意味で、市民が先行して関心を持って、この動向に関心を払って頂きたいと思います。市民の見るアングルが定まると、マスコミの報道のアングルも違ってくるでしょう。市民から政府への要求形成も必要です。
サンタバーバラでは、もう一つ注目すべき動きが始まりました。中堅国家への影響力を強める一つの重要な試みとして、「核軍縮議員ネットワーク(PNND:Parliamentarian
Network for Nuclear Disarmament)」が、MPIのプロジェクトとして形成されることになりました。熱心な国会議員が、国際的に方針を共有して各国議会での議論を活発にすることを目指しています。これも、日本の弱い部分を強めるのに役立つことと期待しています。
MPIでは、各国での活動を行うときには、各国のNGOとの連携を重視する姿勢をもっています。
<13項目の要約>
1.CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期発効
2.核爆発実験のモラトリアム
3.CD(軍縮会議)におけるFMCTの5年以内妥結をめざす作業プログラムの合意
4.CDにおける核軍縮下部機関の設置を含む作業プログラムの合意
5.核削減などにおける不可逆性の原則
6.保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束
7.ABM条約の維持強化とSTARTUの早期発効、STARTVの早期妥結
8.米・ロ・IAEA三者構想の完成と履行
9.核軍縮につながるような核兵器国による諸措置
−−保有核兵器の一方的な削減努力
−−透明性の増大
−−非戦略核の一方的削減
−−核兵器システムの作戦上の地位の低下
−−安全保障政策における核兵器の役割の縮小
−−全核兵器国の早期の関与
10.軍事目的に不必要になった核分裂性物質のIAEA検証や平和転用
11.究極的目標は全面かつ完全軍縮
12.ICJ(国際司法裁判所)の1996勧告的意見を想起したNPTによる核軍縮義務の履行について定期報告
13.核兵器のない世界のための検証能力のさらなる開発
梅林宏道
ピースデポ代表
太平洋軍備撤廃運動(PCDS)国際コーディネーター
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