「新ガイドラインと東アジアの安全保障」
ピース・デポ(平和資料協同組合) 梅林 宏道 代表  2001.1.22
 2000年10月に出された「米国と日本・成熟したパートナーシップへ」は、アメリカの日本通が、米国の新政権に向けて、新しい関係日米関係のあり方について提言した研究レポートです。
 まずとらえていただきたいのは、新ガイドラインはほんの出発点であるということです。
 この提言には「新ガイドラインは基礎であるが、日本の役割の天井ではない」との表現があり、また、「日本の集団自衛の禁止は制約となっている。この制約を除去によってより緊密で効率の高い防衛協力が可能」と書かれ、集団自衛禁止を早くやめてほしいと記されています。最後のところでは日米関係を米英のような関係にもっていきたいと結ばれています。
 それが彼等が考える世界の安定した構造であり、アメリカの安全保障関係の学者、政府の官僚の基本的な考え方だと言っていいと思います。
 日本の官僚もほとんど洗脳されています。
 これは本当に政治が必要だということを痛感します。
 官僚自身が考え方を変えるのが困難ならしかし、たとえば小樽で市民と接する政治家が日本の安全保障について、ある種の考え方を出すのが決定的に重要で、それが怪しくなると日本は前途が暗いと言わざるをえないです。
 ただこの連中は違う意見の人たちとも頻繁に議論をしているし、変わるときには変わるんです。アメリカはまだ柔軟性をもつ国です。
 たとえば沖縄については、彼等も現状ではもたないという認識を共有しています。沖縄からはもっと柔軟に手を引き、海兵隊も散らしてと、絶えず世論を計算しながら政策を作るので、変わっていくのです。
 ただ、日米同盟をあたり前の軍事大国の関係にもっていく論理に対して、太い線で議論できる日本の官僚の体制ではないし、政治家も、きちんとできていないと思っています。
 アメリカは価値観を共有し、パートナーと言っていいと思いますが、日米の軍事に対する価値観は対局に違う。彼等は本当に軍国主義者で、軍事がすべての体制の決定力をもっているという考え方は、論陣を張る人たちの8割方はそういう考え方と感じます。
 ですから日本は違う市民感覚があり、歴史的な戦後の蓄積があることを大きく打ち出した上で、アメリカとどういう協力をしていけるかの論を立てる必要があると思います。この軍事的なものに対する決定的な違いを打ち出すことは、自治体レベルでも同じです。
 その中で危機管理の問題が日本に欠けているといえばその通りだと思いますし、それから危機回避、危機を招かないというその考え方をどうやって非軍事の考え方で編み上げるかというビジョンが日本には求められ、それをアメリカと話をしていかないと駄目だということになっていくんだと思います。
 
 
 東アジアを考えたときに、ヨーロッパとは違い、アメリカとの2国関係で築き上げられた非常に強固な軍事的枠組みができている現実があります。米比の間には相互防衛条約と訪問軍協定があります。基地協定は50年の期限が切れ、フィリピン上院が延長に反対して、米軍基地はなくなりました。しかし相互防衛条約がありますし、米軍がフィリピンを訪問するときに、その地位を確定する訪問協定が今年できました。
 韓国では米韓相互防衛条約が50年代にでき、朝鮮半島で米韓が共同で朝鮮民主主義人民共和国と対峙している条約構造です。それからアメリカとオーストラリアでアンザスという条約が、もともとはニュージーランドも含んだ3カ国条約でしたが、ニュージーランドがアメリカの軍艦の核搭載疑惑艦の入港拒否をして、現在もニュージーランドとアメリカの関係は凍結をしています。ただ通信基地などはあるんです。しかし条約としては現在アメリカとオーストラリアがアクティブに関係を結んでおります。それから日米安保条約ということになります。
 この中でアメリカは太平洋、それからインド洋、アラビア海、ペルシャ湾まで通ずるアメリカの世界展開のカナメとして日米安保体制を基軸に置き、これからもそうしていきたいというのが大きな流れになっているわけです。
 アジアの米軍の10万人体制の実態は、東アジア・太平洋に展開している97年6月30日現在の数字がありますが、インディペンデンス・キティホークなど横須賀・佐世保を母港にしている軍艦兵員が洋上移動に数えられています。ですから、在日米軍の41,459人は間違いで、横須賀と佐世保に母港をすえている17隻のアメリカの軍艦の兵員と合わせて、5万5千近い数、10万人体制の約6割、6万人が在日米軍だというふうに考えるべきです。
 約6万人が日本にいて、4万人足らずが韓国にいます。
 しかし、在日米軍と在韓米軍は根本的に違う軍隊です。これは公式な文書では出てきません。そればかりか日本で宣伝されるときには朝鮮有事云々、それから台湾海峡云々ということで在日米軍の役割を説明しますから似たような位置づけの軍隊だと思ってしまいますが、実際の作戦文書にこの違いが非常にはっきりでています。
 在韓米軍は朝鮮有事に戦う初動の部隊で、これは韓国軍と一体で合わせて60万人です。
 対して在日米軍というのはアジア太平洋全域に展開するための汎用部隊、何にでも使える部隊が在日米軍の規定・役割です。もちろん朝鮮有事があればそれに行くでしょう。しかし全体をにらんでいますので、実際湾岸戦争のときのようにペルシャ湾や、それからソマリアの作戦にも行くというように、アフリカの東海岸・東チモールまで、と全部に展開をさせる部隊です。在韓米軍はそういうふうには絶対動きません。
 もう1つ中国との関係では、これはプレゼンスという言い方がされる外交の1つの軍事的側面の役割を在日米軍が果たしています。全面展開をする部隊であるが、近くにいることによってにらみがきくということです。ただ戦闘を前提とした実際の演習とか何とかというのはものすごく少ないです。中国を対象とした行動というのは非常に少ない。
 そのように一皮剥いた本当の姿としての在日米軍があります。その状態をアメリカは公認のものにしたいわけです。外交文書・公的な文書には表れない、1つ作戦レベルでは表れるような実態ではなく、日本の市民も納得をして、日本の日米安保体制というのは、みみっちく日本をどうこうという話ではなく、アメリカのグローバルにきちんとやる部隊として日本の市民に認知させたいというのが日米安保再定義の努力だったわけです。
 
 
 1996年「橋本・クリントン共同声明」が出されて、これが日米安保再定義の共同声明だと言われています。その狙いは日米安保はグローバルな安保であって、日米の日本の有事などを超越している、そういう同盟関係ですよと高らかに唱いたかったわけです。いきなり高らかには唱えなくても相当な程度踏み込んで、それをやりたかったわけです。しかし挫折をしました。私は日米安保再定義は日本の闘いによって挫折したととらえています。
 とりわけ大きかったのは沖縄の抵抗です。時期的にちょうど少女のレイプ事件があり、大田知事が、沖縄の基地が現状のままで使われるのであれば、5年ごとの更新である軍用地延長使用の知事の代理署名手続きに協力できないと言ったわけです。その局面とたまたまここで合致してしまったわけです。それでアメリカが直面した現実はグローバルな安保再定義どころか、日本の基地の確保すらも危うくなった中で、非常に薄められた安保の再定義をいたします。
 しかしその中で日本の基地確保、それから日本の市民をもう一度教育し直す。この状態では本当の同盟関係になれないというところで仕切直しとして出てきたのが新ガイドライン路線です。
 ここで強調されたのは実際に朝鮮半島で、あるいはこの近くで有事が起こった時に米軍にどれだけ協力ができるんだと、もう一度つきつけたわけです。周辺事態というものを強調し、そこで実際に日米が戦争協力する場合に、超法規的なことしかできないことから、新ガイドラインをつくり、周辺事態法をつくり、周辺事態法のときには船舶検査が外されてしまったので船舶検査を追って、昨年の11月までで、一応最初のかたちの周辺事態法ができ、その中で必要とされる民間協力レベルの話が今私たちはに覆い被さっているという流れになります。
 一番典型的でわかりやすい事例ですが、アメリカの軍艦が日本の民間港を使おうとしたときに、アメリカ側、そして日本側ともに、それが非常にスムーズに実行できるような体制にならなければ日米安保協力がスムーズにいかない。市民とか自治体が有効的な対応をしてくれるということが非常に大きな要素になるわけです。日本を米英同盟のような同盟国にしようとしたときに、アメリカ軍、あるいは軍事的なものに対する日本人の持つアレルギーを、払拭したいという大きなねらいがあり、逆に言うと、それとの闘いが草の根レベルでどれだけできるかということが、日本のもって平和主義と彼等のものの考え方との一番現実的に生々しいせめぎ合いがあるんだといえます。
 ですから結果として寄港されてしまうかどうかということもさることながら、それに対する抵抗感がどれだけ示されているかが重要な要素であり、彼等はそれを見ていると思います。その意味では北海道で最近起こっていることは、私は非常に勇気づけられておりまして、日本のあらゆるところでこういうふうになっていくと、彼等がもう一度仕切り直しも挫折していくと思っています。
 
 
 具体的な話をもうちょっと詳しくする前に、その一方でやはり大きく進行している重要な動きを同時に説明をしておきたいと思います。それはアメリカも必死である1つの例なんですが、アメリカでは現在「軍事における革命」が進行しています。1995年頃からこの軍事における革命がアメリカで台頭し、確実に根を下ろし、政策レベルでものごとを変えつつあります。
 1999年の日本の防衛白書を見ると「軍事革命」と訳してありますが、この軍事における革命というのは、RMA(レボリューション イン ミリタリー アフェアーズ)です。軍のいろんな事柄における革命ということで、どういうふうに戦争をするかということについての革命的転換を成し遂げないと、21世紀のアメリカは駄目ですということから始まっている言葉です。
 これには直接的に2つの背景があります。1つは冷戦後のアメリカの役割の多様化。性格の違う紛争に短期間で対応しなければならないとういうことがたくさん増えている。
 アメリカがグローバルなスーパーパワーとして、軍事力を展開するという方針を改めない限り、アメリカは軍のあり方を変えていかないと対応できません。冷戦時代はとにかく超大国対超大国が正規の闘い、軍と軍とがぶつかり合いを準備していればよかったと思います。核戦争も含めてです。
 しかし今度は向こうがもっているものは彼等の言葉で「非対照的攻撃」といわれる非対照な少数の小集団の紛争への対応です。少数集団が持つ兵器で米国に勝とうとするわけですから、核兵器を使うかもしれないし、アメリカでは禁じられているような兵器が登場するかもしれないし、あるいはテロリズムという処方かもしれません。ともかく複雑多様な解決を迫られる。そういう背景の中でもアメリカがいつでも勝利できる。これが1つです。
 もう1つの背景は情報技術の進歩です。軍隊が一番優れた装置をもっているのは殺す装置に関してはもちろんそうかもしれないけれども、IT、情報技術に関しては軍隊はものすごく遅れていて、民間の技術の方がもっと進んでいるというわけです。軍隊はそれを取り入れて軍事転移をするためにつくり変えるのだけれども、その評価のためにものすごく年月をかけるというシステムが有り、軍はそれを簡単には自分のものにできない。情報技術はものすごく軍は遅れていくという認識のようです。
 最近、報道でイラクがプレイステーションをたくさん買い込んでいるということが問題になりました。つまり兵器・武器として規制のできないIT情報技術というものは、情報技術のシンポはグローバリゼーションの勢いで世界中に浸透していくわけです。
 お金さえあれば全部購入できる状態になったときにアメリカの軍隊が今のままで、世界的に対応できる軍隊なのか、そういう問いかけが始まりで、このRMAというのは進行しました。いろんな紛争が世界中に広がっていると同時にITそのものもグローバリゼーションで敵の手にも渡っていき、使い方を変えるとアメリカの非常に大きな脅威になる。
 
 
 統合(ジョイント)作戦というのは陸・海・空・海兵というアメリカの4軍が一緒になって行動する作戦を統合作戦といいます。小さな、たとえばテロリズムに対処してとか、あるいは小さな武装集団と対処する、そういうアメリカの軍の展開1つ1つがもはや陸・海・空・海兵なんていってられなくなり、すべてが有効なチーム編成をした特殊部隊のような格好に変わっていかなければならないという転換を今やっているわけです。
 1997年に「ジョイント・ビジョン2010」という2010年に向けた計画が発表されて、去年それが「ジョイント・ビジョン2020」というかたちで発表され、統合作戦の新しい戦争ビジョンというのがつくられているという現状です。
 このとき何が一番大きく変わるかというと、情報のリアルタイムの共有ということが可能になった。今までは海軍軍艦は、1つの編隊を組んだらその編隊の取り入れる情報で編隊が行動していたものが、このジョイントビジョンでは、ネットワーク通信戦争といういい方をし始めています。リアルタイムで人工衛星を使って、遠く離れた部隊と情報を共有できるわけです。ですから自分の情報能力に頼らないでアメリカが軍として全体でもっている世界の情報ネットワークに結合していて、離れた人たちが会話をしながら最適の動きをすると、そういう考え方になってきました。
 これは現に進行していて、一昨年の演習では、横須賀にドック入りをしたブルーリッジに港に新しいネットワーク戦争システムのマスター装置を置き、子機・サブシステムにあたるものをインディペンデンスや、その他のミサイル発射艦、駆逐艦、それから巡洋艦に積み、散らばってしまうわけです。たまたま紛争が起こったときにどこにいるかわからないけれども、どこかに展開はしているという状況です。
 同時にこのときは在韓米空軍が、同じサブシステムを韓国に置いている。それから38度線に集結しているアメリカの陸軍、韓国軍もそのシステムを持つ。今のこのネットワーク戦争の中で新しく開発されている一例なんですけれども、模型飛行機みたいな無人で飛ばす飛行機がカメラを積み、高いところからリアルな映像を送る。それを韓国軍が処理をし、ブルーリッジに送る。ブルージッジは、どういう兵器で対象を攻撃すればいいのかをマスター機械で判断をし、一番都合のいい場所にいて一番都合のいい兵器を発射できる船がトマホークであったり、あるいは別のミサイルなどの精密攻撃兵器をもって、38度線の向こう側の朝鮮民主主義人民共和国の大砲をたたく。あるいは海から侵攻してくる北朝鮮特殊工作部隊を感知して、ピンポイントの攻撃をするというシナリオで演習をしたと報告をされています。
 
 
 こういう方向は、アメリカの政権が変わっても変わらない路線。それに日米安保体制が組み込まれるのかどうなのかということになります。アメリカとしては自由に組み込みたいわけです。
 既に起こっている問題では、アメリカとNATO軍との関係で、アメリカで軍事おける革命をするとNATO軍も同じようにやってくれないとアメリカが勝手に進んでもアメリカ単独の行動になっていくわけで、グローバリゼーションの時代に、アメリカは単独行動というのを極力したくない。これはブッシュ政権に入っても流れとしてはやはり避けられないと思っています。つまり同盟国を誘いながら、何かに対処しないとアメリカ単独で対処すれば、リスクを全部自分で背負わないといけない、とりわけ世論の批判などがあったときに、単独で世界の世論の攻撃を受けることは避けたいですから、同盟国を巻き込みたいのです。
 NATOと米軍との間に軍事格差がつきすぎたということを去年反省をしている文書が出ています。あまりにもアメリカが進みすぎて、NATOと共同の行動をとろうと思ったときに、それが不都合を生じている。その格差をどうやって少なくするかというようなことを議論しているんです。日本を考えるとNATOよりももっと基本的なところで、そんなに一緒に行動してくれないよという状況にあるわけです。
 同盟国との関係では、日本には非常に大きな矛盾を、アメリカは抱え始めているといえると思います。日本のとるべき道筋というのは、非常に貧しい2つの道筋を外務省などは考えざるをえなくなっています。1つは、なりふりかまわずに統合されていく。少しおこぼれに預かっていく。おこぼれの代表的なものはTMDというようなもの。共同開発をしてシステムの一部を日本が責任をもつ、発言力も確保する。けれども大きくいうとそのシステムに組み込まれていくという選択。これは一番ありそうな方向だと思います。
 もう1つは石原慎太郎みたいな感じになって、いつまでアメリカの尻についているんだと。独自で情報を入手する力をもたないといけない。もちろん同盟関係を壊せとはいいませんでしょうけれども、独自で全部日本のできない穴を埋めていきながら、独立した力をつけていくと、そういう方向の議論。
 私はこの2つのどちらをとってみてもつまらない、本当に古い考え方だと思います。
 
 
 ミサイル防衛の問題は非常に大きな問題になると思います。TMD構想は、海に配備するミサイル防衛を日米共同でやろうという考え方です。北海道にも寄港するビンセンスなどのミサイル駆逐艦に積まれる、スタンダードミサイルを改良したもので相手のミサイルを迎撃する能力をもたせようとしているのがこのTMDという構想です。これもいつ戦争が起こったのかわからないような格好で攻撃が始まってしまうようなネットワーク戦争に組み込まれていってしまう危険性があります。
 こういうふうに進んで行く事に対して中国は明らかに、非常に強い懸念を表明していますし、それに対抗する手段をとるということを言明しています。ですから中国は今、一生懸命軍拡に励んでいる訳です。そういう口実を与える事自体が問題だと思いますが、とにかく中国はものすごく警戒をしています。
 それから、この地域の本当に安定を考えようとすると朝鮮民主主義人民共和国と中国と緊張を緩和して、相互信頼を築いていくかという事が最大の仕事だと思うんですけども、結局今やっているのはアメリカの分断路線に組みしているという事です。アメリカの分断路線と言うのは、やっぱり中国を包囲するために韓国と日本とアメリカが、台湾をどう使って包じ込めるかというような形です。地域的に見ると日本がそれに責任があるような新関係の固定化を強めて行くような方向にしか動いてないということになるわけです。
 ですから私たちが大きなところで目指さないといけない事は、こういう分断路線ではなく、中国といかに協調するか、朝鮮民主主義人民共和国といかに協調できるようにしていくかです。この東アジアに、軍事的な色を薄くした外交的安全保障関係を、いかに築くかに最大の力点を置いたことをやることが、日本の外交の仕方だと思うし、日本の平和運動が目指さないといけないものと思います。
 信頼醸成ということからいうと、朝鮮民主主義人民共和国との間では、ミサイルに関して「通報」を明確にすることは、取りつけるべきだと思います。しかし「ミサイルを無くせ、お前はミサイルを開発するな」ということを本当に言うとなれば、現在、日米安保が朝鮮民主主義人民共和国にどれだけのミサイルを向けているかということを、公平に評価しないと言えないと思います。公平な評価というのは、日本の港を17隻の軍艦が母港としており、その中に巡航ミサイルトマホークが発射できる垂直発射管が全部で500基あります。それを北朝鮮だけではないですけれども、いつでも発射できる態勢に日米安保は持っていて、日本はそれに依存している。全部にトマホークが詰まっているわけではないですが、半数としても250のピンポイント攻撃の態勢を日本はとりながら、一発ミサイルが来たときに、それを無くせという議論は、国際的にみると非常に通らない議論です。しかし、いきなり発射するのは当然悪いし、それはやめようと言わなければならないですが、同時にミサイル問題の解決には、現実から出発をしていかなければならないと思います。
 
 
 また、東北アジアを考えた場合、新ガイドラインに対する対案は何か、と問われたならば私は即座に「東北アジア非核地帯を作ることである」と答えます。
 一見、非核地帯というと、核兵器のない地帯を作るんだという話で、違う話をしているように受け取られがちですが、実はそうではありません。 この地域でいかに緊張を緩和して平和な安定した状況をつくるかという「問」に対して、ガイドラインに従って周辺事態を想定して、軍事体質の万全を期しましょうというのが新ガイドライン路線ですが、そうではなくて、いかに緊張をなくしていく方向に安定させようかと考えたときに、非核地帯をつくろうという提案をして、そこから発生する諸問題を議論し始めるということです。
 非核地帯をつくるということは、かつてキム・イルソンも提案し、南北朝鮮の間で朝鮮半島非核地帯宣言というのを、1992年1月に署名をしました。日本は非核三原則を守っているといっています。それぞれの国の願望の表現として共有しているわけですから、非核地帯をつくるために、何が障害なのかを話合おうという糸口になると思います。
 そのことを通して、お互いに抱いている不信感をどうやって非核地帯構想の中で解消できるのかを詰めていくと、私は良いことだらけで、あまり障害がないという気がしますが、日本政府は頭から否定をします、非現実的だといいます。
 しかし、アメリカのクリントン政権の軍縮アドバイザーであったトーマス・ブラウンにこの話をすると、アメリカ政府の中で賛成をする人が半分位いるに違いないというんです。日本政府が話を出さないでアメリカが飲まないというふうにいうのは、全くの現状認識として間違っているし、充分に話の通じるテーマであるというわけです。だけど日本はそういう積極性を見せない。だから、とにかく現状をどうやって変えていくかということの手掛かりとしては、私は非核地帯というのは非常に有効な手掛かりであると思っています。
 それと、やはり草の根レベルで、やっぱり戦争はしないんだ、日本の市民は平和・地域的な安全保障をつくろうとしていることを示し続けるというのは、ものすごく大きな意味をもつわけです。
 取り分け私は、自治体を、もう一度本当に積極的に考える機関として位置付けていただきたいと思います。国レベルで解決する問題が多いのはそれは当然です、外交・防衛問題ですから、しかし国レベルでは嘘がものすごく多いんです。国の官僚が理論武装している情報というのはすごく一方的です。彼らも洗脳されているからそのことばかり言うんだけれども、そうではない現実があるということを、自治体レベルではもう少し理論武装できるのではないかと思っています。
 
 
 それが市民の感覚と合っている一例として、周辺事態安全確保法第9条の解説というところに入りたいと思います。
 これは周辺事態法の9条が、いわゆる民間協力を規程している条項なんですが、周辺事態法の9条問題としてどういうふうに自治体・民間の協力を得るかということの政府からきた解説です。
 例えばその具体的設問として、問1で、「米軍艦船の港湾施設の使用について日米地位協定上の通告がある場合には、港湾管理者は港湾管理条例による許可を行うことになるのか、またこのような許可を行うとした場合に、この許可について第9条第1項に基づく協力の求めを受けることがあるのか」、ということに対して、冒頭に「一般国際法上は、外国の軍隊が駐留する場合に、特別の取り決めがある場合を除いては、接受国の国内法令は適用されず、これは、我が国に駐留する米軍についても、同様である」と、なんとか重石を効かせちゃているわけです。
 つまり地位協定上に特別な取り決めがない場合は何もできないんだ、外国の軍隊が駐留する場合に向こうに国際法上の権利があるんだといういい方をしていて、しかし後に書いてるところでは、実際には日本の、接受国の法令を尊重をしなければならないことが義務になっていると、従って先程の第9条1項に基づく通告に沿った処理をしていくことになるんだ、だから一方的にはやるのではなくて…、というふうに書いてあるわけですね。
 ですから、大きくいえば規程上はできないけれどやれるんだといういい方になっているのですが、この規定上はできないというのは嘘なんですよね、嘘というか現状はそうなんです。それは日本が、例えば地位協定上の日本の権利を、もし少し強く規程しなおすという改訂をすればできるのです。例えばドイツがやっているようにもっと厳格にしましょうと。それから現在の地位協定のままでも、これは日米合同委員会でどれだけの詰めをするかという技術レベルで出来ることはものすごくあるんです。
 例えば基地の環境問題なんかでは、ドイツではドイツの国内法に従わせるということをきっちりと地位協定上で書いてあります。ですから日本が「どこまで、何を」、米軍との間で詰めて日本の権利として主張するかということは、日本の外交主権でやれる幅がものすごくあるのですが、それを全くいわないで、こういう書き方をしているのです。
 例えば公害に関して、日本の市民感情というのを、どれだけ地位協定に反映されるか。ドイツの環境法の場合なんかは、ドイツはものすごく世論との関係にうるさい。ですから地位協定上、特別の日本独自の主張をするということが充分可能だ。そういう議論を自治体としては、やはりある程度、理論武装をしておいて、アメリカと、政府とやり合うときの材料として圧力として使っていくことが、必要だと思います。
 自治体というのが市民の平和を預かる官庁です。それには環境問題があり、何がありだけれども、やっぱり基本は平和に暮らす、人間の安全保障の役所として、その砦だと思うんです。
 一番生活に近い所で市民と接している官庁が人間の安全保障というならば、やっぱり自治体の仕事として人間の安全保障を考えましょう。そういうときに核搭載問題は、非常に重要な安全保障問題だと思うんです。
 市民の安全をどうやって保障するかという観点から、やはり軍艦の寄港は非常に不安を招く、ゆくゆくは戦争に直接関与してしまう危険をはらんでいる、そこを出来るだけ排除するというのが自治体としての仕事です、といい切るひとつつの柱があって良いと思います。
 イギリスの非核地帯運動は、そういうことをいっています。核軍縮のアンケートを非核自治体がとる時に、国が核を持つか持たないかという国の事をなぜ自治体がアンケートをとるんだという議論にたいしてどのように言っているかというと、「市民生活に最も密接に、平和に暮らすために、もっとも密接に関与する核問題について市民の意見を聞きます」というアンケート形式になってます。まさに人間の安全保障というならば、自治体がそのことに基づいて行動する大義名分というのは、しっかりと立っていないといけない、それは非核自治体ではどんどんやれるはずだし、今後、大きな流れの中ではやっぱり非常に重要になっていくと思います。
 
 
 港湾に関しては、とにかくいろんなたくさんの港を確保するということは、具体的な個々の戦術、戦略いかんに関わらず、絶えず必要な事です。それに米軍は不足を感じているという現実もその通り存在すると思います。それは米軍としては多くの選択肢を地理的に離れたところに確保しておきたい。とりわけ空母に関していうと、佐世保と横須賀と、沖泊まりのホワイトビーチ沖縄の3カ所でした。だから接岸できるいみでは、佐世保と横須賀の選択は米軍にとって非常にやっかいな事情だと思います。
 例えば、佐世保というのはよく渇水する。地元の市民が制限給水しているときに、米軍が水をジャバジャバ使うということはできない。ですから寄港したくても出来ないという局面が、私が知っているだけでも2回あります。それから台風が来てる所は避ける、
 これから空母は原子力空母が増えます。まだ原子力空母の民間寄港というのはないわけですが、原子力空母は特別の装置がないと入港出来ません。何故かというと原子炉で自分の電力を賄っているのですが、小さな原子力艦、潜水艦位だと自分の持っているデーゼル発電機で結構賄えるんですけれども、空母は入港するときに自分の持っている原子力を止めちゃわないといけないんですね、そうすると自分の電力が賄えない、電力に限らず、水を廻す電力もないという状態に陥りますから、港にものすごく強い電力供給能力がなくてはいけない、そういうのを、今持っているのは、やっぱり横須賀と佐世保しかないわけです。
 アメリカの空母12隻の中で通常空母は2隻です。10隻は原子力空母です。原子力空母は横須賀に優先的に入る、そこにしか入れないと思います。そうすると通常空母が一緒にきたときにとめるところがないんです。横須賀には無理すれば2隻、普通の空母が入った実績がもちろんあるんですが、もう一隻が原子力空母だったら2隻入れないのではという気がするんです。
 そうすると原子力空母を受け入れている横須賀と、もう1隻入れる港というのはとにかく佐世保しかない、だからすごく窮屈になってきているということがあります。
 それから先程いったネットワーク戦争の中で、散らばせた軍艦配置をしようとしてます。それはいろんな目的がありえるんですけれど、分散寄港ということは必要性としては増えているだろう。それだけではなくて一般的にも港がもっと確保したいというようなことですのです。それからできるだけ市民を慣れさせようとしているようなところがもちろんあります。
 ですからやっぱり軍艦寄港に抵抗するというのは、私は地域からの抵抗としては非常に重要だし、大きな流れに対する有効な事でもあろうと思っています。