壁の向こうにいるのは誰か?北朝鮮問題解決の糸口はどこにあるか

マイケル・ホロヴィッツ (ワシントン・クォータリー誌 2004年冬)

(原文は Who’s Behind That Curtain? Unveiling Potential Leverage over Pyongyang, The Washington Quarterly, Winter 2004-05

 

 北朝鮮が核兵器を製造するための核物質を保有していることは、すでによく知られている。北朝鮮の現体制が、現状のままでいることが体制の安定につながると考えている限り、核の放棄を行なう可能性は極めて低い。そして、米国の経済的・政治的な働きかけがあっても、北朝鮮側が核放棄に同意するかどうかは、依然として不明のままである。したがって、北朝鮮の核問題を長期的な視点で解決するためには、影響力を持つ関係諸国の協力が不可欠である。

 

文化・政治・軍事からみた糸口

文化と政治

北朝鮮の「主体」思想という極端な自立思想は、自らの歴史の独自性を強調する。しかし、その文化は韓国や中国と共通する。また、これまで北朝鮮はソビエト連邦と中華人民共和国という二つの同盟国を持っていたが、ソ連の崩壊によって、中国が唯一の同盟国となるに至った。そして中国と北朝鮮の関係は「口と歯」のような密接なものである。中国の市場改革は、北朝鮮にとっても経済成長のための模範となるかもしれない。しかし中国の市場開放政策によって、二つの国の支配層に大きな違いができたことも事実だ。中国の支配者たちは市場経済を前提に考え、過去の指導者たちのように北朝鮮に対する強い同盟意識を持たなくなり始めている。中国の文化的政治的な影響は、弱くなっている。

その一方、韓国は影響を強めている。その理由は、韓国における和解と統一、北朝鮮との運命共同体志向の広がりである。しかし北朝鮮の現体制が、統一をどこまで真剣に考えているかはわからない。また韓国側も難民問題という現実があるので、南北首脳会議が今後どう進展するかも不明のままである。

 

軍事

 北朝鮮に対する米国の軍事的影響力は、否定的な側面しか持たない。もし米国が北朝鮮に対して軍事行動を取ったとしても、国際的な支持を得ることはできないだろう。また米軍が朝鮮半島から撤退したとしても、その影響は小さい。北朝鮮が求めているのは「絶対的な安全保障」であり、米国が先制攻撃をしかけないという保証なのである。もし米国がこの要求をのんだとしても、北朝鮮は次に新たな要求、つまり米軍の撤退を求めてくるだろう。こうして核問題の解決は、いつも先延ばしにされていく。

 これまでの歴史を見ても北朝鮮に対する安全保障は、問題の真の解決を遅らせるだけである。もし米国が北朝鮮に対する「安全保障」を認めると、米国に対する不信感が日本に生まれるかもしれない。

 中国と北朝鮮は軍事面でもつながりが深い。ただし中国からの軍事援助は減る傾向にある。そして中国は、北朝鮮との国境地帯で「不測の事態」が起きるかもしれないと、その対応を急ぎ、精鋭部隊を国境付近に送っている。また北朝鮮国内に難民キャンプをつくり、中国への難民が増え続けることを防ごうとしている。

 

経済的な影響力

 北朝鮮の外貨収入を減らすためには、麻薬の密売、偽札作り、武器輸出を禁止すること、」また海外からの送金を停止させ、外貨の獲得をあきらめさせることが必要だ。1987年の大韓航空機爆破事件をきっかけに米国が北朝鮮に対して行なってきた経済制裁(輸出禁止など)を他国にも広げるも重要だ。

 

北朝鮮に対する経済的な糸口の概観

 北朝鮮からの難民は、2002年は1200名だったが、2003年7月には2日間だけで500名が韓国に逃げ出している。この事態に対して北朝鮮がどう対応しているかは不明だが、生活水準が低下していることを理由に、国連など海外からの援助を増やそうとしている。

 

北朝鮮経済の現況

 韓国側の推計によると、1999年から2002年にかけての北朝鮮の国民総生産は3.1%伸びている。CIAは650万人が飢餓状態にあるが、国連による食糧支援によって2004年中の食糧は確保されていると言う。しかし北朝鮮経済は依然として、きわめて不安定だ。米1キロの価格は、130ウォン(2003年)から700ウォン(2004年)に急騰している。CIAは2003年の国内総生産額(GDP)を230億ドルと試算している。経済としての規模は小さいが、経済危機の影響は大きいものとなるだろう。北朝鮮に、公式の貿易統計はないが、貿易赤字は13億ドルにのぼると推定される。

2003年の貿易量をみると、最大の相手国は中国(33%)だが、他国との貿易も増え、北朝鮮経済に影響を持つようになっている。第二位は韓国(23%)、日本は第3位となっている。貿易額は、北朝鮮のGDPの13%を占めるようになった。しかし、膨大な貿易赤字をどうやって支払っているかが不明である。世界銀行や国際通貨基金などからの融資もないし、対外援助も赤字を埋めるには足りない。したがって北朝鮮は、基軸通貨である米ドルを何らかの方法で獲得しなければならず、それが北朝鮮における指導力の源になっている。

 

武器輸出

 武器輸出による北朝鮮の収入は56000万ドル(2001年)と推計されている。これが北朝鮮の現体制を支え、核開発に向けられている。北朝鮮が輸出するのは、ミサイル技術と核の専門技術である。しかし、武器輸出による外貨獲得を減らすために国際社会は、この五年間で大きく動いた。米国はリビアやエジプト、パキスタンとの関係を修復し、北朝鮮の武器を買う国を減らしている。北朝鮮は、ナイジェリアのような新たな買手を探すこととなった。

 

送金と国際援助

 北朝鮮指導部に対する経済的支援の残された領域は、海外からの送金(大半は日本から)である。海外からの送金と援助の総額は36000万ドル(2003年)と推定されている。これまでにあげてきた武器輸出、麻薬密輸・偽札作りへの対策と比べれば、この送金と援助は各国政府が政策によって制限できる手段である。米国とドイツ、日本、韓国の協力で北朝鮮およびブラック・マーケットに影響を与えることができるのである。2002年から2003年にかけて米国と日本の働きで、北朝鮮への援助は25800万ドルから16000万ドルに減った。朝鮮総連からの送金が、これまで北朝鮮体制を支えてきた。公安調査庁は、年間65000万ドルから85000万ドルが朝鮮総連から送金されていたという。しかし、この数年、日本は北朝鮮との経済的なパイプラインを切ろうとしている。北朝鮮への送金窓口となっていた足利銀行もその業務を2002年に停止、マンギョンボン号など北朝鮮籍船舶への監視も強まった。

 これに対し、韓国は正反対の方法をとっている。北朝鮮への直接支援は62200万ドル(96年から2004年)を超え、それ以外にNGOも32100万ドルの援助を行なっている。また北朝鮮との間に鉄道が開通するが、その鉄道を通じて、不法な送金が増えることも考えられる。

 

戦略のための提案:中国の思惑を超えて

 米国と北朝鮮の会談では多国間協議あるいは二国間協議が焦点となっている。しかし、この方法は誤ったものだ。北朝鮮は、協議において常に「現状が悪化する」という脅しをかけてくるからだ。核開発を議題の中心にすえることで、北朝鮮は経済的な利益と現体制の維持をめざしている。これに対して必要なのは、米国と韓国が共同アプローチをとることだ。韓国は「太陽政策」をとり、国民の中にも米韓関係よりも北朝鮮との関係を重視するという声が強い。北朝鮮は、米国と韓国の戦略の違いを利用してくる。

 北朝鮮に入り込む外貨(米ドル)は、現体制指導者層の収入となっており、この外貨収入への圧力が必要なのである。そのために米国と日本が主導権をとって、経済制裁を含む手段を実施し、韓国もそれに習うことが望ましい。

 しかし日本は、小泉首相の訪朝にみられるように、一貫した対北朝鮮政策をもっていない。ただし拉致問題解決のために、自民党は経済制裁を提案している。日朝の国交正常化で北朝鮮は新たな経済的利益を求めている。米国にとって、日本と韓国が北朝鮮との国交を正常化することは好ましいものではない。

 影響力が低下しつつあるとはいえ、中国の動向も重要である。難民流入と米軍基地への警戒心を抱く中国は、現状が続くことを望んでいる。

 

北朝鮮が現状維持を求めないようにする

 これまで北朝鮮は交渉において「分断統治」作戦をとってきた。したがって、米国・中国・韓国・日本の共同行動こそが、北朝鮮の態度を変化させるために必要である。そして、米国は、武器輸出、麻薬、偽札、海外送金から成り立つ北朝鮮の違法経済を解体させることで核放棄を実現させるように、協議の枠組みを変える努力を開始すべきである。

(抄訳 文責 連合北海道  原文はこちら