<労働判例研究> −06.09−
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構事件(非常勤職員再任用問題)
東京地法裁判所 平成18年3月24日判決 労判915号5頁

北海道大学労働判例研究会
佐久間 ひろみ(北海道大学大学院/社会法研究会)

 【はじめに】
 本判決は、1年間の期限付の非常勤職員として被告に任用された原告が、その後13回にわたって任用が更新されたにもかかわらず、14回目の更新がなされないのは違法であるとして争った事件である。従来から、公務員の非常勤職員の任用関係は民間とは異なるため、雇止めの違法性が認められることはほぼなかった(一部損害賠償が認められた事例はある)。このような流れのなかで、本件は被告の再任用拒否が違法であるとして、Xの非常勤職員たる地位を認めた初めての判決である。

【事実の概要】
 原告Xは平成元年、1年間の期限付き事務補佐員として国の機関である学術情報センターに任用された。その後、学術情報センターが改組され、国立情報研究所になったのちも、同様に任用が繰り返されたが、平成15年3月をもって任用を更新しないとされた。そこでXは、XとYとの任用関係は労働契約関係であり、解雇権濫用法理が類推されるところ、本件更新拒絶は違法であること、仮に任用が公法的任用関係であったとしても、本件更新拒絶は信義則・権利濫用にあたり違法であることを主張して、Yに対し地位確認を求めた。
 なお、国立情報研究所は平成16年4月に独立行政法人化したことにより、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(Y)へと移行している。

【判旨】
地位確認請求認容
 Xは、学術情報センターに人事院規則で定める非常勤職員として任用されていることから、その勤務関係は公法的任用関係であるとされた。その上で、任用更新拒絶の違法性については、特別な事情が認められる場合には任用をしないことが信義則違反・権利濫用となり、認められないとした。特別な事情とは、@1年間の期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬ場合A不当・違法な目的を持って任用更新を拒絶する場合B任用更新拒絶が著しく正義に反している場合であるとし、本件の場合13回任用更新がなされていること・最後の任用更新をする際に、雇止めを決定していたにもかかわらずそれをXに伝えていないこと等から特別な事情が認められ、本件任用更新拒絶は違法であるとし、Xの地位確認請求が認容された。

【検討】
 民間の有期雇用の場合、その雇止めには解雇権濫用の法理(労働基準法18条の2)が類推適用されるため、使用者は期間満了を理由に雇止めをすることが当然には認められていない。したがって、有期雇用といえども民間の場合は一応救済の道が開かれているといえよう。しかし、公務員の非常勤職員の場合、従来の判例では任用更新拒絶の違法性が認められることはなかった。そのため、何年も更新が繰り返されたとしても、更新拒絶を制限する法理はないため不安定な立場を強いられてきた。本件は、このような現状に一定の歯止めをかけた点で、画期的な判決である。
 しかし、本判決の論理構成では、公務員の地位が認められるかは疑わしいものがある。公務員の場合、勤務条件法定主義等が適用されるため、上司が期待を持たせたという理由で更新拒絶が許されないとすると、これに反する恐れもでてくる。この点を今後どのように考えるかが、公務員の非常勤職員の地位の安定を考える際の重要な課題であるといえよう。


※ この判例研究は北大の道幸研究室の協力により、毎月1回掲載されます。