<労働判例研究> −06.04−

ビル代行(宿直勤務)事件
東京高判平17.7.20労判899-13 原審:東京地判平17.2.25労判893-113

                北海道大学労働判例研究会
                安部薫道(北海道大学大学院 )
【はじめに】

 労働基準法(以下、労基法)上の労働時間とは、一般に、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指す。問題は、ビル警備員などの「仮眠時間」である。何もなければ寝ていられるが、緊急事態が起これば対応が求められる。大星ビル管理事件(最一小判平14.2.28)は、「仮眠時間」が「指揮命令下」にあると評価される際の基準を示した。同判決は、原則として、「労働からの解放が保障」されていなければ使用者の指揮命令下から離脱しているとはいえないという。ただし、実作業の発生が、「皆無に等しいなど実質的に」役務提供が義務づけられていないと評価できる場合には、例外的に、労働時間には当たらないともいっている。 
本件では、その勤務実態からいって、前掲最判のいう「例外」に当たるかどうかかが問題になった。

【事案の概要】

 原告Xらは、被告Y社の従業員として拘束時間24時間の宿直警備業務に従事していた者であり、一回の勤務につき仮眠時間を4時間与えられていた。警備業務は4人一組で行い、深夜時間帯は2名ずつ仮眠室において仮眠することとされていた。その際、仮眠室には警備本部との連絡が取れるよう内線電話が設置されていた。
本件は、Xらが、この仮眠時間が労働時間に当たると主張し、Yに対して雇用契約または労基法37条に基づき、時間外、深夜割増賃金の支払いを求めて提訴したものである。
原審は、本件仮眠時間が労働時間に当たるとし、請求をほぼ認容した。裁判所は、前掲最判の判断基準を引用した上で、本件では、警備員の配置からすると何か起こったときには仮眠者が対応せざるをえず、また、実際にそうであったのであるから、Xらには労働契約上、仮眠時間中の緊急対応等が義務づけられていたとし、労働からの解放が保障されていなかったと判断した。そこで、Yが控訴した。

【裁判所の判断】
仮眠時間の労働時間性を否定。
前掲最判の「原則」に加えて、原審の言及しなかった「例外」の判断基準を引用し、本件においては、仮眠時間がとられる深夜の「業務量は少なく、一定の限られた業務しか発生しない状況にあ」り、実際、仮眠者が出動したこともないと判断して、結論として労働時間性を否定した。

【検討】
 
 本件は、前掲最判の判断基準へのあてはめに際して、一審と二審とで結論が異なった点が特徴的である。すなわち、原審が、「原則」にあてはまると判断したのに対し、二審は「例外」に当てはまると判断した。「例外」にあてはまると判断した判例は、おそらく本件二審が初めてであろう。
判断の分かれた最大のポイントは、二審が、実際に仮眠時間中の出動がなかったという事実認定をした点と、事実の評価として、業務量は少なく仮眠者が対応せざるをえない状況にはなかったと判断した点にあろう。
 しかしながら、たとえ仮眠者が対応せざるをえない状況にないと評価され、また実際に対応の実績がなかったとしても、当該労働者は場所的に拘束されているのであり、この点をどう評価するのかという問題が残る。

※ この判例研究は北大の道幸研究室の協力により、毎月1回掲載されます。