<労働判例研究> その4 −06.01−
オークビルサービス事件
東京高判平16.11.24 労判891-78 原審:東京地判平15.5.27 労判852-26
北海道大学労働判例研究会
所 浩代(北大大学院)
(事実の概要)
夫婦住込みマンション管理員として雇用されていたXは、管理会社Yの指示により、朝9時から夕方6時までの通常の管理業務を行う他に、早朝や深夜といった所定労働時間以外にも、ごみ置き場の鍵の開閉、マンション内のテナントの冷暖房の開始停止、居住者不在のため一時預かりしていた宅配物の交付等のマンション管理業務を行っていた。毎日のXの管理業務従事時間は、これらの作業時間を含めると、1日約15時間にのぼったが、Xの労働時間は、1日8時間と算定されていた。本件は、XがYに対し、午前7時から午後10時までを労働時間として算定した未払い割増賃金の支払いを請求したものである。ただし、Xには、通院・犬の散歩等で職場を離れた時間があり、また、Yは、土日は夫婦どちらか1名で業務を行うよう指示していたが、Xは住民の要望に応じて、平日に休日振替を行っていなかった。原審は、Xの請求をほぼ認容し、平日か土日かに関わらず、夫婦双方の午前7時から午後10時までの労働時間を認定したうえ、未払賃金の支払を命じた。控訴審では、Xの職場離脱時間を労働時間に含めるべきか、Xの休日の割増手当算定額をどのように算定すべきかが問題となった。
〈裁判所の判断〉
夫婦住込みの形態でマンションの管理業務に従事する場合、その管理業務の遂行は、労働者の日常生活と一体をなすものであるから、労働者の一方が所定時間内に、日常行動のため時間を割くことも、業務の性質上当然に予想されることである。このような職場離脱時間は、長時間にわたらない限り、Yの指揮命令権が及んでいる労働時間と認められる。日曜の労働時間については、ある程度の管理業務が行われたと認められるが、Xら二名分の労働時間を認めるのは過大であるため、Xらのうちの「1名」によりなされたものと認めるのが相当である(割増手当の「1名分」は、Xらが二分の一ずつ業務を行ったものとして計算することとする。)
〈検討〉
労働時間は賃金算定の基礎であるから、労働者にとって自らの労働時間は、重要な関心事である。しかし、労基法上に労働時間の定義規定はない。判例上は、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であるという判断基準が主流となり、加えて、ビル警備員の仮眠時間の労働時間性が争点となった大星ビル管理事件最高裁判決では、実作業に従事していない仮眠時間のような不活動時間であっても、労働のからの解放の保障がされていない場合には、労働時間にあたるという判断がなされている。
本件のマンション管理員の場合は、自らの日常生活を営みながら管理業務に従事するという特殊な就労であり、1日のうち作業時間と生活時間が混在している。つまり、1日のうちどこまでが「使用者の指揮命令下」にあるのか判断が非常に困難なケースである。本件の裁判所は、作業命令の有無に着目し、労働時間とは、使用者からの明示または黙示の具体的な作業命令がある時間であり、作業間の自宅待機時間も労働時間に含めると判断した。判断のポイントは、管理員の通常業務は、会社が作成したマニュアルによって、作業開始時間及び内容が具体的に規定されていたことと、会社は、管理員が時間外や休日にも業務に携わっていたことを黙認していたことの2点である。他のマンション管理員の裁判では、マニュアル等具体的な作業命令がないこと等の理由から、自宅待機時間を労働時間から除外した判断がなされた。つまり、使用者から、住民対応は原則管理委託時間内に行い、緊急対応以外は時間外労働を控えるよう業務命令がだされている場合は、実際に業務上避けられなかった作業時間のみを労働時間と判断される可能性がある。
この他に、実際に作業に従事していない時間の労働時間算定が問題となり得るケースとして、飲食店の給仕係の手待時間や、夜間勤務の看護士の仮眠時間等が挙げられる。
その4 以上
※ この判例研究は北大の道幸研究室の協力により、毎月1回掲載されます。
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