<労働判例研究> その3 −05.12−
東京地労委(日本アイ・ビー・エム〔組合員資格〕)事件
東京地裁平成17年2月24日判決 労働判例892号29頁
北海道大学労働判例研究会 平賀 律男(北海道大学大学院)
<事件の概要>
一審被告A会社と同原告X労働組合の間の労働協約は,組合員の範囲を「ライン専門職および専任以上のスタッフ専門職は非組合員とする」(以下,本件条項)と規定していた.協約締結から10年が経った時点で,X組合員の半数近くが専任の直下の職位にまで昇進していたため,本件条項は組合員の昇進の障壁となっていた.そのため,X組合は本件条項の廃止についてA会社と交渉を重ねたが,A会社はX組合の要求に応じなかった.そこでX組合は本件条項のみの解約を通知したが,A会社は,労働協約の一方的な部分解約は認められないとの立場をとった.
ところで,専任以上のスタッフ専門職3名は,退職勧奨や不本意な配置転換を示唆されたため,X組合に加入した.それに対しA会社は,彼らのチェックオフ拒否,執行委員就任撤回と名簿の訂正要求,処分の通知を行った(以下,本件各行為).
X組合らは一審被告Y地労委に対し,本件各行為が不当労働行為にあたるとして救済を申立てたが,Y地労委は申立を棄却した.X組合らはこれを不服とし,東京地裁に命令の取消を求める訴訟を提起した.地裁は,X組合の請求を全面的に認容し,不当労働行為の成立を認め,Y地労委の命令を取消した.そこでY地労委は東京高裁に控訴した.
<裁判所の判断>
原判決取消し.
まず,協約の一部解約は有効であると判断した.そして,不当労働行為の成否については,会社に組合を害する積極的意図は必要でなく,反組合的な結果の発生に対する認識があればよいが,労使関係の実情や当事者の認識等の考慮をも行うという立場をとり,A会社には不当労働行為意思がなかったため本件各行為のいずれも支配介入に当たらないとして,不当労働行為成立を否定した.
チェックオフ拒否は,組合員の中にはX組合が直接組合費を徴収していた者もおり,この拒否が組合活動に及ぼす影響がほとんどないことや,本件条項のみの解約は許されないとA会社が考えるのも無理はないことを理由に,また,名簿訂正要求や処分の通知も,A会社がスタッフ専門職には組合員資格がないと考え,その考えに従って行動することを不当労働行為意思の表れと見るべきでないという理由で,それら行為の不当労働行為性を認めなかった.
<検討>
この事件では,組合員資格の有無が定かでない労働者に対して会社が行った反組合的行為が不当労働行為にあたるかが問われた.裁判所は,協約締結時の事情や,協約の一部解約の有効性に対する疑問から,A会社がスタッフ専門職の組合員資格を疑ったのも仕方ないので,A会社には不当労働行為意思がなく本件各行為は不当労働行為でない,と考えている.
しかし,不当労働行為事件では,裁判所のように「協約の一部解約の有効性」や「A会社の不当労働行為意思の有無」など論点を切り分けて判断せずに,不当労働行為の成否との関連で会社の行為を検討すべきだ.組合員の範囲に争いがある本件では,組合がスタッフ専門職の組合員資格を求める経緯や目的を重視して考察する必要がある.
そもそも組合員の範囲は組合が自主的に決定しうる部分なので,労働協約によってそれを定めること自体が問題だといえよう.組合が,組織化の対象を専任以上のスタッフ専門職にも広げなければならないと考えて,協約の一部解約を求めたという目的,あるいは繰り返し本件条項の解約を会社に要求したが拒否され,その後交渉を重ねたが結実しなかったため,やむなく一部解約をした経緯等を考慮して本件各行為の不当労働行為性を検討すべきであろう.そうすれば,本来協約で定めるに適さない組合員資格の範囲に会社が拘泥して本件各行為に及んだことが認められ,また本件各行為は,組合が持っている自主的に組合の範囲を定められる組合の自治を不当に侵し,組合の自主性を損なわせるルール違反の行為であるから,支配介入の不当労働行為にあたるといえる.
その3 以上
※ この判例研究は北大の道幸研究室の協力により、毎月1回掲載されます。
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