<労働判例研究> その1 −05.10−

日本プロフェッショナル野球組織(団交応諾仮処分)事件

東京高裁平成一六・九・八決定(労判八七九号九二頁)原審・東京地裁平成一六・九・三決定(判例集未登載)

北海道大学労働判例研究会
山田 哲(北海道大学助手)

<事実の概要>
 本件は、日本プロフェッショナル野球組織(以下、プロ野球組織・Y)を構成する球団のうち、大阪近鉄バファローズ(以下、Bu)とオリックスブルーウェーブ(以下、BW)両球団の合併が、プロ野球選手会抜きに一方的に両球団から発表されたことから、プロ野球選手会(X)がYに対し、「XがYに対し団交を求める地位にあることの確認」等の仮処分を提訴した事件である。そこでの交渉事項は、「1 Yに属するBuとBW間の営業譲渡および参加資格の統合に関する件(選手の解雇、転籍を不可避的に伴う営業譲渡及び参加資格の統合を回避すること等を含む)」および「2 前項の営業譲渡及び参加資格の統合に伴うX1、X2、X3を含むX組合員の労働条件に関する件」である。

<裁判所の判断>
 原決定は、Yの交渉当事者としての適格性を肯定した。それは、平成一六年三月三日に都労委でXY間で和解が成立して以来、両者の間で選手の待遇に関すること等について団体交渉を行ってきたことが認められるという理由による。また、交渉事項が「義務的交渉事項」たりうるかについては、2について肯定する一方、1についてはもっぱら企業の経営に関する事項であり、「Yは、本件営業譲渡及びこれに伴う本件統合に関する契約の当事者でもない」として否定した。そして、仮処分命令の必要性につき、「Yは、Xとの間の団体交渉に応じており、少なくともこれを拒否しているというような状況にはない」として否定しXらの申立てを却下したため、これを不服とするXらは高裁に抗告した。
 高裁は、原決定を引用しYの交渉当事者としての適格性、交渉事項2の義務的交渉事項該当性を肯定したほか、交渉事項1についても「Y組合員の労働条件に係る部分は、義務的交渉事項に該当すると解される」と判断した。ただし保全の必要性については、交渉事項の義務的交渉事項該当性を判断すれば実質的な団体交渉の開催が期待される、として否定した。

<検討>
 日本ハムファイターズの札幌移転、駒大苫小牧高の夏の甲子園2連覇など、道内でこれほどまで野球に対する関心が高まった時期はあっただろうか。全国的にも、「プロ野球改革元年」といわれた昨年は、Bu、BW両球団の合併、そして楽天の新規参入、遡って「栄養費」の問題など、世間の注目を集める動きが目白押しであった。本決定は、一連のプロ野球改革を方向づけるという意味で、重要な役割を果たした裁判所の判断ということができる。
 結果的にはプロ野球組織は選手会との「団体交渉」を経て、合併・新規参入という手法により、セパ各6球団の体制が当面維持されることになった。その限りでは、近鉄球団の存続は叶わなかったものの、選手会側の目論見はある程度達成されたといえる。ただし、それは同時に、日本球界初のストライキに突入するという痛みを伴うものであった。札幌でも日本ハム−大阪近鉄のゲームがキャンセルされた。球団消滅の怨念とともに、中止された試合のチケットをそのまま保存している(元)近鉄ファンは、私だけではないだろう。
 さて、本決定は交渉事項1という経営判断にわたる事項についても、「選手契約に関する事項」という限定付ではあるものの、義務的交渉事項であると判示した。その背景には、本決定に先立つ都労委和解において、「野球界発展のための改善策」についても団交事項とする旨の合意がなされていたこともあると考えられる。
 労働条件決定に関与するのみならず、経営にわたる事項についてまで積極的に関与しようとする選手会の姿勢は、従前の使用者サイドによる一方的決定に対する異議申立である。それと同時に、自らもプロ野球会における改革の担い手たるべきという強い信念に裏付けられている。しかし、残念なことに来春開催予定のワールドベースボールクラシックへの参加問題など、プロ野球組織側はなお一方的決定の姿勢を崩していないように見受けられる。選手会の苦闘はまだまだ続きそうである。

その1 以上

※ この判例研究は北大の道幸研究室の協力により、毎月1回掲載されます。