2008春季生活闘争の中間まとめ(案)
2008年6月30日 第38回地方委員会
 
<はじめに>
@ 連合は、格差社会からの脱却をめざし、賃金の底上げと格差是正に結びつく賃金改善、非正規労働者の処遇改善や正社員化、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた労働時間の短縮、割増率の引き上げ等に取り組むことを2008春季生活闘争方針として決定し、労働分配率の反転攻勢をめざし総力を挙げて闘争を推進してきた。同時に春季生活闘争の役割は、社会的な分配のあり方に労働組合として積極的に関与し、内需拡大などマクロ経済への影響力を発揮することにあり、マクロ的には労働側に実質1%以上の配分の実現をめざし、経済成長に見あった配分の追求を通して、非正規労働者を含むすべての勤労者への適正な成果配分を実現するとの基本的な考え方を確認し闘争に臨んだ。
 
A 北海道の闘いは、07年12月に方針を決定し、経済規模の縮小と雇用情勢の「低位安定」や非正規労働者の増加など、好景気の本州各地方とは正反対の経済状況のもとながら、地域間・企業規模間の格差是正を大きな目標に08春季生活闘争を開始した。
 賃金改善の闘いは本部の設定した「到達すべき水準値」を参考として示し、平均賃上げだけではなく水準も重視した取り組みとした。パートの処遇改善は、時間給の改善目安として、絶対額1,000円程度、引き上げ額は昨年を上回る25円程度としたのをはじめ、改正パート労働法を上回る改善要求として、正社員転換制度の導入や通勤手当の改善等とした。また、要求のなかに燃料手当の差額支給や賃金改善への加味を取り組んだ。
 これに対し、北海道の経済団体は、連合北海道の「積極賃金改善こそが北海道経済の回復を実現する」との意見に真っ向から対立し、「北海道の景気は回復基調にない」との主張を繰り返した。
 
B 交渉を取り巻く環境は、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な景気の先行きに対する不透明感に加え、年明け以降、株安、円高(対ドル)が続き、さらに、原油高、原材料高の影響は、企業経営を圧迫し消費者物価を上昇させる等、厳しい環境となった。
 消費者物価上昇率は、生活必需品である食料及びエネルギー関係を中心に上昇し、2007年度は全国で対前年度比0.4%、北海道では3月に+2.3%の上昇となり、ガソリンや灯油、及び食料関連の値上げが、これまでの医療費の負担増や定率減税廃止などとともに低所得者層を中心に生活を直撃する状況となった。これら諸物価の上昇に対して連合北海道は、「灯油などの石油製品価格の引き下げと道民生活の安定を求める緊急全道集会」を開催するとともに、政府に原油価格高騰に対する緊急対策の申し入れを行った。また、北海道労働金庫は「家庭用燃料等の購入に係る特別融資制度」を緊急に取り組み、年金生活者など651件の低利融資をおこなった。この融資は次の需要期にも取り組まれる予定となっている。
 
T.2008春季生活闘争の結果と評価について
 
1.賃金をはじめとする労働条件の取り組み
@ 今年の闘争は、労働側は社会的な分配の歪みの是正、内需拡大による安定成長の実現、さらには格差是正、底上げを行うという観点から闘争を進め、一方、経営側は「国際競争力の維持」「月例賃金の改善は固定的なコスト増」や「成果配分は一時金で」などを基本的な考えとし、北海道では北海道経済の低迷を最大の理由に、「消費の回復による景気回復」という大局的な判断にまで踏み込もうとせず交渉は難航し、今も難航している。
 連合全体のこれまでの結果から、今次闘争においてめざした社会的分配を是正する観点から見れば、労働分配率の反転や分配の歪みの是正、可処分所得の増大をめざした観点では、不十分な結果と言わざるを得ないとの評価を表明している。
 
A 北海道の賃金改善の闘いは約350の地場単組がエントリーし、集中決戦方式で取り組んだが、全体で昨年比マイナスの結果となっている。しかし、3月12日〜15日までの最大のヤマ場において、多くの回答を引き出した中央産別や地場の流通などの努力の結果、社会的相場形成に一定の役割を果たし、また、地場集中決戦ゾーンでは3年連続賃金改善を行い、その流れを定着させたことは、今後の運動につながるものといえる。しかし、9年連続で平均賃金が低下している中で、その低下傾向に歯止めをかけることができたか、あるいは諸物価高騰に対し十分対応する賃金改善の結果が得られたかなど、賃金水準そのものや比較方法の検証とともに、生活に根ざした賃金改善を求める根拠についても、検討が必要である。
 北海道における取り組みとしては、初めて「全道中小労組 情報交換交流会」を開催し、メールによる全国・全道の回答・妥結情報などを周知する取り組みや、4月から本格化した交渉を促進するため、各地で「解決促進集会」等に取り組んだが、「木の城たいせつ」の大型倒産など経済環境が引き続き低迷し、さらに諸物価や燃料費の高騰などが悪化する情勢のもとで極めて苦しい交渉となっている。
 
B パートの均等待遇や処遇改善は、時間給の引き上げで昨年をわずかに上回ったが、諸物価高騰の環境にあり個人消費の影響を強く受ける内需産業中心であることを踏まえれば、厳しい環境の中で精一杯頑張った結果といえる。この時間給の引き上げを最低賃金の引き上げにつなげる努力に取り組む必要がある。さらに、パート労働法や労働契約法の施行を受けて、様々な対応が行われた。特にパート労働法では、「3要素による4区分」によって差別禁止と義務・努力義務・配慮義務・実施義務などが規定され、各職場における点検と、連合方針に基づく「法を上回る労働協約獲得」が取り組まれ、一定の成果を上げつつある。
 
C ワークルールの取り組みでは、連合全体として労働時間短縮で成果をあげた組合が昨年に比べ増加し、また、適正な時間管理についての労使交渉を要求する組合も増加している。長時間労働の是正や不払い残業撲滅に対する取り組み、労働時間管理の徹底など、ワーク・ライフ・バランス実現に向けた取り組みの広がりといえる。中央では、長時間労働是正のため割増率の引き上げに取り組んだ割増共闘(16産別)は、一部の組合とはいえ前進回答を引き出したことは、今後の運動展開への下地づくりになったが、一方、多くの組合で継続協議となった。このことは、割増率に対する受け止め、長時間労働是正の施策の違いなど労使の見解に大きな隔たりがあり、今後、粘り強く取り組みを展開する必要がある。これから交渉予定の産別もあり、その結果を踏まえ、労働時間に関わる具体的な運動推進につなげていくこととする。
 
D 今年度から新たに設置された「非正規労働センター」では、「実質1%以上の配分の実現」「非正規労働者を含むすべての勤労者への適正な成果配分」「未組織を含む全雇用者を視野に入れ、全体の底上げ」「法定最低賃金を生活可能な水準に引き上げる。企業内最低賃金協定の締結、改定に向けた取り組みを強化」などを基本目標にして、非正規労働者の雇用・労働条件の改善と勤労貧困層の解消等に関する要請行動や、非正規労働者に関する08春闘激励行動、2回の“なんでも労働相談”に取り組んだ。また、5月下旬には全道6コースで“ストップ・ザ・格差社会「反貧困全道キャラバン行動」”を実施し、最賃や非正規労働解消について自治体をはじめ地域経済団体に要請した。また、3月以降は「木の城たいせつ」の大型倒産による解雇者の賃金確保に精力を注いでいる。
 
 
E 2008春季生活闘争は、地域においていまだ闘いの途中にあり、地場中小労組に未解決の組合が残されている。また、公務員や国営関係部門においてもすべてで決着しているわけではない。連合北海道は、引き続き未解決組合に対する支援を産別・地協・地区連合と連携して行っていく。
 
 
2.政策・制度要求の実現に向けた取り組み
 
@ 昨秋以降の灯油等石油製品価格の急騰が、本格需要期を迎えて道民生活や産業活動への影響が懸念されたため、道内各界・各層との連携による生活危機突破集会を開催して世論喚起をはかるとともに、民主党との共同で国や道、各市町村に対する要請を行い、福祉灯油制度の新設・拡充や便乗値上げへの監視、価格安定対策の強化を求めてきた。
 その結果12月25日、国は原油価格高騰に関する緊急対策をとりまとめ、福祉灯油制度への特別交付税措置を決めたことから、政令市と中核市を除く大半の自治体で制度が導入されることとなった。また、2008年度政府予算に関わる国会論議のなかで、道路特定財源と租税特別措置法が争点となり、我々が廃止を強く要求したガソリン税の暫定税率は3月末で一旦失効したものの、与党が国民生活を顧みることなく再議決を強行して復活させた。
 原油高の長期化が予想される中、漁業者は出漁しても採算が取れず廃業の危機に直面しているなど産業活動への深刻な影響が現れているほか、道生協連は灯油価格は今冬一リットル130円前後になると予測しており、燃料・原材料価格の高騰が物価を押し上げ、今後、家計へのさらなる負担増を強いるおそれがある。
 
A STOP!THE格差社会キャンペーンとして最も重視した政策課題は、地域医療を守り、安心して住み続けることが出来る地域社会の基盤を確保することである。
 国の医療費抑制政策が深刻な医師不足と病院経営の悪化を招き、地域で必要な医療が受けられないという医療の地域格差が拡がっている。さらに昨年、道が示した「自治体病院等広域化・連携構想」や「道立病院改革プラン」によって、地域の不採算医療や救急医療を担ってきた自治体病院等のあり方が今春以降、本格的に地域で検討されている。
 連合北海道は地域医療を守る対策委員会を設置して、広域化・連携に関する地域検討への参画を道と地協段階で再三求めたほか、地域医療シンポジウムの開催や、5月末の全道キャラバンを起点として、地域医療を守る100万人署名やチラシ配布など大衆行動を展開している。地域段階でも対策委員会が設置され、積極的にシンポジウムや集会、行政への申し入れを行うなど、幅広い取り組みが進められている。
 
 
3.北海道の独自課題の取り組み
 
 2008春季生活闘争方針に掲げた独自の取り組みについては、未だ取り組みの途中にある。したがって、今後も様々な取り組みを通じて、課題解決に向かうこととするが、これまでのなかで、以下の取り組みと状況となっている。
 
@ ハイタク労働者の労働基準の各区率と最賃違反の根絶では、「北海道ハイタク協議会」を中心に、2007年12月から札幌等で料金値上げが行われたことを受け、この料金値上げが「従業員の労働条件改善」をうたっていたことの検証を継続している。また、今後、中央交渉や9月には道民アピールなどの諸行動を計画している。
A 季節労働者の短期特例一時金存続と援護制度では、国の通年雇用促進支援協議会事業の円滑な展開と北海道季節労働組合の存続の2課題について、「北海道季節労働者支援センター」を設置して進めることとしている。
 
B トラック・バス輸送における安全の確保とワークルールでは、燃料費高騰の環境激変やガソリン等暫定税率の廃止と復活に大揺れしたが、関係産別の取り組みを支援しつつ、9月にはバス・シンポを開催する準備を進めている。
 
 
U.秋の闘いの強化と2009春季生活闘争方針の策定に向けた課題
 
@ 灯油やガソリン・軽油等の石油製品の価格暴騰は、ガソリンは170円以上、軽油も150円、生活に直結する灯油が全道平均で約106円になるなど、空前の史上最高値を更新し、さらに上昇する情勢にある。(別表)その影響は、道民生活各般にわたって大きく、学校や福祉施設、公共施設での暖房費の他、物品流通の全ての過程や北海道の基幹産業である一次産業でも、経費を大幅に引き上げている。
 今後、食料や飼料の輸入価格の高騰による製品価格の相次ぐ引き上げなどと合わせ、全国平均の2倍にもなる道内諸物価の高騰が、さらに組合員の生活に影響することは必至である。北海道では燃料手当交渉がまもなくはじまるが、実勢価格による支給や支給量の確保などで交渉が厳しくなることが予想される。また、自家用車通勤の実費支給(ガソリン等の代金)でも既にマイナス差額が生じていることがあり、この是正も緊急な課題である。
 秋は地域最低賃金の大幅引き上げや公務員の人事院勧告闘争の時期であり、さらに年金・医療制度などの重要課題を抱える臨時国会が前倒しで開かれるなど、生活と社会保障の転機を迎えることになる。 「生活防衛・格差是正・安心の社会制度を実現する」ための秋季闘争を準備し、道民世論の喚起と政府・道交渉などを強める必要がある。
 
A 2009春季生活闘争の環境は、景気は踊り場あるいは下降局面と言われる中で、生活必需品を中心に物価上昇が鮮明になり、労働者の生活はさらに圧迫されているもとで闘争を推進する可能性が大きい。これまでの格差是正や底上げに向けた運動の基本的な考え方を引き続き堅持するとともに、生活防衛、未組織労働者や非正規労働者への波及方法など、さらには労働組合として社会的役割を含め議論を深めながら方針策定に臨んでいく必要がある。特に北海道は景気の回復が全く見られないうちに再び下降局面に立たされることなるが、組合員の生活を維持し地域経済に寄与する賃金改善闘争について、十分な準備をする必要がある。
 
B 方針策定に関し、具体的な論点としては、消費者物価上昇率と実質賃金の確保、個別賃金水準の引き上げ、情報開示と波及効果などが考えられる。連合全体としては、格差是正、底上げをはかる観点から、一時金に比べ社会的波及効果の高い月例賃金の引き上げに取り組むが、同時に個別賃金水準を重視した取り組みを進めていくこととしている。また、それぞれの職場では、成果主義を中心とする現在の賃金制度の評価がわかれ、若年者の定着などで課題を抱える実態もあり、新たな賃金制度について待ち望む声も強い。連合中央の「新賃金政策(仮称)」の討議に期待するとともに、北海道全体でこの議論に参加していく必要がある。
 
C 連合北海道の春季生活闘争における基本的な役割は、地場中小労働者の賃金格差是正にあると位置づけてきた。そのためには、それぞれの企業内における賃金実態を的確に把握し、その分析にもとづき具体的に交渉を行っていく体勢をつくる必要があり、中小共闘(労働条件委員会)を中心に、情報交換体制の拡充や「ミニマム賃金調査」などを通じ実態の把握の取り組みを強化する必要がある。また、下請け取引改善や、公契約・総合入札など公共サービスにおける賃金レベル確保の取り組みについても、非正規労働センターと連携し、産別、地協・地区連合と協力して運動を進める。
 
D パート共闘(労働条件委員会)は、非正規労働センターを中心に、取り組み課題の重点化や「パート等非正規集会」を情報交換の「場づくり」として拡大していきたい。またパート労働法の差別禁止の遵守や義務化の徹底などとともに、法を上回る協約の獲得もめざす。連合の中期的取り組み指針(2008/7策定)も踏まえ、これまで以上に運動の拡がりを図りながら、組織拡大に結びつく一層の取り組み強化が必要である。また、企業内最低賃金は、企業内賃金条件の底上げや均等待遇にもつながる取り組みであるとともに、地域・産別の法定最低賃金の引き上げに連動する重要な闘いであることを認識し、改善と締結促進に取り組む必要がある。また、諸物価高騰にあわせ、連合リビングウェイジの見直しを進めていく必要もある。
 
E ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、長時間労働を是正する労働時間の短縮に強力な取り組みが必要であり、中期時短方針(最低到達目標)の具体化に向けた検討と同時に、不払い残業の撲滅、労働時間管理の適正化等の取り組みや、36協定の適正化や特別条項の見直し、労働時間管理の徹底についても、粘り強い取り組みを展開していかなければならない。引き続き継続審議となっている改正労働基準法の国会対応を強化するとともに、「平日50%、休日100%」の達成に向けて運動を展開していくことが重要である。また、女性の賃金・処遇改善について、男女間の賃金格差をはじめ、様々な賃金格差を是正するために、賃金分布などの実態を把握し、課題の克服に向けた通年的な取り組みを進め前進をはかる必要がある。このため、男女平等局と女性委員会で具体的な取り組みについて検討を行う。
 
F 労働基本権については、産別ごとに対応の違いがある。しかし、その権利については、労働組合に与えられたものであり、それにこだわる取り組みが必要な情勢にあると感じられる。公務員への労働基本権付与は国家公務員に5年以内に実現する可能性が高くなった。地方公務員にも同様となるだろう。そして、諸物価・燃料費高騰や政府による国民負担の拡大により、官民問わず、実質賃金の目減りに対する組合員の怒りは高まりつつある。2009春季生活闘争は「生活防衛」を基本にして、社会の枠組みを大きく変える闘いとしなければならない。
以 上