U.情勢と課題
一、国際情勢
 
1.世界同時金融危機の到来と新自由主義の破綻
@ アメリカのサブプライムローン問題【MEMO】に端を発し、2008年、世界は同時金融危機に陥りました。
  金融システムのみならず、実体経済と雇用への打撃は世界に広がり、GDPの低下、失業率の上昇が深刻な問題となっています。世界中が今、金融機関への公的資金の投入、雇用対策や減税など緊急対応に追われています。
A 1980年代のレーガン・サッチャーに象徴される新自由主義の政策思想によって、米英主導で進められた市場原理主義は、あたかもグローバルスタンダードであるがごとく急速に世界に浸透しました。市場は万能との発想のもとで、社会は制御を失い、企業はステークホルダーの存在を無視して利益最優先、株主利益最優先の経営を行い、モラル無き過当な競争を繰り返した結果、公正さや安心、安全といった社会の基盤を揺るがしてしまいましたが、社会に持続可能性をもたらさない新自由主義の発想に支配された経済は、暴走の末、今回の金融危機により破綻しました。
B アメリカにおいては、リーマンショック【MEMO】以降、巨大金融機関に公的資金が投入されるとともに、その影響は製造業にもおよび、GM 、クライスラーの経営破綻、国有化という未曽有の事態を招きましたが、ここにいたりバーナンキFRB【MEMO】議長は、経済は完全に底を脱したと発言しています。
C しかし、問題なのはアメリカの失業率が依然として9.7%と高水準にあって、今後、アメリカ経済がX字型の回復を示すとは考えにくい状況にあります。また、EU経済は、アメリカ以上に深刻であり、東欧の新興国を抱えたEU経済の回復は、まだまだ深刻なものがあります。
【MEMO】
1)サブプライムローン問題/ 所得や信用力の低い人向けの高金利住宅ローンで、主に米国の住宅バブル時に普及しましたが、住宅バブル破綻により担保価値を裏付けとした借り増しや借り換えができなくなったことや、FRBが実施した利上げによってローン金利が上昇したことも影響し、ローンの返済に行き詰まるケースが続出し、米国のみならず各国の金融機関に大きな影響が出ました。
2)リーマンショック/アメリカの大手投資銀行及び証券会社のリーマンブラザーズが、2008年9月15日に連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を連邦裁判所に申請し倒産したことが、世界金融危機顕在化の引き金となり、世界経済に大きな影響を与えました。
3)FRB/The Federal Reserve Boardの略称で、日本語では「連邦準備(制度)理事会」と呼ばれます。FRBは1913年の連邦準備法(Federal Reserve Act)を根拠法として設立された米国の中央銀行制度の最高意思決定機関ですが、通常中央銀行そのものも指しています。連邦準備理事会は、7名の理事(うち議長 1名、副議長 1名)から構成されています。また、連邦準備理事会の下に位置するのが12の地区連邦準備銀行(地区連銀)で、実際の中央銀行業務を行っています。
 
2.世界は変化の兆し、求められる国際連帯、高まるアジアの重要性
@ アメリカでは市場原理主義への反省をふまえ、公正・公平、連帯といった価値観を重視するオバマ政権が誕生しました。新大統領は雇用と環境を全面に掲げたグリーンニューディール政策【MEMO】を打ち出すとともに、国際金融を監視するヘッジファンド規制の強化を進めています。
A また、層の厚い中間層を復活させるには労働組合の機能強化が不可欠との認識のもと、労働組合支援にも乗り出しました。2009年6月に開催されたILO総会では、世界同時経済危機に対し、政労使が一体となって雇用対策を中心に景気回復に取り組むとの「グローバル・ジョブズ・パクト」【MEMO】(仕事に関する世界協定〜仮訳)が採択されました。
B 世界は新たな価値観のもとで、これまでの枠組みに代わる新しい秩序を求め、確実に変わりつつあります。持続可能な経済社会を実現するために、地球温暖化、資源・エネルギー、食糧、貧困問題など、全地球的な課題に対する国際的な連携が求められています。特に、低炭素化社会の実現に向けた国際的枠組みづくりとその取り組みが重要となっており、「グリーン・ジョブ戦略」【MEMO】などを踏まえた運動も主要な課題となっています。
C 国際連帯の重要性が高まる中、アジア経済は先進国の需要が縮小する中で牽引役として期待が高まっています。これまで米国の大量消費の上に成り立っていた世界経済は姿を変え、アジアでは域内需要を基盤とする成長路線へと構造転換を迫られています。
D アジア、とりわけ東アジアの安定を図るためにも、北朝鮮の核放棄は重要問題であります。6カ国協議への早期復帰と、6カ国協議共同声明の完全実施に向けた努力を北朝鮮に求めます。
【MEMO】
1)グリーン・ニューディール政策/雇用創出と環境・エネルギー政策を結びつけた政策で、再生可能エネルギーへの1500億ドルの投資(10年間)や500万人のグリーン雇用の創出を公約に掲げ、昨年末には経済チームによる公共施設の省エネ化に伴う250万人の雇用創出策を打ち出しました。
2)グローバル・ジョブズ・パクト/ 第98回ILO総会において採択された、雇用を中心とした経済回復への指針を示したもので、政労使が取り組むべき基本原則を記しています。具体的には、[1]持続可能な企業、公的サービスの質、すべての者のための社会保障の構築、[2]経済危機によって被害を被った立場の弱い人々への支援、[3]能力向上、訓練の質、経済回復に向けた教育の平等な機会の創出、[4]三者構成主義に基づく社会対話の促進、[5]市場経済における効果的効率的規定の確立、などであります。
3)グリーン・ジョブ/ 環境に対する影響を持続可能な水準まで減じる経済的に存立可能な雇用と定義されます。生態系と種の多様性の推進と回復、消費するエネルギー・材料・資源の削減、脱炭素経済の推進、廃棄物と公害の発生回避または発生極小化を支援するような雇用が含まれます。
 具体的には以下のような例を挙げることができます。
◇ドイツ:既にエネルギー効率の向上及び再生可能エネルギー産業において、数万のグリーン・ジョブが創出され、さらに多くの創出が予定されています。2020年までに自動車産業全体よりも環境技術分野で働く人の方が多くなると見込まれています。
◇アメリカ:環境産業の労働者数は医薬品業界の10倍で、2005年に530万人以上の雇用が生み出されています。
◇ブラジル:エタノール計画は50万の雇用を創出し、そのバイオディーゼル計画はほとんどが貧しい小自作農家である数万人に利益するように特に設計されています。
◇欧州のみならず、新興経済諸国や途上国でも、エネルギー効率を20%上昇させると約100万の雇用が創出されると予想されています。
 
 
二、国内情勢
1.実感なき景気回復と新自由主義的改革による爪痕
@ 新自由主義が1990年代から2000年代にかけて世界を席巻する中で、日本では小泉政権がその流れに拍車をかけ、「官から民へ」「小さな政府」「自己責任」といった市場原理主義的なスローガンが声高に叫ばれ、規制すべき分野まで自由化するなど新自由主義政策が進められました。
A 「いざなぎ越え」と言われた景気回復の実態は、大企業を中心に史上最高の利益をあげる一方で、労働者にはその果実の配分が十分ではありませんでした。リストラの横行、さらには正規から非正規へと労働者の急激な置き換えなどが進み、まさに労働者の犠牲のうえに成り立った「ジョブレス・リカバリー」【MEMO】でありました。
B この10年間で正規雇用が約370万人減少、非正規雇用が680万人増加し、今や非正規雇用は4割にものぼる状況となり、日本の雇用構造は大きく歪んでしまい、ワーキングプアと呼ばれる年収200万円以下の労働者は1000万人を超え、全雇用労働者の2割にまで達しました。
C 生活保護世帯も2002年より100万世帯を突破し、2008年では114万世帯にまで急増しました。かつて社会システムを支えてきた1億総中流と呼ばれた層の厚い中間層は崩壊してしまい、雇用構造の変化に対応する社会保障システムも見直されて来ませんでした。
D 貧困問題は子どもたちの教育にも深刻な影響を与え、「貧困の世代間連鎖」が進みつつあります。一方、正規労働者にあっては長時間労働やメンタルヘルス不調問題に象徴されるように、生活や健康を犠牲にする働き方を余儀なくされてきました。
E そして、失業率6%の懸念が高まる中、雇用不安もいよいよ正規労働者にもおよんでいます。正規労働者も非正規労働者も明日に希望を抱けない社会の中にあって、自殺者は11年連続で年間3万人を超える異常事態となっている一方、親子間での殺人や凶悪犯罪は後を絶たず、国民の不安は募るばかりであります。
【MEMO】
1)ジョブレス・リカバリー/雇用拡大をともなわない景気回復のこと。1990年代初めのアメリカ経済の状況がこう呼ばれました。
 
2.底割れした日本社会
@ 格差拡大や貧困問題が叫ばれているにもかかわらず、政府の無策が続く中、2008年秋のリーマンショック以降の世界同時不況の嵐により、日本の雇用は深刻な打撃を受けました。日本社会はまさに「底割れ」した状況に陥りました。
A これまでの日本は、高度経済成長を通じて確立されてきた正規雇用・男性中心の雇用・賃金体系が標準モデルとなっていました。そのため、非正規は女性による家計補助的な労働として位置づけられていました。社会保障システムもそれに適合させる形で存在してきました。しかしながら、バブル崩壊による就職氷河期世代の若者や企業倒産やリストラによる非正規再就職者などの増加により、新卒者や家計の担い手が非正規労働者として働かざるを得ず、セーフティネットも十分な手当てがされない状況の中で、不安定かつ低所得の労働者が急増しました。
B こうした「底割れ」した社会では、いったん社会の底辺に落ち込んでしまうと、浮き上がるのは極めて困難であります。拝金主義、自己利益優先主義が蔓延し、企業も個人もモラルの低下が指摘されています。日本は世界に冠たる雇用国家でありますが、雇用の安定こそ、社会の安定につながるということを、誰もが痛感する社会情勢となっています。
 
3.自公政権による負の遺産
@ 自公政権は、地域間・所得・教育などあらゆる分野で格差を拡大させました。また、前年度2度の補正予算と本年度の本予算及び補正予算と、計4度にわたる選挙目当てのばらまきの経済危機対策により、税収以上の国債発行額−巨額な財政赤字を生み出しました。そして、国民に大きな負の遺産を残したまま、政権の座を追われることになりました。
A 世界経済の景気底打ちに連動して、政府は6月に景気底打ちを宣言しました。これは、4度にわたる経済危機対策の効果が出たものと見られています。
B しかし、景気が好転したものはエコ・環境の消費など一部業種で需要の先食いが行われているだけであります。また、ばらまきの経済危機対策は、瀕死の重症患者にカンフル剤を打ったようなものであり、カンフル剤が切れた後の「景気2番底」も懸念されています。
C その背景として所得の減少、雇用情勢の悪化が上げられます。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、1世帯あたりの平均所得は2007年で556万円で、この10年で約100万円減少しています。また、雇用調整助成金制度の拡充など雇用対策に大型予算を割り当てているにもかかわらず、完全失業率は7月に5.7%と過去最悪を更新し、8月も5.5%と依然、高止まりの状態となっています。有効求人倍率も0.39倍(8月)と2年以上にわたり対前年比マイナスとなっています。
D 所得の減少、雇用情勢の悪化は消費減退を招き、内需拡大は困難となります。また、米国経済もV字回復が考えにくい状況では、日本経済の本格的な回復は遠いといわざるを得ません。
 
 
【参考資料−平成20年国民生活基礎調査より】
年次 H10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
平均所得 655.2 626.0 616.9 602.0 589.3 579.7 580.4 563.8 566.8 556.2
対前年比 △0.4 △4.5 △1.5 △2.4 △2.1 △1.6 0.1 △2.9 0.5 △1.9
※ 平成20年調査の所得は、平成19年1月1日〜12月31日の所得
 
4.政権交代と今後の進路
@ 政官癒着による自民党政治に見切りをつけた国民は、一昨年の参議院選挙において自公政権にNO!を突きつけ、参議院において与野党を逆転させたのに続き、本年8月30日、第45回衆議院選挙において民主党が308議席を獲得し、連合結成以来の悲願であった政権交代が実現しました。
  今後、民主党は、自公政権の負の遺産により非常に厳しい政権運営となることは間違いありませんが、国民への約束−マニフェストの着実な実行を持って、国民の期待に応えていかねばなりません。
A 政権交代により、連合が目指す「労働を中心とする福祉型社会」実現のスタートラインにようやく立つことになりましたが、連合も国民の目線で節度をもって民主党主軸の政権に対応していく必要があり、民主政治の確立、国民本位の政治の実現に向けて、連合の果たす役割、責任は格段に大きくなります。
B また、民主党を主軸とする政権の安定を図るためにも、2010年の参議院選挙において、連合推薦候補の完勝を目指していきます。
 
 
三、道内情勢
1.道内の経済・雇用情勢
@ 日銀札幌支店による10月の金融経済概況は「道内の景気は、低迷しているものの、持ち直しの動きも見られる。」「個人消費は政策効果を主因に、持ち直しの動きがみられている。」「一方、住宅投資、輸出、設備投資も大幅に減少」としていますが、個人消費の持ち直しは、エコポイントなどの政策の先食いであり、「雇用・所得環境は厳しい状況が続いている」ことから、政策効果が切れた先に大きな不安が存在しており、道内経済もまた、全国の経済状況と同様の傾向にあります。
  また、本年は丸井今井の民事再生法適用、札幌西武の閉館と本道経済の厳しさを象徴するかのような出来事がありました。
A 道内の雇用情勢は、有効求人倍率0.34倍(8月)、完全失業率は5.4%(4−6月)と全国の中でも厳しい状況となっており、上記の丸井今井、札幌西武の再就職対策も、道内雇用情勢の影響を受け、厳しい状況が予想されています。
  また、新規高卒者の道内求人倍率は0.34倍(8月末)で、前年同期を0.16ポイント下回る、全国でも最悪の状態であります。
  本道の経済は、この厳しい雇用情勢の改善なくして、景気回復はあり得ません。
 
 
2.山積する課題に対する高橋道政
@ 我が国の農業は、自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)【MEMO】等の問題を抱え、厳しい局面を迎えようとしており、本道の農業・農村、地域経済にも大きな影響が考えられます。また、本道の基幹産業である第1次産業は、後継者問題等により持続可能が困難な状況となっています。
A 上記のとおり本道の雇用情勢は、全国でも最悪の状況が続いており、道は昨年度、10万人の雇用創出計画を打ち出しましたが、雇用状況改善の兆しも見えない現況を鑑みると、雇用対策の実効性に疑問を抱かざるを得ません。
B 高橋道政は、支庁制度の見直しを掲げていますが、財政再建のみの視点に立った支庁制度再編で、基礎自治体のあり方と一体的に検討する視点が欠如しており、再考すべきであります。
C 医師不足、病院経営の悪化など地域医療問題は、全国的にも大きな問題となっており、本道でも地域医療再生に向けた施策が重要で、道が果たす役割と責任は大きなものがあります。しかし、これまでの道の姿勢には、道民の命を守る責任が感じられません。
D 夕張市に代表されるように、各自治体の財政状況は厳しいものとなっています。特に、産炭地域では、自治体崩壊の危機に直面しており、実効ある早急な支援が不可欠となっています。また、道の財政も、財政再建として2度にわたる職員の給与カット、歳出削減などをしたにもかかわらず、一層厳しいものとなっています。
E このように、いま北海道は多くの課題が山積していますが、6年間にわたる高橋道政を振り返ってみても、積極的かつ有効な対策が施されていません。
 
【MEMO】
1)自由貿易協定(FTA)/物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした、2国間以上の国際協定である。2国間協定が多いが、NAFTA(北米自由貿易協定)等の多国間協定もある。
2)経済連携協定(EPA)/経済条約のひとつで、自由貿易協定(FTA)と異なり、関税撤廃などの通商上の障壁の除去だけでなく、締約国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、及び、サービス・投資・電子商取引等のさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進等をも含めたものを言う。
 
 
3.道政奪還に向けて
@ 高橋道政も2期目の折り返しを過ぎましたが、この間、北海道経済・産業の再生、雇用対策、地域医療問題等々の山積している課題は何一つ解決されておらず、本道の将来展望に大きな不安が残ります。
A 道民が安心・安全な生活を得るためにも、次なる1年は、参院選挙の勝利とともに道政奪還と新知事の安定した道政運営を図るための、道議会の過半数獲得を至上命題に掲げた取り組みを行います。知事候補の早期擁立と道議候補の選考作業を、民主党北海道とともに進めていきます。