U.情勢と課題  
一、世界情勢

1.好景気持続と不安材料
@ BRICsをはじめとする新興国の経済成長により、世界経済はフラット化が進みながら好調を維持しています。とりわけ、新興国の経済成長は著しいものがあり、早くもポストBRICsとして「VISTA」【MEMO欄】の台頭が取り上げられています。
  近年の世界経済の拡大は、個人消費による経済成長と輸出・設備投資主導の新興国の需給が結びついてなされてきましたが、今後、個人消費の鈍化、政策金利・長期金利の上昇、後述する穀物価格の高騰など、不安材料も内包しています。
A 一方で、好調な世界経済のなか、穀物を巡る食糧争奪戦が今後、激しさを増していくことが予想されます。
  その要因の一つとして、BRICsに代表される人口大国である新興国の急激な経済発展が食糧需要の飛躍的な増大を招くことと、今年1月のブッシュ大統領のバイオ燃料拡大宣言【MEMO欄】により、トウモロコシを始めとする穀物価格の高騰していることであります。
  穀物価格の高騰は、貧困層の飢えを拡大させるほか、家畜の餌代や加工食品の原料費値上げに跳ね返り、食糧問題を悪化させることになります。
B 世界経済の長期拡大を牽引してきた米国経済は、サブプライムローン【MEMO欄】問題、原油価格の高止まりによるインフレ圧力を抱えており、景気減速が懸念されます。また、サブプライムは米国のみの問題ではなく、各国の株式市場にも大きな影響を与えており、8月中旬の世界同時株安もサブプライムによるものです。
  米経済は、とりわけ日本経済に大きな影響力を持ち、現在の日本の景気も輸出主導で成り立っていることから、米経済の先行きを注視し、適切な対応が必要となります。

2.首脳交代による対日関係
@ 昨年11月に行われた米国中間選挙では、12年ぶりに民主党が上下院で多数を占める結果となりました。この選挙結果は、ブッシュ政権が米国の覇権を盾に行ってきた傲慢な一国主義や、正当な理由のないイラク侵攻が米国民からも否定されたことによるものです。
  この選挙結果により、来年行われる大統領選挙では、民主党候補者の優位が動かないものと思われ、16年ぶりの政権交代による内政・外交が注目されます。
A 本年は英・仏の両国で指導者の交代が行われました。
  仏国では、5月に大統領選挙が行われ、サルコジ前内相が社会党の女性候補ロワイヤル元家庭相を破り、12年ぶりに大統領が交代しました。雇用、移民対策、欧州憲法批准等の問題を抱えている中、サルコジ大統領は平等重視の伝統的社会から、市場原理の競争型社会への転換を掲げています。
  また、英国でも6月にブレア前首相の退陣にともない、ブラウ
ン首相へと10年ぶりに首相交代が行われました。市場原理主義を進めたサッチャー・メージャー政権による所得格差の問題に積極的に取り組んだブレア政権の後を受け、ブラウン首相がどの様な政策を展開するのか、同じく格差解消が大きな課題の日本にとって注目すべきものがあります。

3.朝鮮半島の動向
@ 東アジアの安全保障問題に大きな関わりを持つことになる北朝鮮の核開発問題は、世界的に核拡散が進んでいるなかで、6カ国協議の重要なテーマとして話し合われ、本年中に「核無力化」することで合意されましたが、各施設無力化の定義は曖昧なままであります。
  わが国は、核問題、ミサイル問題、拉致問題の同時解決を求めていることから、今後の北朝鮮への対応で他の国々と足並みが揃わないことも考えられますが、重大な人権侵害である拉致問題の早期解決が図られるよう、他国との協力関係をより一層強力にすることが重要であります。

二、国内情勢

1.実感無き景気回復と雇用の地域格差
@ わが国も、全体的な景気としては弱含みではありますが、好景気を維持しています。しかしその中身は一部大都市、大企業による輸出・設備投資によるもので、個人消費率は現在、戦後最低を更新中であり、一人一人が好景気感を実感するものではありません。
  個人消費の伸びが一部の者たちによるのではなく、「全員参加型」による本物の回復に至らない要因の一つには、企業の人件費抑制に加え、年金問題、定率減税の全廃、税源委譲にともなう住民税引き上げなどによる所得の伸び悩み、生活不安が考えられます。
  最低賃金の大幅改定、所得格差の解消、社会保障の充実を図る施策を求めます。
A 雇用情勢は、6月現在の有効求人倍率【MEMO欄】(常用)が0.92倍、完全失業率3.7%で、雇用者数が28ヶ月連続増加、完全失業者数が19ヶ月連続減少しており、全国的には雇用情勢が上向きとなっています。
  しかし、地域別の完全失業率【MEMO欄】を比較してみると、北海道の5.3%を最高率に九州(4.8)、東北(4.5)と続いているのに対し、東海(2.7)、中国(3.0)、北関東(3.1)と雇用状況に大きな隔たりがあり、個人所得、企業利益とともに雇用情勢にも地域間に大きな格差が生じていることが見て取れます。
  そしてまた、非正規雇用者の比率が全体の1/3を占めている状況から、景気の動向が少しでも変われば、失業率はたやすく上昇する可能性を秘めています。

2.食糧問題と日本経済
@ 前述したとおり今後、世界的に食糧問題が出てきますが、食料自給率40%【MEMO欄】と先進諸国で最低の日本は、海外で起こる食料争奪戦の影響をもろに受けることになり、これまでのように「カネさえ払えばいくらでも食糧は買える」とはならず、すでに著しい経済成長により食生活の変化が出ている中国との間で、大豆、魚などの買い付け競争が起きており、買い負けています。また、世界的な穀物価格高騰の影響は、物価の優等生といわれる鶏卵の値上げや、大手マヨネーズ会社の17年ぶりの値上げに現れています。
  国の食糧政策見直しのみならず、飽食の時代と呼ばれている現在の日本において、国民一人一人が食生活に対する意識を改める必要があります。

3.格差解消と安心・安全な生活を
@ 生活の安心・安全が危機に直面しています。多発する暴行・殺人・児童虐待、農産物から玩具までのあらゆる製品で有害物質の危険性をはらんだ中国製品の蔓延や企業倫理の欠如による食品・食卓の安全など、生命を脅かす数多くの事案が発生しています。また、定率減税の廃止と所得税の実質増税、年金・社会保障制度への不信、医療・介護分野での人手不足・地域格差等々、現在のそして将来の生活不安が増大しています。
  安心・安全な生活が営める政治を早急に求めます。
A 格差の拡大・固定化が進んでおり、それによって確実に貧困層【MEMO欄】の増加も見て取れます。日本の貧困を世帯類型別、世帯主年齢別に見てみると、貧困率の高い世帯は、母子家庭、高齢単身者、若年層に多く見られます。また、諸外国の貧困層は、失業状態に多いのに対し日本は、就業者にも多いのが特色であります。これは、低賃金で雇用されるパートなど非正規社員の増加によるものです。
  また、厚生労働省が本年初めて調査したところによると、ネットカフェ難民【MEMO欄】が5400人にも上がることが明らかになりました。特に、20代の非正規雇用者に多く、ワーキングプアの新たな実態が浮き彫りになりました。

 
最近の社会状況の変化










 
  2006 2005 2004 2003 2002 2001
生活保護世帯 1040 997 940 870 804
生活保護人員 万人 147 142 134 124 115
貯蓄なし世帯 22.9 23.8 22.9 21.8 16.3 16.7
完全失業者 万人 275 294 313 350 359 340
フリーター 万人 187 201 214 217 208  
非正規社員 万人 1677 1633 1564 1504 1451 1360
自殺者 千人 32 33 32 34 32 31
自己破産申請 千人 166 184 211 242 215 160
勤労者世帯年収 万円 630 627 636 629 646 661
離婚件数 千件 258 262 271 284 290 286
※a.参照データー
   厚生労働省 「福祉行政報告例」、「労働経済の分析」、「平成18   年人口動態統計の年間推計
   金融広報中央委員会 「家計の金融資産に関する世論調査」
   総務省統計局 「労働力調査」「家計調査」
   警察庁 「平成18年中における自殺の概要資料」
   日本金融新聞「自己破産申請数推移」
 b.2006年の生活保護世帯・人員数は未公表

4.無責任な政権放り出し
@ 格差社会が進む中、失業保険、生活保護、医療・介護保険など様々な社会保障給付というセーフティネットの規模が縮小しています。
  格差解消は喫緊の重要な政策課題であり、今こそ「労働を中心とする福祉型社会」を実現させ、最低賃金の上昇と「全国一律最賃」の設定、「同一価値労働、同一賃金」による格差解消を図るためにも、政権交代を実現させなければなりません。
A このような中、昨年9月に「美しい国」「戦後レジームからの脱却」を掲げ安倍政権が発足しましたが、その実態は憲法観・歴史観などで「タカ派」的体質を前面に出したもので、「お友達内閣」と言われた他の閣僚も同様の右傾化内閣となりました。また、地域疲弊をもたらし、所得格差を始めとする格差社会を創り出した前政権の構造改革を引き続き進めていくとしました。
B そんな安倍政権に対し国民は、7月29日に実施された第21回参議院議員選挙において「NO」の審判を下し、自民党は歴史的大惨敗を喫しましたが、安倍総理は退陣を求める民意を無視して権力の座に固執し、内閣改造による延命を図りました。
C しかし、テロ特措法、年金問題、格差是正など問題が山積している第168回臨時国会が9月10日に開会し、総理大臣として国民への約束とも言える所信表明を行っていながら、その翌々日には辞任を表明し政権を放り出してしまいました。
  無責任極まりない安倍総理の行動はもちろんのこと、安倍政権の続投を許し支持してきた自民・公明の与党も責任を逃れることはできません。
D 前代未聞の政権投げ出しにより、168回臨時国会で首班指名選挙が行われ、福田内閣が誕生しましたが、先の参議院選挙の結果により、参議院では小沢民主党代表が首班指名を受けました。
  新たに発足した福田内閣は、政権を投げ出した安倍内閣をそのまま引き継いでおり、福田内閣として何を行うのか具体的政策が見えない内閣であります。

5.総選挙への早期体制確立
@ いま政局は、解散総選挙がいつでもあり得る状態で、まさに「常在戦場」となっています。
  一刻も早く福田内閣を退陣に追い込むとともに、政権交代に向けた千載一遇の機会を逃すことのないよう、必勝態勢を早期に確立し臨戦態勢を固めなければなりません。


三、道内情勢

1.景気横ばいと厳しい雇用情勢
@ 日銀札幌支店は、8月の金融経済概況で「道内の景気は横ばい圏内の動き」と表現しています。これは公共投資が減少傾向にある一方、設備投資が増加しており、個人消費、住宅投資が横ばいの動きとなっていること。さらに、企業の生産、雇用・所得環境も横ばいの動きとなっていることによるものです。
  個人消費では、好天の影響等により夏物商品の売れ行きが良かったことと、薄型テレビ、DVDレコーダーを中心とした家電製品が底堅い売れ行きが続いているものの、企業の人件費抑制スタンスが続いていることや、社会保障費の負担増等が解消されない限り、個人消費の上向きは難しい状況にあります。そのため、国内経済同様、個人レベルでは景気回復の実感はありません。
  個人消費を上向きにし、真の景気回復に繋げるためにも、春季生活闘争を通じ賃金上昇を勝ちとり、全体の所得向上を図る必要があります。
A 道内の雇用情勢は、8月の有効求人倍率(常用)が0.52と数値は上向きでありますが、対前年同月比は2ヶ月連続でマイナスとなっており、未だ全国平均の約50%の状態であります。また、4−6月の完全失業率5.3%は、前年同期に対し−0.1となっていますが、全国10ブロック中唯一の5%台で、依然、厳しい雇用環境にあることが伺えます。
  道に対し、有効な雇用改善策の実施を強く求めるとともに、企業に対しても良質な雇用の創出・確保を求めることが重要です。

2.「食」の信頼回復を
@ 食糧基地北海道にとって大きな問題となります日豪EPA交渉が、今後活発化することが予想されることから、全北海道の重要課題として道民運動を構築していく必要があります。
A また、本年はミートホープ社の食肉偽装、石屋製菓の賞味期限改ざんと消費者を裏切る問題が2件発生しています。「食」は北海道の生命線とも言えるものであるにもかかわらず、それに関係している企業が利益最優先の考えのもと、安心・安全な食糧を国民・道民に届けるという意識が欠落していることの現れです。
  全ての企業は企業倫理を見つめ直し、労働組合はチェック機能を発揮して不正防止に努め、「食」における北海道ブランドの信頼を取り戻す努力が求められます。

3.道政奪還・政権交代に向けた体制構築
@ 第16回統一自治体選挙が4月に実施され、連合北海道は、北海道知事、札幌市長、北海道議会議員、札幌市議会議員の各選挙戦での推薦候補者の完勝を目指して戦いを進めました。
  道政奪還を目指した知事選は、荒井聰候補を擁立して戦いに臨みましたが、残念ながら目的を達成することはできませんでした。今一度、道政奪還に向けた運動の再構築を目指し、これからの4年間、高橋道政に対して勤労道民の立場から提言・要求を行っていきます。
A 一方、道都札幌では上田市長が再選され、道議会・札幌市議会の議員選挙では、連合北海道推薦候補者が大勝を果たしました。しかし、道議選の空白区問題、知事選との連動が不十分であったことなど、課題も残されました。
  今後は、上田市長と札幌市議会には札幌市政の改革実現を、道議会には高橋道政へのチェック機能を発揮することを期待します。
B 前回の衆議院議員選挙から2年が経過し、これからは何時でも解散・総選挙が行われる状況にあります。今夏に実施された参議院選挙の勝利を衆議院選挙に結びつけ、政権交代を実現させる絶好の機会ととらえ、労組、各級議員は、衆議院選挙を始めとする各級選挙での常勝に向け、日常活動の充実により地力を強化させることが重要です。

4.グローバル社会での労働問題
@ 来年7月7日から9日の日程で、G8首脳会議(サミット)が洞爺湖町で開催されます。温暖化対策を始めとする地球環境問題について議論されますが、実効性のある対策を期待します。
  また、サミット開催に先立ち、5月には新潟市でG8労働大臣会合(労働サミット)が開催されます。
  経済のグローバル化による競争激化、格差拡大と二極化傾向が著しく進む中では、社会保護の拡大と強化が、労働基準、雇用の促進にとって重要であることを認識した雇用政策、社会保護制度の確立に努めることが必要です。
A わが国でも、賃金格差の拡大、非正規労働者の増加、公務員の労働基本権の問題など懸念される問題、政策課題が多数存在しており、労働サミットを通じて公正な労働条件の確保、最低労働条件の設定、雇用・能力開発の安定などにより、上質な労働市場の整備を進めていくことを、連合北海道は強く求めていきます。
<MEMO>


□VISTA
ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの頭文字








□バイオ燃料拡大宣言
1月の一般教書演説で、2017年までにバイオ燃料を現在の50億ガロンから350億ガロンに拡大すると宣言した。

□サブプライムローン
所得や信用力の低い人向けの高金利の住宅ローンで、米国では金融機関の損失が表面化している










































□有効求人倍率
有効求人数を有効求職数で割ったもの。「有効」とは当月の新規数と前月からの繰り越し分を合わせたものを指す。
□完全失業率
労働力人口(満15歳以上で働く意志を持つ人)に占める完全失業者数(労働力人口のうち、一定期間中(毎月月末の1週間)に収入を伴う仕事に従事しなかった人で、実際に求職活動を行った人数)の割合。
□食料自給率
昨年のわが国の食料自給率は、39%であった
仏130、米119
独91、英74










□貧困
OECDは、国民の標準的な所得(平均値ではなく中央値)の半分を基準にして、それを下回る所得しかない人を「貧困」とみなしています。2005年2月の報




告書では、日本の貧困率は15.3%で第5位です

□ネットカフェ難民
住所不定で、日雇い仕事などをしながらインターネッ
トカフェを泊まり歩く