連合北海道2006春季生活闘争のまとめ(案)
 
 
1.06春季生活闘争の情勢と課題
 
 06春闘の闘いにあたり、連合の基本スタンスは、「マクロ的には“労働側に1%以上の成果配分がなされるべき”との認識のもとに、マクロの生産性向上に見合った労働側への成果配分と可処分所得の引き上げをめざす。そして、二極化の流れに歯止めをかけるために、組織化促進と均等待遇実現に向け「パート共闘会議」を設置し、「中小共闘」の更なる強化と情報の開示によって、未組織を含めた全雇用労働者に底上げの社会的メッセージを発信する。」ことに定めた。いわゆる“真水”を獲得する闘いを中心とした闘いの決意であった。
 一方で経営側は、「賃金決定は個別企業の労使の話し合いで決める事である」「生産性三原則の重要性は経営側も十分に理解しているが、最近の労働分配率の低下傾向は、正常な水準に至る過程として解釈すべき」など、連合の切実な要求に真摯に応える姿勢とはならなかった。
 結果として、06春闘全体としては、先行産別を中心に「賃金改善分」を獲得し、賃金デフレに歯止めをかける手がかりをつかんだと評価できるが、全体の評価としては、賃金改善が進み賃金デフレに一定の歯止めをかけたと評価できる。
 
 政策制度の闘いは、定率減税の全廃が決定された後も、所得控除の引き下げなどのさらなるサラリーマンねらい撃ち増税や社会保障制度の改悪の動きがあり、また“職場破壊”といわれるように、長時間労働の蔓延による仕事と生活の調和の破壊、非正規労働の拡大による均等待遇の後退、いたずらに定員削減のみを要求する公務員制度改革など、市場原理主義を貫く小泉内閣と圧倒的に多数の与党体制のもとで、二極化・格差社会の拡大に歯止めをかける闘いとして挑まれた。これらの課題はこれからも大衆行動を積み重ね、労働契約法や教育基本法改悪・国民投票法案問題などとともに、広く国民世論の形成を続けなければならない。
 
 
2.取り組みの経過
 
 連合北海道06春季生活闘争は、05年12月に第1回闘争委員会を開催し、06闘争方針の確認と闘争本部の設置、連合総研との共催による情勢学習会を開催して活動を開始した。
 その後、5月までに8回の闘争委員会を開催して、当面の取り組みその1〜4で状況の統一化と具体的な取り組み課題を提起してきた。
 北海道の闘いは、様々な経済・雇用指標が他都府県ほど回復基調を示さない中での闘いとなった。また、道庁の財政再建を理由とした人件費削減をはじめとする地方公務員への人件費削減提案、季節労働者の冬期雇用援護制度の廃止問題、ハイタク労働者の最低賃金違反の蔓延、パートタイマーなど非正規雇用の雇い止め・解雇など、相変わらず厳しい状況下の闘いとなった。さらに、「道州制特区法案」など北海道をねらい撃ちする政府のリストラ政策によって、道民生活や経済に不安をかき立てる事象が相次いだ。
 しかし闘いの中では、連合白書を討論集会の資料としてはじめて使い、情勢把握と意思統一に深みを与える試みを行い、また、パートなど非正規労働者の集会や公共サービスに関する学習会を開催するなど、二極化や格差に挑戦する闘いを重視して取り組んだ。
 北海道における取り組みの結果としては、情報の共有化の点や月例賃金の重視面などで課題を残したが、規制緩和の悪影響や公共事業の大幅削減などにより、経済状況が低迷する中で、昨年並みを確保できたことは成果ととらえたい。
 
 
3.具体的な取り組みと課題
 
(1)賃金改善の闘い
 
@ 賃金改善の要求状況
 闘いの大枠として12年目を迎える地場集中決戦方式を据え、今年も390組合をエントリー組合として登録し、平均方式327組合、個別A方式2組合、個別B方式3組合の要求を集約した。
 要求の基準は、賃金カーブの算定が可能な組合は「賃金カーブの確保」とカーブ維持分の労使確認十賃金改善分2,000円以上、賃金カーブの算定が困難な組合は賃金カーブの確保相当分4,500円(目安)+賃金改善分2,000円以上、定昇込み6,500円以上、環境が整っている組合の格差是正要求は格差是正分として、上記に上乗せすることを目標として取り組んだ。
 6月16日段階での集計では、加重平均で5,672円(2.44%)、単純平均では5,516円(2.46%)となった。
A 地場集中決戦の取り組み
 第2回闘争委員会(1月25日)で決戦ゾーンの設定について連合本部の設定と同様に確認し、3/15〜18を第1のヤマ場に、3/20〜31を第2のヤマ場に設定した。また、解決促進ゾーンは、4/3〜8を第1次解決促進ゾーンに、4/17〜22を第2次解決促進ゾーンとした。
 3月10日には北海道厚生年金会館で全道総決起集会を開催し、「厳しい状況下ではあるが負けることのできない闘い」と意思統一し、季節労働・ハイタク・公務員制度など様々な課題をともに闘う決意を表明した。
 
 第1次先行ゾーンでは20組合が決着し、妥結平均5,071円(+537円)、2.25%(+0.53%)と、額・率ともに昨年を上回った。
 第2次ゾーンではさらに36組合が決着し、第1次・第2次合わせた56組合の加重平均で4,034円(+354円)、1.67%(+0.22%)となった。
 
B 回答・妥結状況
 
 このゾーンにおける中央産別の闘いは、連合中央集計で1,693単組が加重平均5,664円 1.88%と昨年に+393円、+0.16%の成果を上げ、月例賃金以外でも、一時金はもとより、諸手当や時間外割増率、65歳までの継続雇用の制度化と育児・介護・出産休暇制度などの改善を実現し、賃金改善以外でも多くの成果を上げていることについて、連合高木会長は「賃金のあり方や昇進・昇給制度等をめぐる論議を活発化させ、人事労務政策全般に及ぶ、労使の論議を深める契機となった。」とコメントし、健闘をたたえた。道内でも、パートなど非正社員の底上げにつながる多くの成果が報告されている。
 
 4月からの解決促進ゾーンでは、以下の連合本部中小共闘確認事項を参考に早期決着をめざして闘いを強めることとした。
○賃金カーブの算定が可能な組合は賃金カーブ確保相当分を確保し、1,000円以上を上積みする。
○賃金カーブの算定が困難な組合は方針と集計結果をふまえ、5,000円以上を獲得する。
○企業環境が厳しい組合は妥結ミニマム基準を示す4月中旬まで、ねばり強い交渉を展開する。このゾーンでは、一時金のみの妥結も含めて98組合が妥結したが、賃金の妥結79組合の集計では加重平均で妥結額4,028円(+281円)、1.64%(+0.15%)となって、額・率とも前年を上回り、厳しい情勢に抗して健闘が続いた。各産別・単組・地協・地区連合はこの結果を生かし、月例賃金の改善を勝ち取るため、あらゆる手段を行使して立ち向かうこととするとの意思統一を行った。
 また、妥結ミニマム基準の設定について以下の通り意思統一した。
@ 賃金カーブの算定が可能な組合は賃金カーブ確保相当分を確保する。
A 賃金カーブの算定が困難な組合は目安として示した4,500円以上を確保する。
 
 連合本部が解決促進ゾーン中に発表した集計結果によると、回答・妥結組合数は2,770組合であり、月例賃金では、同一組合平均方式の比較で5,605円、1.88%(昨年比+481円、+0.15%)であった。賃金カーブ維持分を確保したうえで、引き続き500円程度の賃金改善分の獲得がはかられている状況となった。また、連合本部の中小共闘では、4月11日までに妥結した1,380組合の単純平均(定期昇給含む平均賃上げ方式)は4,492円、1.79%、加重平均では、4,620円、1.82%となった。昨年との比較では、妥結をした同じ組合の単純平均で+415円、+0.16P、加重平均で+385円、0.14Pのプラスとなった。これは、妥結組合の49.1%が、賃金カーブ確保相当分目安として示した4,500円以上を確保し、昨年同時期の34.5%を14.6P上回った。
 
 北海道では、390の登録組合のなかで、賃金改定を要求した351組合のうち、8月31日で274組合が妥結した。単純平均で3,073円(昨年比−87円)、1.37%(昨年比 同率)、加重平均で3,621円(昨年比−115円)、1.53%(昨年比−0.04%)となった。
 特徴的に、ほぼ昨年と同額を確保することができたといえるが、先行きの見通しが立たない経済状況であることは労使の共通認識であり、流通関係を除き月例賃金の改善は進まなかった。また一時金は、夏季のみでは昨年より若干プラスで、年間協定では昨年を下回っているが、これは、経営側の言う「成果配分は一時金で」の言葉とは違う結果といわなければならない。
 登録組合のうちまだ77組合が、未解決あるいは未報告であるが、単組の健闘の結果、おおむね現状維持がはかられたと評価したい。
 
(2)労働条件確保の闘い
 
@ パートなど非正規労働者の待遇改善と均等化の闘い
 
 「中小パート労働対策委員会(森副会長 委員長)」を春闘期間のみ名称変更した「パート共闘会議」を設置し、雇用形態間の格差拡大の流れに歯止めをかけ、均等待遇実現への道をきりひらくことを目標に取り組んだ。
 パート共闘会議(中小パート労働対策委員会)は、「パートなど非正規社員等の集い」を4月25日開催し、連合本部のパート共闘の取り組みやパート労働法に関する学習を深めるとともに、交流会では日頃の問題などについて産別枠をこえた交流が行われた。
 また、同じ職場で働くパート・有期契約・派遣・請負等労働者の待遇改善(休暇制度や一時金支給など)のために、単組は、未組織やパート等の全ての労働者を意識した交渉を進めることを目標とした。
 課題としては、連合本部の枠組みでは地域のパート共闘が意識されておらず、情報の共有化は縦産別で行われるのみとなっているが、07春闘に向けて枠組みが変更されるとするならば、より強い取り組みとしなければならず、体制のあり方について議論が必要となっている。
 
A 最低賃金の取り組み
 
 すべての労働者が、最低限の生活ができる賃金水準を実現すべく、社会的な水準規制を行うことは、公正取引の基本であることについて意思統一し、すべての組合で企業内最賃の協定化とその引き上げを行い、法定最賃引き上げに結びつけることを目標に取り組んだ。具体的には、全従業員対象の企業内最賃の目標水準を時間額840円以上に設定し、パートなど有期雇用労働者の企業内最賃では成果を獲得した単組がある。
 北海道としては、ハイタク最賃問題、とくに全道で1割のハイタク労働者が最賃違反をおこしている実態について、全道キャラバンを行い、実情把握と行政に対する取り組み強化、経営者団体に対する申し入れ等に取り組んだ。
 ハイタク最賃問題は、当面の地域最賃違反の一掃とともに、プロ運転者にふさわしい賃金体系の確立に向けて、企業内最賃・保障給の設定要求へと運動を進めていく必要がある。
 
 地域最賃など法定最賃の闘いは、@地方最低賃金審議会の自主性の発揮、A一般労働者の賃金水準に対する適正(長期目標として平均50%)水準への接近と影響率の向上を基本に、2006年度の改正にあたっては、地域別最低賃金を一般労働者賃金の水準に照らし、時間額 660円(+19円 +3.00%)を求め、5月11日以降の最賃審議会で闘われた。
 全国的には、7月26日の「目安」公表以降、景気回復を背景に、29都県で目安に1〜2円の上乗せを果たし、18道府県が目安通りとなったが、8月8日の第3回審議会で644円、10月1日発効で決まった。景気回復のためにも積極的な上乗せを主張した労働側に対し、経営側が最後まで目安までも否定したことと、公益側が当初から経済状況の現状にこだわり、地域最賃の影響率(2%未満)を拡大することができない結果となった。
 
(3)政策制度の闘い
 
@ サラリーマン増税反対
 
 2006年度税制改正案には、各種所得控除の縮小は含まれなかったが、定率減税の廃止が盛り込まれた。連合は、不公平税制の是正が行われていないなかで、定率減税を廃止することは問題であることを主張し、全国統一キャンペーン行動(給料日早朝街宣)などに取り組んだ。定率減税は2007年1月以降の廃止が可決されたが、給与所得控除の見直しなどサラリーマンねらい撃ち増税に対し、引き続き、公平で透明な税制改革の実現を目指し、取り組みを進めていく必要がある。
 
A 社会保障制度の改悪に対する闘い
 
 「社会保障制度の在り方に関する懇談会」(官房長官の私的諮問機関)が、5月26日、最終報告書を取りまとめた。しかし、4月末に閣議決定された政府の被用者年金一元化の基本方針など、従来の個別制度見直しの方向を追認した程度であり、当初の目的であった「社会保障全般の一体的改革」にはほど遠く、全く不十分な内容である。報告書には、連合が主張してきた「基礎年金の税方式と厚生年金の保険料15%上限」に関する意見が「別添」として添付されただけであり、「格差拡大や二極化」を是正する社会保障機能を重視する視点もない。
 また、2006年春の重要政策課題のひとつである医療保険制度改革関連法案については、第164回通常国会で審議が行われた。連合北海道は、3月から4月にかけ道内4カ所でのセミナーを開催して法案の問題点・課題について理解、学習活動に取り組むとともに、道内各地での街頭宣伝活動、道高齢・退職者団体連合も連携した集会・デモ行進を実施して、広く道民に給付減・負担増の医療制度改革を批判する行動を展開した。
 しかし、5月18日、衆議院厚生労働委員会で与党は法案を強行採決し、翌日の本会議で可決し参議院に送付された。連合北海道は、退職者連合や民主党北海道とともに、採決強行に抗議する座り込みを札幌大通り公園で敢行、参議院での慎重審議と法案の修正を求め大衆行動を展開した。
 
(4)道内課題の取り組み
 
@ 公務員制度改革と人件費削減反対の闘い
 
 道は財政運営を健全化するためと称して、06・07年度の2年間に限り、道職員・教員等の賃金10%・一時金15%・退職金5%・管理職手当20%など、大幅な賃金の削減提案を行った。
 これに対し、地公三者(自治労道本部・全道庁・北教組)は、職員生活の破壊と公共サービス・教育の質低下につながると強く反対し、諸行動を展開した。
 その他、道内約180市町村あまりのうち約130(7割)が最大で10%の賃金削減提案を受け、国家公務員も同様な賃金削減を受けつつある。
 連合本部は「公共サービス・公務員制度のあり方」をまとめ、官と民の間に位置する「新しい公共」の考えを提起するとともに、総人件費改革の基本方針に反対し、労働基本権を付与して労使間で解決を原則に、労使双方と納税者の納得できる、公平で公正なあり方を主張している。
 北海道では、公務・公共サービスの比重が北海道GDPの15%と、他府県に比べ倍ぐらいの比率となっている。したがって、総人件費削減の影響は様々な民間企業の賃金決定にも大きく影響することが懸念されることから、公務員制度のあり方を含め「公共サービスに関する学習会」を、北海道公務労協と共催で道内4カ所で開催し、主に現状認識を一致させる活動に取り組んだ。
 公務員の賃金改定を決める人事院勧告は、比較対象規模を50人以上に拡大し、しかも改定無しを一方的に決める暴挙であり、断じて容認できないし、労働基本権付与を含めた組織内の意思統一を今後も一層進める必要がある。
 
A 季節労働者の生活と雇用を守る闘い
 
 本道にはいまだ13万余の季節労働者がいるが、政府・厚労省は「循環雇用は雇用保険制度になじまない」と、冬期援護制度を今年度限りで打ち切ろうとしている。
 これに対し、北海道知事を先頭にオール北海道で生活を支える制度の存続・改善を求める協議会への参加や、各職場での署名とカンパにも取り組んだ。
 行政改革方針や骨太方針に絡んで雇用保険全体の見直しが行われており、短期特例一時金(50日分)に見直しについても議論されるなど、季節労働に対する情勢は極めて厳しい。
 8月には厚労省から「季節労働者対策について 案」が示されたが、その内容は通年雇用を1万5千人に拡大するのみで、残された2万人を超える援護制度利用者を切り捨てるものである。
 今後は、政府の責任追及と季節労働者の生活をさせる冬期における短期就労確保など、両面の取り組みを強化しなければならない。
 
Bハイタクの安全とハイタク労働者の生活を守る闘い
 
 2002年の規制緩和から5年目を経て、特に北海道のハイタク産業は、北海道経済が好調な時の車両数がそのまま放置され、室蘭・釧路・函館・稚内などでは、建設、水産、観光など基幹産業が衰退したところに、さらにタクシー運賃のゾーン制(02年の改正道路運送法、上限、下限運賃の認可)や増車、営業区域拡大など、自由競争政策による事業者協会の指導性弱体化をまねいて、市場原理とは無関係、無秩序な産業となっていると言わざるを得ない。そのツケを運賃値上げと、運転者の賃金引き下げに転換し、雇用の大幅な後退や最賃違反の拡大として利用者と労働者にしわ寄せしている。
 この実態を改善するためには全道のハイタク労働者の総結集が必要なことから、5月に「全道ハイタクキャラバン」に取り組んだ。
 キャラバンでは、各地の運輸局要請を実施し、また各地で単組役員と交流を行って実態と経験交流を行うとともに、街頭宣伝や地域問題として報道された事により、地域の住民間でハイタクの実態が認識されたといえる。
 
C全道中小労働者研修交流集会の開催
 
 6月24日、帯広市で、地場中小労組の日常運動の活性化と、活動家の研修を目的に開催した。集会では、中小企業の財務の見方、労働法と中小労働運動、道内中小企業の経営について学習した後、交流を行った。参加者からは、開催を歓迎する声が多く出されるとともに、全道的な顔の見えるネットワークの必要性が訴えられた。今後は内容を充実して、日常活動に資するものとすることと、継続的な開催が課題となっている。
 
4.まとめとして
 
 06春闘の結果をまとめると、北海道の結果からも同様だが、この春闘の結果は、国内における二極化が著しく現れたものといえる。有効求人倍率が1.0を超える地方と、北海道や東北・四国・九州の一部など、その半分程度しかない地方との間では、成果に大きな格差が生じていることは明白で、。その地方では、賃金カーブの確保どころではない状況が相変わらず続いている。春闘討論集会の中でも、地場中小組合からは「労使間では解決できない」格差問題が提起されており、この問題に立ち向かう方針は連合運動の柱にしなければならない。
 
 とはいえ、この間の取り組みにおいて数点の課題も浮き彫りになっている。
 第1に、道内における産別機能の低下の問題である。産別の専従体制の縮小や大産別化によって、産別が傘下単組の情報を把握しきれない状況にあると思われる。したがって、連合北海道の集計に困難な状況が生まれ、正確な情報発信に支障をきたすこととなりつつあり、この解決は大きな課題である。
 第2に、多くの企業が経済見通しの不安を理由に、月例賃金にはほとんど反映しない実態にあり、経営上の成果はしたがって一時金などに反映されることになるが、それも産業や企業規模で大きく格差がある。また、07年問題のような比較的賃金の高い層が退職することにより、平均賃金による前年比較も意味を失いつつある。賃金改善の闘いの評価は今後の課題であり、連合本部の議論に参加しつつ、連合北海道の労働条件委員会等で、比較・評価の方法を検討しなければならない。
 第3にパートなど非正社員・有期労働者の対策の強化である。全雇用労働者に占める比率はすでに3分の一をこえており、企業内によっては基幹労働の一部となりつつあるとの報告もされている。したがって、労基法36条協定や労働協約締結にも大きな影響が出ており、組織化を含めて対策の強化が望まれている。現状は流通産業や公務職場の非常勤を中心に進められているが、その他の多くの職場でもパート・派遣・契約・偽装請負など非正社員・有期労働があり、今後は、これらの非正社員・有期労働者のネットワークをつくり、労働条件の向上や雇用労働法制の周知などをはかるとともに、公務職場における臨時職員の無権利状態の解消や、「同一価値労働=同一報酬」のILO100号条約の実現に向けた連帯の運動を強める必要がある。
 第4に、地場中小労組の交渉力を強化しなければならない。「全道中小労働者研修交流集会」の感想の中にも、毎年労働組合の役員が交代し、要求提出や交渉のノウハウがしっかりと継承されていないことがだされ、地区運動でも同じ実態があると報告されている。一定の期間役員を継続するよう産別に協力を求めるとともに、日常運動や春季生活闘争の取り組みに関するマニュアルを作成し、円滑な運動展開を促進することも検討しなければならない。
 
以   上
2007春季生活闘争 基本構想(案)
 
T.経済社会と勤労者生活の情勢認識
 
1.経済情勢
 
(全国)
○06年度の成長率の見通しは、政府は実質2.1%、民間の予測は2%台後半。
○過去3年間の実質成長率は、05年度3.2%、04年度1.7%、03年度2.3%となっており、中期的にみても実質成長率は2%を上回る。
○企業業績は5年連続の増益見通し。連結業績は、経常利益が前年同期に比べ15%増加(日経新聞、06年4〜6月期)。
○2006年度の設備投資計画(経済産業省)は、前年度比15.2%の増加、なかでも製造業は4年連続2ケタの伸びで24.3%増加。
○企業物価は3%前後、消費者物価は年間で0.6%程度。
○勤労者世帯の消費支出は、実質で2〜3%の減少。実質可処分所得は7月以外の月はマイナスで推移。大型小売店(スーパー+百貨店)の販売額も、この7月まで1%前後の減少が続いている。
 
(道内 北海道経済産業局)
○個人消費は持ち直し。スーパーは、引き続き飲食料品が好調で同+1.5%。百貨店・コンビニは若干下降。
○民間設備投資は製造業及び非製造業ともに増加。7月の新設住宅の着工戸数は前年同月比+23.9%。観光も7月の来道客数は、前年同月比+2.2%。7月の鉱工業生産は前月比+0.5%、前年同月比も+5.2%と5か月連続の上昇となり、緩やかに上昇。輸送機械工業や自動車関連向けの鉄鋼業は高水準を維持しているほか、電気機械工業も持ち直し。
○雇用は、7月の有効求人倍率は0.62倍と前月比同水準、前年同月比0.03ポイント上昇。事業主都合離職者は同+10.8%と前年を上回る。新規求職件数が同+1.1%と前年を上回ったほか、新規求人数も同+1.9%と前年を上回る。
○北海道経済産業局は「全体としては、緩やかに改善」と表現。
 
2.2極化する勤労者生活
 
完全失業率は低下傾向、8月は4.1%。有効求人倍率は4ヵ月連続で上昇、8月は1.08倍。雇用情勢は、改善されつつあるが非典型の増加によるもので問題は拡大している。
○生活意識について「苦しい(大変苦しい+やや苦しい)」世帯は年々増加し、05年は56.2%。なかでも、児童のいる世帯は60.1%が「苦しい」と。(国民基礎調査(厚労省))
○給与階級の分布比較では、300万円以下の層が増加し、300万円超の層が減少。(04と05 民間給与の実態(国税庁))
○06労働経済白書では、男子30〜40歳で賃金格差が拡大。学歴別でも格差は広がっている。
○被生活保護世帯は、2000年度は約75万世帯であったものが、2004年度は約100万世帯に増加。
○年金保険料の引き上げや定率減税の廃止などの負担増が既に決まっており、さらなる増税や負担増・給付減(可処分所得の減少)もはじまっている。
○規模間、業種間の賃金格差拡大が続いている。また、パート・有期契約・派遣・請負等の労働者は増加し続け、雇用形態別の格差が依然として拡大。
 
(道内 北海道労働局)
○完全失業率は5.4(06年4−6)で高止まり。有効求人倍率も8月の全数0.63(常用0.55)と伸びず。しかしこの5年間は穏やかに上昇している。
 
(道内 北海道経済産業局)
○物価は石油製品の高騰が続き、5月以降プラスに転ずる。
 
3.マクロで見た配分の歪み
 
○好調な企業業績が消費に結びつかず低迷しているが、その原因の一つに分配率の問題がある。マクロでみた労働分配率は、97年以降低下が続き05年は59.8%(97年は66.0%)にまで低下した。逆に企業への分配率は、18.6%から26.1%まで上昇している。
○法人企業統計(資本金10億円以上の企業)から見た付加価値分配率も、勤労者に対する分配率の低下が見られる。01年と05年を比較すると、付加価値に占める人件費は14.5%減少したが、配当は2.6倍、役員給与・賞与は1.7倍に増加している。
 
 
U.2007春季生活闘争の基本的な枠組み
 
1.2007春季生活闘争の基本スタンス
 
 春季生活闘争の役割は、労働者の生活の維持・向上をめざし、社会的な分配のあり方に労働組合として関与することによって、マクロ経済への影響力を発揮し、拡大した格差を是正することである。このため連合は社会的メッセージを発信する。
 
@ マクロの視点に立った基本的な考え方として、実質1%以上の成果配分を通じて労働分配率の歪みの是正を行う。
A 月例賃金を重視した賃金改善に積極的に取り組む。
B 未組織を含む全雇用労働者を視野に入れた配分のあり方を見直す必要がある。このため、中小企業労働者やパート労働者等など、所得が低い層を重視した全体の底上げをはかる。
C 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)をはかるため、総実労働時間の短縮に向けた取り組みを強化する。
※ 就業者一人あたりの実質GDPの伸び率は、年によって違いがあるが長期的なトレンドで見ると1%強となっている。
D 地域間・企業規模による労働条件格差の是正。
 
2.すべての組合が取り組む課題(07年のミニマム運動課題)
 
@ 「賃金カーブ維持分」と「物価上昇分」を確保したうえで、賃金改善に取り組む
A 規模間や男女間等の格差是正、均等待遇の実現に向け継続的に取り組む。
B 全従業員対象の企業内最低賃金の協定化を重点化。
C 労働時間管理の協定化と長時間労働の削減に向けて時間外・休日割増率の改善に取り組む。
D 地場単組の取り組みを前倒しして、時期を中央に準ずる取り組みとする。
E メンタルヘルス問題の根絶をめざして、労働安全衛生体制の見直しを行う。
 
 
V.具体的な取り組み課題
 
1.政策制度の課題(別途)
 
 
2.生活改善に対する取り組み
 
(1) 基本的考え方
 
@ 賃金カーブ維持分と物価上昇分を確保したうえで、ベースアップや時間給の引き上げ、格差是正、賃金カーブの是正、低賃金層の底上げ等によって、昨年を上回る「賃金改善」を行う。
A 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の観点から、年間総実労働時間1800時間の実現のために、労働時間の短縮、不払い残業の撲滅の取り組みや割増率の引き上げによって、働き方の改善を行う。
B 生活のベースとなる月例賃金の改善を最優先し、年間収入の維持・向上をめざす。
 
(2) 中小・地場組合の賃金改善
 
@ 単組は、自らの賃金実態や賃金カーブの課題を把握し、社会水準や生計費等との比較、時系列での分析などを行い、その是正に取り組む。
A 産別・地協は、中小・地場共闘を通じて単組の取り組みを支援する。
B 地域ミニマムの活用・賃金引き上げの要求目安を設定する。
C 交渉マニュアルの作成・活用。
 
(3) パート労働者等の待遇改善と平等待遇の実現
 
【基本目標】
 労働条件の明示など、法令遵守と「パートだから」という考え方に起因する差別的取り扱いを排除し、労使交渉によって平等待遇をめざす。
 
【具体的な取り組み課題(要求項目)】
@ 「同一価値労働同一賃金」を基本とした、労働条件決定システムにおけるフルタイム正社員とパート労働者等との整合性が確保された人事・賃金制度づくりをめざす。
A パート等を含む企業内最低賃金協定の締結と協定額の引き上げをはかる。
B 一般労働者の時間あたり賃金を考慮した、パート労働者の時間あたり賃金の積極的な改善に取り組む。
C その他パート労働者の待遇改善に関与する。
D 雇い止めの禁止と常用化の制度の導入と改善。
E パートニュースの発行。
 
(4) 男女間の労働条件格差の是正
 (別途)
 
(5) 賃金水準の参考目標値
 
○35歳勤続17年労働者
所定内賃金         円以上
○30歳勤続12年労働者
所定内賃金         円以上
○18歳初任給 円以上
 
3.仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に向けた働き方の改善とワークルールの課題
 
 法令や労働協約を守り、現状の働き方を改善する取り組みを通じて、働く側の選択肢が保障され、仕事と生活の調和がはかれる公正な働き方の実現をめざす。
 
(1) 労働時間短縮による働き方の改善
 
 総実労働時間1800時間実現をめざし、社会的な動きをつくるため次の取り組みを行う。
@ 所定労働時間の短縮(休日の増加、1日の労働時間の短縮等)
A 労働時間管理の徹底と不払い残業撲滅の取り組みを強化する。このため、36協定の協定内容の再確認を含む総点検運動を行い、職場の時間外労働の管理を徹底する。
B 恒常的な時間外労働を削減するため、すべての組合が時間外割増率30%、休日割増率40%の達成をめざす。さらに、連合の目標(時間外50%、休日100%)の実現に努める。
 
(2) ワークルールの課題
 
@ 改正高年者雇用安定法への対応を徹底する。
 希望する者全員が65歳までの就労が可能となる制度の実現をはかる。同時に組合員化をはかる。
A 労働法制の改悪の動きに対応した運動を提起し、職場におけるワークルールの確立に取り組む。
 パート・有期契約・派遣・請負(偽装請負)等労働者のワークルール、安全衛生(アスベスト対策含む)、労働時間管理など、直近の法改正への対応を含め、法令と労働協約の遵守を徹底する。
 業務請負契約をしているところは、労使協議を通じて適正な内容であるかのチェックを行い、問題がある場合は直ちに是正するよう求める。
 職場点検活動、労働相談活動等の計画的・効果的な配置を検討。
B 男女平等の課題 (別途)
C 北海道労働局・道にワークルールの徹底と遵守の啓蒙などを要請する。
 
(3) 労働安全衛生の取り組み強化
 
@ 労働安全衛生委員会等の活動点検と活性化の提案。
A メンタルヘルス問題の解消のための研修・学習会の開催。
B 北海道勤労者安全衛生センターの作成したポスターの掲示活動と、「メンタルヘルス・ステッカー」を作製して全ての職場に貼る運動に取り組む。
 
 
4.最低賃金の課題
 
 すべての労働者が、最低限の生活ができる賃金水準を実現すべく、社会的な水準規制を行う。
 
(1) 企業内最低賃金の取り組み
 
@ すべての組合で企業内最低賃金の協定化を行い、法定最低賃金の引き上げに結びつける。
A 全従業員対象の企業内最低賃金の目標水準は、リビングウェイジをもとに設定する。 (単身最低生計費148,000円÷法定労働時間174時間=850円/h)
 
(2) 法定最低賃金の課題
 
@ 産業別最低賃金の継承・発展と地域別最低賃金の機能強化を推進する。
A そのために、最低賃金対策委員会を適宜開催する。
B 組織労働者の賃金改定結果を踏まえ、法定最低賃金の引き上げを行う。
C 道内2箇所で最低生活費調査を行う。
 
5.取引関係の改善と公契約に関わる運動
 
○CSR(法令遵守などを取引基準とするなど)やグループ内労使会議、行政の認定制度(貨物輸送の安全性優良事業所制度等)などを活用した動きについて把握し、取引関係の改善を進める。
 
○重点地区の設定や総合入札制度の改善を検討するなど、公契約に関わる運動を前進させる。
 
6.道内の課題
 
@ 公共サービス・公務員制度改革と自治体の財政再建
A ハイタク
B 季節労働者
C その他
 
 
W.闘いの進め方
 
1.賃金の相場形成・波及メカニズムの構築
 
@ 個別賃金の絶対水準を重視した相場形成と、波及メカニズムの構築をめざしていく。07年は中小・パート共闘組織による相乗効果の発揮によって未組織労働者への波及をはかる。
A 地場集中決戦方式の継承と強化に取り組む
B 要求・交渉結果についてどのように把握し、相互の情報開示によってどのように相場形成に結びつけるか。特に産別の機能低下に対する対策。
C 労働基本権を背景とした春季生活闘争にこだわる取り組み。
 
2.効果的な相場波及の取り組み
 
@ 北海道経営者協会をはじめとする経営者団体に対し、連合北海道の考え方と主張を伝え、道内における賃金改善の理解共有をはかる。
A 全地協における取り組みと役割を明確にし、短期専従など機能を強化することにより、地場交渉の促進をはかる
B パート共闘・中小共闘をさらに強化し、「パート労働者の集い」や「全道中小交流研修集会」などを適宜に開催する。
C ヤマ場における相乗効果を発揮するための機能強化を検討する。
D 情報開示や集約方法などを検討し、内容の充実と波及につとめる。
 
3.闘争機関の設置
 
@ 闘争委員会
A 拡大闘争委員会
B 中小共闘・パート共闘
 
4.要求書の提出と回答ゾーンの設定
 
○効果的なヤマ場の設定と回答引き出しについて。
○中央に準拠した要求・交渉の設定を目指す。
 
5.通年的取り組みの強化
 
○職場点検活動(労働時間・安全衛生・男女平等・ほか)
○労働相談(07年2月)
○労働協約の見直し(モデル労働協約)
 
 
X.当面の日程
 
12月 連合総研と合同のシンポジウム・第1回闘争委員会
闘争方針確認・闘争本部設置
07年1月〜2月 地協討論集会
1月 第2回闘争委員会
2月 第3回闘争委員会(拡大)・なんでも相談
3月 第4回闘争委員会・戦術委員会・全道総決起集会
 
以 上