V いま、何が起こっているのか (情勢と課題)
 
一、グローバル化の世界はいま(世界情勢)
 
@ 世界経済は高い成長を続けながらグローバル化をさらに進めています。しかし一方で、21世紀初頭の世界政治は揺らぎのなかにあります。
 金融や情報がかつてないスピードで世界を行き交うなか、国・地域間の経済的相互依存関係は深まり、市場経済における世界統合は進む一方で、内戦・格差拡大・環境問題など地球レベルの諸問題について深刻さは深まっています。
 また、中国などアジアの急激な需要拡大と投機による石油価格の暴騰は、OPECの増産にもかかわらずいっこうに好転する兆しを見せず、世界経済に与える影響はこれから顕著になってくるものと思われ、石油に起因する南北格差のさらなる拡大などが強く懸念されます。
 
A 単極主義(ユニラテラリズム)の方針をとる米国のブッシュ政権は、“テロとの戦い”を標榜してイラクに攻め込んでから2年、ますます泥沼化した状況になっていますし、いまはイランの核問題を焦点化して、中東における軍事行動をやめようとしていません。
 一方、米国内の経済は比較的順調に拡大を続けていますが、ハリケーン「カトリーナ」の影響がどの程度あるのか見通しが立たず、大きな懸念材料となっています。また、順調な経済のおかげで膨大な財政赤字の削減は速いピッチで進んでいますが、経常収支の赤字はむしろ拡大し深刻化しています。
 
B 欧州経済は昨年後半からユーロ高などにより減速しつつありますが、世界的な長期金利の下落は、再びユーロ経済圏の景気を浮上させる動きとなってきています。
 全体統一をめざす欧州憲法の批准の動きに関しては、加盟国の拡大を続けようとする国と、加盟国の現状維持を求める国との意見対立が明確になり、フランスなど主要国が批准を否決したため、いったん頓挫した格好になりましたが、欧州の全体統一をめざす方向性には異なる意見はみられないことから、全体が批准可能な憲法案にむけての修正作業が続けられる見通しとなっています。
 
C アジアでは、過熱気味な成長を続ける中国経済に対し人民元の切り上げが行われましたが、その規模は2%と、日本経済に与える影響は当初懸念されたほどではありませんでした。しかし、わが国貿易額のアジア・シフトが急速に進んだ大きな要因は中国貿易の拡大にありますので、今後も人民元の動向には注視する必要があります。
 また、アジア諸国との関係では、EPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)の動きを強めて、経済的に一体化を進める方向にあります。一方、小泉首相の靖国参拝問題をめぐって、中国・韓国で反日運動が高まりを見せるなど、政府の稚拙な外交で混乱を招いています。
 
D 04年12月に宮崎で開催されたICFTU(国際自由労連)第18回世界大会では、「連帯のグローバル化とグローバル・ユニオン運動の構築」がメインテーマとなり、ICFTUとGUF(国際産業別組織)、OECD-TUAC(経済協力開発機構・労働組合諮問会議)がグローバル評議会を創設して、WTO(世界貿易機構)やIMF(国際通貨基金)などに、労働者の立場から経済・雇用政策など様々に働きかけを強めることになりました。
 連合は世界経済を牽引するアジアの、そしてそのアジアの中核的位置にある日本の労働運動組織として、わが国の多国籍企業に対し社会的責任の達成などの監視を強めるとともに、アジア労働運動の円滑な発展に大きな責任を負っています。
 
二、社会的公正の実現は政権交代で(国内情勢)
 
@ 国内経済は、01年のマイナス成長から、04年には1.9%と安定的な成長過程に入っています。その大きな要因はアジア貿易、特に中国貿易であり、金融における不良債権処理の進展と相まって設備投資の拡大も始まりました。しかしこれも地域間では、大きな格差が見られ、東海・中国地方は順調となっていますが、北海道・東北が相変わらず低迷しています。
 国内経済は、全体的には、物価がデフレ脱却の兆しを見せるなど消費拡大に向かっており、雇用も05年9月で有効求人倍率が0.95と、むしろ人手不足感が出てくるほどになっています。しかし、雇用の回復は非典型の拡大など質の面で懸念があることと、今後は安定的な景気維持のため、内需の拡大につながる賃金への反映が強く求められます。また、失業者数は減少傾向にありますが、相変わらず3割が2年以上の長期失業であることへの対応が急務です。
 
A 評価は別として、この4年間の小泉政治が国内政治にとって大きなエポックであったことは確かなことです。それは自民党が保守政党から「小さな政府」をめざす新自由主義政党に衣替えしたことで明らかです。
 この間の自公政治は、親米路線と新自由主義路線に抵抗する自民党橋本派・道路族を解体し、規制緩和を進めて市場主義の徹底をはかり、格差を是認し、個人の自己責任原理を普及し、国家責任を最小限とする「小さな政府」の実現に邁進しています。
 この“構造改革”の結果、道路公団は民営化され、いま郵政民営化と特殊法人の解体が始められようとしています。また、地方分権を進めるための三位一体改革は、約束された税源委譲が3割程度でとどまる一方、地方交付金が大幅削減され、その結果、政府が身軽になって、地方自治体の財政危機は拡大しています。この財政危機を理由に、国家・地方を問わず公務員人件費の削減と官公労運動への規制・抑圧は強められています。
 いま早急に対されるべき問題は、1,000兆円に及ぶ自民党政治が作り出した膨大な借金と、年金などの社会保障の財務的危機であるはずですが、その解決はいっこうに示されず、むしろサラリーマンのみをターゲットにした大増税路線が画策されるなど、国民生活への痛みの押しつけ、悪影響と将来不安のみが年々高まっています。
この10年間の社会状況の変化  (2005.5)
  最近の統計 2000年 1995年頃
生活保護 世帯    1,016,341      775,728      585,972
生活保護 人員    1,447,807    1,072,241      898,499
生活保護 高齢者世帯      472,293      341,196      235,119
就学援助 比率      10.63%      8.02% 4.77%
貯蓄なし世帯 比率      22.9%      16.7%      10%程度
完全失業者  313万人 4.7%  320万人 4.7%  142万人 2.2%
フリーター 人数      450万人      384万人      182万人
非正規社員 比率      34.6%      27.4%      22.8%
自殺者      34,427      30,957      21,851
精神障害者福祉手帳      312,794      190,741      29,851
自己破産      219,402      145,207      45,064
児童虐待      26,569      18,804       1,372
勤労者世帯 年収      730万円      769万円      765万円
離婚件数 283,854      264,246      179,191
 
 
B 9月11日に投票が行われた第44回衆議院総選挙は、自民党の圧勝という結果に終わりました。自民党の絶対安定多数と自公与党により3分の2の勢力を占める政治状況は、1990年以来のことで、2003年から言われてきたわが国における“2大政党政治”を後退させました。
 しかし、国民生活の2極化による閉塞感に起因する、改革の遅れと展望のなさに対する国民のいらだちは、強烈なマグマとして存在し続けており、次の国政選挙(07年参議院選挙)において、大きく勢力が変わる可能性があることは確かに感じられます。勤労者を基盤とする民主党との連携を強め、07年の統一自治体選挙までには、2大政党制にふさわしい地方における民主党の基盤強化、政権党になるにふさわしい地方政治の環境醸成と、地方自治危機の打開に向けた画期的な戦略と戦術の構築が必要です。
 
C 民主党北海道との共催により、日本国憲法の「平和主義」「主権在民」「基本的人権の尊重」の3大原則について尊重することを基本姿勢とし、日本国憲法の現在、過去、未来について、各政党方針や連合本部による「国の基本政策検討作業委員会中間報告」、著名な専門家の意見、憲法に関する各産別の方針等について学習・討議を深め、オープンな議論により憲法のあり方についての意思疎通を深めるため、憲法講座を3回開催しました。それぞれ200〜300名、のべ800人が参加して関心の高さを伺わせました。
 衆議院憲法調査会は4月15日、参議院憲法調査会は4月20日、5年間の議論を集約した最終報告書を自民、公明、民主3党の賛成多数で議決しましたが、それぞれ両論併記となっています。選挙後は、憲法改正の手続を視野に入れた国民投票法案の議論も始められようとしています。
 連合北海道と民主党北海道は、こうした自民党がめざしている憲法改正に組することなく、今後さらに憲法改正の動きが強まった場合でも民主党が主導的な役割を果たし、特に焦点とされる9条が改悪されることのないよう憲法に関する議論の活性化をはかる必要があります。
 
D 完全失業率は、03年1月の5.5%をピークにようやく低下に転じ、05年7月には4.4%となりました。また、10年間増え続けた「臨時雇」の一方で減り続けた「常雇」も05年以降は先行して増加しています。全体的な雇用情勢は地域差を拡大しながら、好転しつつあります。
 ただ、長期失業は男性の25〜34歳層が多くを占め、若年の長期失業者が滞留していますし、パートタイム・派遣やフリーター・NEETなどの拡大は、一方で低所得層の拡大でもあり、税や社会保障負担の弱体化は、国の財政再建に暗い影響を及ぼすことが懸念されます。
 政府の発表によれば、人口減少社会は予想の07年より2年早く、今年から始まりました。さらに07年から団塊世代が60歳をむかえ、まもなくリタイヤすることになるなど、わが国の労働人口は減少に向かうと考えられます。わが国経済を支える生産性の確保や労働の質の維持など、社会全体で考えて対策を講ずる必要があります。
 
三、新しい北海道の創造を展望して(道内情勢)
経済・雇用
 
@ 北海道経済は依然厳しいながらも、一部に回復の動きが見られるようになりました。しかし全国の好調に比べるとまだまだ厳しい状況が続いていると言えますし、これから冬にかけては特に石油製品の大幅な値上げが個人消費に影響する懸念があります。
 個人消費は大型小売店・スーパー・コンビニともに、相変わらず前年を下回っていますし、家電販売・新車登録は春先の一時期前年を上回りましたが、全体的には横ばい状況にあります。
 住宅建設・公共工事は下降傾向が止まっていません。ただ、設備投資のみは道外の経済の好調に牽引されて、製造業・非製造業ともに回復しています。
 雇用情勢は、失業率が5.2%、失業者数は14万人で、ひところの6.7%、19万人からは改善されました。有効求人倍率は0.57と、連続して前年を上回る状況となっていますが、全国が0.95で人手不足もささやかれる状況の中で、低い水準であることに変わりありません。しかし、新規求人倍率では0.99で、ここ1年は前年を上回っています。
 
高橋道政・財政再建
 
@ いま北海道庁は、全国でも昭和40年以降に例のない、赤字再建団体への転落が現実的という危機的財政状況にあります。その原因は道税収入の急激な落ち込み、地方交付税の大幅縮減などに加え、5兆円の地方債を抱えて、その償還額が7千億円にもなることや、介護保険・老人医療費などの義務的経費が増加する中で、今後2千億円前後の収入不足が見通されているからです。
 それに対し、道は「道財政建て直しプラン」を立てて、中期的見通しのもとで不足額の圧縮を図ろうとしていますが、再建団体になれば、人件費削減による労働条件悪化はもちろん、収入拡大策では道税の大幅な増税、支出では道単独事業・上乗せ事業がほぼできなくなるなど、道民生活に大きな影響が出ることになります。
A しかし高橋はるみ知事のこの2年間は、まさにリーダーシップの不足であり、このような危機に対処する説明責任が道民に示されていませんし、真摯に対話する姿勢や理解を求める行動は希薄で、道民とともに解決すると言うよりも、中央政府依存で対処しようとする姿勢のみが目立ち、その目線は常に中央を向いている印象があります。
 連合北海道が春に実施した組合員アンケートでも、44%が評価できない(男性46%、女性31%)としており、評価できる(25%)と大きな差が出ています。
 これらの評価は特に道警報償費不正経理問題の不徹底さ、あるいは、「北海道新生」を選挙スローガンとしながら、2年間にわたって、なにも新しい考えを提起していないことなどによるものと思われ、高橋道政に対する評価は下がり続けているといえます。
 
社会正義・道警不正経理
 
@ 北海道警察の報償費などに関わる不正経理問題では、6度にわたる百条委員会設置が否決されるなかで、特別会計監査の実施や民主党による刑事告発など、真相解明に向けた動きが取り組まれてきました。連合北海道も「道民の会(市川弁護士代表)」と連携し、道内10数カ所で道民集会を開催し、どの会場も定員を超える関心の高さを示しました。
 しかし、北海道警察の対応は、特別監査の妨害とも取れる非協力なものに終始し、道庁不正経理における当時の道庁の対応とは天地の開きがあります。また、高橋北海道知事は裏金問題が組織的であることを認識しつつ、再調査を行わないことを表明し、実質的な幕引きを画策しましたが、これは宮城県の浅野知事が「真相解明なくして支出無し」と報償費執行停止の強い態度を取ったことと対照的な姿勢と言わなければなりません。
A 今後は、刑事告発に基づく司法の動きを注視しつつ、税金の不正使用を正す運動として、道と道議会の真剣な取り組みを引き続き求めるとともに、警察庁・道警幹部の国民・納税者を見下した横柄な態度を改めさせ、民主的な警察機構とする道民運動を一層取り組まなければなりません。
 
新しい道政への展望
 
@ 北海道庁の道債が約5兆円であるとともに、道内市町村の公債額は合計2兆8千億円(平成15年決算、公債費率20.8%)となり、道内市町村もまさに財政的には危機状態となっています。地方交付税交付金の大幅削減や、“分権”と言う名の業務の押しつけは、このような状況の悪化に拍車をかけ、道内自治体は機能不全に陥りつつあります。
 しかし今後の高齢社会を支え、その社会保障を担う主な現場は地方自治体にあります。道民・住民への行政サービスを維持し、拡大するサービス需要に対応するために、自治体の経営と自治に関する改革を進めなければなりません。
A 高橋道政が、それまで20年間とってきた“自主・自律”の精神を否定し、中央直結・中央依存にこだわり続ける以上、現状を改革することはできません。連合北海道は民主党とともに、“痛みの伴う改革”にまじめに取り組む道民・住民の意志を組織し、本来の“地方自治”を立て直す運動を提起しなければなりません。住民自治の市町村、市町村自治・道民自治の道庁を目指した自治体改革を進めるために、07年統一自治体選挙において、道政の奪還と市町村首長との連携強化を図る必要があります。
 この困難な経済・社会状況において求められる北海道のリーダーは、労働組合を含め、あらゆる階層の道民の目線に立ち、耳を傾ける謙虚さと積極性を持った政治家であることが求められます。