2001/5/3
読売新聞社が北方領土「元」島民のアンケートを実施した。
「二島先行返還」に賛成が28%、「四島すべてで日本の主権が確認された以降なら賛成」が51%――。北方四島の元島民に、読売新聞が初めて行ったアンケート調査の結果だ。元島民たちは日露間の外交交渉をどう見つめているのか。
北方領土問題をめぐる政府の対応は、「二〇〇〇年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」ことで合意した一九九七年のクラスノヤルスク合意以降、一貫性を失っているように見える。
最近の交渉姿勢を一言で言うなら、「北方四島が日本領であるのをロシアに認めさせる代わりに、実際の返還時期では柔軟に対応する」のか、「歯舞、色丹の二島をまず返還させ、残りの国後、択捉は継続協議とする」のかの二論に尽きる。
今年四月に北方領土視察のため北海道根室市を訪れた森前首相は、「歯舞・色丹と、国後・択捉は車の両輪」と表現し、北方四島を二つに分け、別々に交渉していることを示唆した。
この二論について、元島民たちはどう考えているのか探るため、五百人を対象に(回答百八十人、回収率36%)アンケート調査を実施した。
その結果、二島先行返還に〈1〉賛成28%〈2〉反対13%〈3〉四島すべてで日本の主権が確認された以降なら賛成51%――の結果となった。
〈1〉は森前首相や対露外交に影響力を持つ鈴木宗男自民党衆議院議員らの見解に近く、〈2〉は冷戦時代の四島一括返還にこだわる立場だと言っていい。〈3〉は、九八年四月に橋本元首相がエリツィン前大統領に提案した内容や小泉首相の主張に近い。
アンケート結果からは、〈2〉と〈3〉を合わせた64%の元島民が、四島の帰属問題を一括して解決することを望んでいることが分かる。「一括して解決しないと、国後・択捉は永久に返ってこなくなる恐れがある」「スキを見せたら、ロシアから譲歩を迫られる」「自分は歯舞群島出身だが、国後、択捉の皆さんのことを考えると賛成できない」などの理由が目に付いた。
一方で、歯舞・色丹を先に返してもらい、国後・択捉は継続協議するという考え方に賛成した元島民も、28%いた。理由は、「国後、択捉は、ロシアが手放さないだろうから」「島の周辺で、早く漁がしたい」などが多かった。
四島の帰属問題の解決方法をめぐって政府の揺れる対応に、元島民たちの気持ちが、「一枚岩」でなくなりつつあるように見える。
千島歯舞諸島居住者連盟の得能宏・前根室支部長(67)(色丹島出身)は、「今までは、『四島一括返還』で一つにまとまっていたが、今後、返還運動がバラバラになってしまう危険性も出てきた」と心配している。
札幌国際大の荒井信雄助教授は、「政府はロシアとの交渉過程について、説明責任を果たしているとは言えない。クラスノヤルスク会談や先のイルクーツク会談の結果について、日露双方で違った受け止め方をしているのがその一例で、元島民は、首脳会談の度に一喜一憂するしかないのが現状だ」と指摘している。
日本の迷走は、国内を混乱させるだけでなく、ロシアにも誤ったメッセージを伝えかねない。日本の方針は、「四島一括解決」が大前提だったはずだ。国後、択捉の解決を先送りにして、先に歯舞、色丹を返してもらおうという「二島先行返還案」をちらつかせたりせず、軸足をしっかりと定めて、平和条約締結交渉に臨むべきだ。その上で、北方領土問題の当事者である元島民の声に耳を傾けることも、忘れるべきではない。
読売新聞北海道支社が元島民500人に対して行った
北方領土に関する質問と回答
(数字は%、小数点以下四捨五入、アンケートの質問項目は一部省略)
◆歯舞、色丹の2島先行返還論について、どうお考えですか
・四島で日本の主権が確認されるなら賛成 51
・賛成 28 ・反対 13
・分からない 5 ・その他 3
◆返還が実現したら、すぐにでも故郷の島に帰りたいとお考えですか
・帰る気なし 42 ・日本政府の整備後に 23
・分からない 23 ・すぐに帰りたい 12
◆「帰る気はない」を選んだ方にうかがいます。その理由は何ですか
・高齢で体力的に自信がない 71
・生活の糧がない 14 ・その他 11
・ロシア人と共生する自信がない 3
・回答なし 1
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【調査方法】▽調査日=4月14―30日▽対象者=千島歯舞諸島居住者連盟
の会員から支部の規模に応じて500人を無作為抽出▽実施方法=質問を郵送、
回答を返送▽有効回収数=180(回収率36%)