(第60号) 2006年10月25日(水)
政策調査情報連合北海道 総合政策局
夕張市財政再建問題と課題について
 6月に夕張市長が財政再建団体入りを表明してから、莫大な借金を背負う空知管内の旧産炭地域自治体の窮状がクローズアップされるようになった。このような危機的状況に対して連合北海道は、「地方財政問題対策委員会(委員長:渡部連合北海道会長)」を再編強化して対応策を検討することとし、直面する夕張市の財政再建問題については、去る10月23日の第1回企画委員会(委員長:佐藤事務局長)において現状と課題を整理し、道に要請する支援策(素案)をまとめた。
■破綻した夕張市財政−2005年度までに257億3千万円の実質赤字
 かつて「炭都」として12万人の人口を擁した夕張は、1990年に炭鉱が完全閉山。地域の再生を託してテーマパークやスキー場、ホテルなどの観光事業を展開するが観光客は増えずに行き詰まり、市財政を圧迫する大きな要因となった。その一方、財政悪化を覆い隠すため、一時借入金に依存して黒字決算を装う会計操作を続けてきたことが、こんにちの財政破綻を招くこととなった。
 その結果、2005年度までの実質赤字は、一般会計が40.6億、病院事業が39.4億、そして144.7億と最も多額の観光事業など合計すると257億3千万円にものぼる。今後策定する再建計画で解消すべき対象となる赤字額は、257.3億円に2006年度の赤字額が加算され355億円に達するとみられている。
■財政再建と市民生活への影響
夕張市が9月4日に示した「財政再建の基本的な考え方」は、以下になっている。
 <基本姿勢>
 @ 法に基づく再建の対象となる普通会計や病院事業会計等はもとより、特別会計、公社・第3セクターの全般にわたり、不要不急の事業の休止・中止、将来性の厳しい見極めと不採算事業の中止、統廃合など抜本的な改革を実行する。
 A 市財政がこのような状況に至った大きな要因と考えられる総人件費、観光事業、病院事業を財政再建の重点分野と位置づける。
 B 市自ら徹底したスリム化を進める姿勢を示し、一定の行政サービスの低下や住民負担の増加について市民の理解を得る。
 <分野ごとの取り組みの方向>
@ 住民生活に必要な最小限の事務事業以外は、ゼロベースで見直す。組織や施設の集約化や廃止など徹底的なスリム化を進める。第3セクターへの赤字補填的な支出は行わない。
A 市民の過重な負担増にならないよう配慮しつつ、市税、使用料・手数料負担を見直す。
B 職員採用の停止や早期退職促進、組織・機構の見直しにより職員数を大幅削減。給与水準も引き下げる。
C 不採算の観光事業は実施せず、業務委託先の見直しや観光施設の民間への売却を進める。
D 市立病院は「公営企業再建計画」による抜本的な医療・経営改革に取り組み、必要最小限の機能を存続させながら、不良債務の計画的解消をはかる。
○市立総合病院の経営診断と今後の行方
約40億円の赤字を抱える市立総合病院について、総務省の経営アドバイザーが行ってきた外部の経営診断の結果が8月30日にまとめられた。内容は、病院の土地や建物は市が所有する一方、経営主体は指定管理者制度による「公設民営」とし、運営にあたる医療法人を全国から公募することを打ち出した。また、現在、11ある診療科を4科への縮小を求めている。診療体制は、@内科、整形外科、リハビリテーション科、透析科の4科体制、A現在の170床を30床に削減する一方、収益が見込める老人保健施設150床を開設することとしている。また、救急医療については、他の医療機関との連携システム構築によって対応するとして、事実上の撤退を打ち出している。
これを受けて、夕張市では、病院経営アドバイザーや北海道、夕張市の労使が参加する「病院改革推進委員会」を設置し、第1回会議を11月中旬に開催する予定としている。
しかし、現実的には11月には院長が退職し、その後は内科、整形外科の各1人体制となる。8月からは救急搬送は市外としている。
一方、道は来年夏までに赤字経営となっている道内過疎地の自治体病院、日赤、厚生連などの公的病院を加え、地域毎に総合的な医療を担う中核病院と初期医療を行う診療所などに再編する集約化構想の策定に着手している。よって、道の第2次医療圏として位置づけられている南空知の集約化構想の中で夕張市総合病院をどのように位置付けていくのか、との観点から検討していかなければ展望は見いだすことはできないと考える。
今後の観光施設のあり方について
  9月28日には、夕張市として市所有の31観光施設の今後のあり方について、以下の点について言及している。@収益性のない観光施設は原則として休止又は売却する。A石炭博物館などの産業遺産としての公益性の高い施設や公園などの公共性の高い施設の管理維持に係る市の経費負担は、最小限とし、財政再建計画において検討する。B収益性が見込まれる観光施設の運営には原則として一般財源を投入しないこととし、より効率的な運営が期待される場合は委託を検討する。
  その後、10月4日からは、めろん城や石炭博物館、ホテルシューパロ・マウントレースイなど21観光施設について、委託・売却先の募集を始めた。
2006年度市財政決算の黒字に向けて9月議会では補助金、委託料を1億8千万円削減
  現在、夕張市では、2005年度会計の赤字決算を踏まえ、2006年度会計においても未執行事業等については大幅な削減を実施している。9月議会においては、賃金、委託料、物件費、補助金など約1億8千万円を削減した。
  その結果、2006年度の決算見込は、人件費、物件費、建設事業費など当初予算より約11億円を削減予定。
  また、今回の見直しにおいて、2007年度からは以下の事業が廃止・廃止予定となっており、市民生活に大きな影響を及ぼすこととなる。
・高齢者住宅除雪ヘルパー派遣(245世帯、7,312千円、廃止予定)
・高齢者パス料金軽減補助(21,505千円、廃止)
・生活バス路線維持事業費補助(7,945千円、廃止)
・民営公衆浴場運営費補助(2浴場203世帯、1,650千円、検討)
・通院交通費補助(5,491千円、廃止)
・防犯電灯料補助(2,300千円、廃止)
・道医療給付事業(障害者、老人、乳幼児、ひとり親家庭、対象者1,192人、33,832千円、検討)
・農業振興費補助(6,923千円)
・商工会議所補助(5,554千円)
賃金合理化問題について
職員の賃金削減は、9月から実施されているが、さらなる削減が計画されている。
市長862千円(現行699千円△18.9%)→431千円(△50.0%)
助役699千円(現行615千円△12.0%)→419千円(△40.0%)
一般職 現行△5%→△15%、 一時金 4.45月→3.45月(△1.0月)
市外居住者は、住居手当の不支給及び通勤手当は行政区域内に対応
■夕張市財政再建に向けて連合北海道が重視していく課題について
  夕張市は、赤字額の総額を355億円(病院事業を除く)と算定し、これを返済していく再建計画を策定中である。11月上旬には総務省に素案を提示していく予定である。
再建計画は返済期間を最長30年とする赤字地方債の発行(法改正が必要)を前提に、今年度、一般会計などで25億円の削減を行い、そうした財政規模から毎年12〜13億円を返済していく内容になる模様である。
 こうした厳しい再建策を推進するにあたって、夕張市・市民の主体的な努力を前提にしながらも、国や道の支援策がなければ進展しないのではと推察される。また、懸念される産業の衰退や人口流出により自力再建が可能なのかどうか、さらに、他の市町との合併問題も避けて通れないのではないか、との危惧も抱かざるをえない。
 道は、国に債務を平準化するための「財政再建債」の創設など法改正の要請、夕張市事業の代行や公共事業の夕張市内での優先実施等の支援策を検討中である。夕張市の現状をふまえたしっかりとした支援策を期待するものである。そのためには、北炭閉山の際に住宅の改良、北炭病院の引き受けなど、事後処理にかかった費用は総額580億円にものぼり、このうち330億円を地方債として市が負担しながら、石炭に替わる新たな産業育成と地域振興への努力が始まったことを認識しておくべきである。
 連合北海道としては、夕張市が財政再建計画において生じる市民への一定の行政サービスの低下はやむを得ないが、最大限回避すべき事業については維持すべきであると考える。そのためには道との協議により「道の代行等の支援策」により事業の維持・継続をはかっていくべきと考える。
 そのための課題や事業として、第1に、道がどのような姿勢で夕張市再建に向けて国との対応や支援策を提示するのか明確にする、第2に、独居高齢者や障害者、ひとり親家庭など社会的弱者が生活に必要な医療・福祉・保健等に関する事業は維持されていくべき、第3に、既に各種施設の閉館、委託事業の廃止等により発生している雇用(解雇・失業)問題の解決に努力すべき、第4に、将来を展望して夕張市の基幹的産業を維持していく事業は確保されるべき、と考える。
 よって、必要な課題、事業に関する支援策については、道及び国に提言や要請行動を実施していくことにする。
  必要な事業等の維持や継続は次の通りである。
社会的弱者等の生活に必要な医療・福祉・保健等の事業の確保について
 @北海道医療給付事業(道単独事業)−市として検討中
  ・重度心身障害者医療費給付(対象者/513人 事業費/63,607千円・市負担/24,546千円)
  ・老人医療費給付(対象者/102人 事業費/9,986千円・市負担/4,657千円)
  ・乳幼児医療給付(対象者/322人 事業費/6,033千円・市負担/3,099千円)
  ・ひとり親家庭等医療給付(対象者/255人 事業費/3,622千円・市負担/1,530千円)
A民営浴場補助(道補助・市補助)−市として検討中
   道補助  市が事業費の1/2交付した場合補助 2浴場 895千円
   市補助  2浴場 定額 1,200千円 赤字分の1/2 1,041千円  計 2,241千円
   ・紅葉山浴場(28世帯44人/延べ3,387人) ・清水沢浴場(175世帯296人/延べ6,261人
B高齢者住宅除雪奉仕員派遣(市単独事業)−市として廃止予定
体力的、経済的に困難な高齢者世帯等に対して、除雪奉仕員を派遣。おおむね65歳以上の高齢者等で親族の世話を受けられない方で所得税非課税世帯。高齢者家庭の玄関前から公道まで15p以上の降雪時に派遣。(平成17年度228世帯 延べ4,432回 4,780千円)
C生活バス路線の補助(市単独補助)−市として廃止
   国庫補助路線(札幌4、栗山1)
   道補助路線(市内1) 市が1/2 負担 272千円
   単独補助路線(市内12) 補助額  7,673千円
   バス便数 平日 76便、休日 44便
○各種施設の閉館や委託業務の廃止等により発生する雇用(解雇・失業)問題の解決策の検討について
 <夕張市関連職員の状況>
  ・夕張市/合計:406人 ウチ普通会計:274人  (※類似団体:140人)
    内訳:一般行政188人、教育37人、消防49人、公営企業132人(病院、水道)
  ・市立総合病院/合計:171人 (正職員107人、臨時職員51人、非常勤職員13人)
  ・公社・第三セクター/合計:209人 (役員15人、職員194人)
    叶ホ炭の歴史村観光、夕張観光開発梶A夕張木炭製造梶A(財)夕張振興公社、夕張市土地開発公社  ・第三セクター以外の委託先/合計:216人
   ○北星美装産業株:186人〜住宅管理、清掃、夜警、宿日直業務
   ○夕張環境清掃梶F 30人〜清掃、し尿処理業務
将来を展望した夕張市の基幹的産業を維持していく事業の継続について
農業振興費補助(6,923千円)、商工会議所補助(5,554千円)
■連合北海道として「道へ要請する支援策」について
  夕張市財政再建に向けて夕張市の主体的な取り組みを前提にしながらも、特に国及び道からの支援策がなければ道は切り開かれていかないと考える。
連合北海道としては、「2.夕張市財政再建に向けて連合北海道が重視していく課題について」において提起した次の4点について、道の姿勢や支援策を求めていくことにする。

(1)道がどのような姿勢で夕張市再建に向けて国との対応や支援策を提示するのか明確にする。
(2)社会的弱者等の生活に必要な医療・福祉・保健等の事業の確保について
(3)各種施設の閉館や委託業務の廃止等により発生する雇用(解雇・失業)問題の解決策について
(4)将来を展望した夕張市の基幹的産業を維持していく事業の継続について

 
特に、現在、夕張市が再建計画の策定に向けて「事業の抜本的見直し」を行っているが、本来なら廃止出来ない事業もその対象になっており、「道が事業の代行」という支援策も不可避の状況におかれている。
また、深刻な雇用問題も発生する状態のなかで、「夕張市の観光施設運営を加森観光が一括受託を検討中」(10月20日道新朝刊)との報道がなされており、民間企業からの積極的な「観光事業」への支援を求めていくことが、雇用問題の対策にもなる。
なお、雇用問題に関して市職員・市立病院職員については当該産別である自治労が対応していくことを基本とする。
よって、とりわけ道に対して4項目のなかで緊急に必要な課題について要請行動を実施することにしたい。時期は11月上旬を予定する。
 
道に求める「事業の代行等」の支援策(素案)について
 
(1)道がどのような姿勢で夕張市再建に向けて国との対応や支援策を提示するのか明確にする。
 
(2)社会的弱者等の生活に必要な医療・福祉・保健等の事業の確保について
  @北海道医療給付事業(道単独事業)について(市として検討中)
北海道医療給付事業として、全市町村で実施しており、市の負担ができなければ受給者負担が増えることとなり、道民として夕張市だけが、給付を受けることが出来なくなる。それを避けるためには道が事業を代行すべきと考える。
A民営浴場補助(道補助・市補助)について(市として検討中)
    紅葉山、清水沢地区2浴場とも地域に浴室を設置している住宅が少ないことから、補助中止により廃業となれば、居住市民の保健衛生保持が困難になる。それを避けるべきである。
B高齢者住宅除雪奉仕員派遣(市単独事業)について(市として廃止予定)
    65歳以上の高齢者世帯を考慮すれば派遣条件の検討をしながら継続すべきであると考える。
C生活バス路線の補助(市単独補助)について(市として廃止)
    夕張市は、広い後背地がないことから、「うなぎの寝床のような」と形容されるように、狭い谷底に点在する小市街地が幾つも形成されていることから、バス路線の確保ができなければ、市民の通勤、通学者に支障が出る、また買い物、通院などの移動手段がなくなると市民の日常生活に影響する。
全面廃止となると影響が出るため、一定の合理化は止むを得ないが最低限の路線確保はするべきと考える。
D夕張市総合病院の再建について
道は、夕張市総合病院の再建に向けてリーダーシップを発揮して、第2次医療圏として位置付けられている南空知の集約化構想の中で市立病院をどのように位置付けるのか検討し、経営・診療体制を提示すべきであると考えます
 
(3)各種施設の閉館や委託業務の廃止等により発生する雇用(解雇・失業)問題の解決策について
    観光施設の存続や市民に必要な委託業務の継続等が雇用問題の発生を回避していくことになる。道として、とりわけ観光施設の存続ために民間企業に対して「運営委託や売却受け入れ」などの積極的な支援を要請していくことが必要である。
 
(4)将来を展望した夕張市の基幹的産業を維持していく事業の継続について
市の再建を進めるにあたって基幹的産業を維持していかなければ本当の再建には繋がっていかないと考える。
@ 観光業をめぐって特に収益性のない観光施設の休止・売却は止む得ないが、夕張市の歴史を刻み込んだ石炭博物館の存続や地道に作り上げ市の文化(活動)の顔に成長してきた映画祭が存続出来ないものかどうか再検討すべきである。
A 全国のブランド品にまで大きく成長した夕張メロン栽培を中心とする農業について維持・発展させる方策や中心街商店の活性化や商工活動は後退させてはいけないと考える。夕張市としては、農業振興費補助、商工会議所補助の廃止を検討しており、安易な切り捨ては避けるべきであり、市として困難であれば道が支援していくべきである。
特にメロン栽培業については、今後生じる雇用問題を考えると、雇用確保先としても拡大可能な栽培業へと育てていくべきである。