(第61号) 2006年11月15日(水)
政策調査情報連合北海道 総合政策局
 
連合北海道第3回エネルギー・環境政策委員会 講演録
日 時/2006年10月26日   場 所/北海道厚生年金会館
 
 
「プルサーマル計画の是非について」
 
              講師:島津洋一郎 北海道大学教授
                (大学院工学研究科・工学部エネルギー環境システム専攻)
 
              講師:小林 圭二 元京都大学原子炉実験所講師
 
 
【島津講師】
 ただいまご紹介を頂きました北海道大学の島津でございます。今日は、プルトニウム・リサイクルプルサーマルにつきまして、設計の観点からどういうようなこと、どういうふうな考え方をしているかということを中心にご説明させていただきたいと思います。
 
異常気象でみる地球の温暖化現象
 先ほどもご紹介がありましたように第二回は、プルサーマルの概要ということでプルトニウム炉心の全般的なお話しを北海道電力のほうからお聴きになったと思いますが、本日はそういう評価をする上の根拠といいますか、技術的なその詳細について、それも含めましてご説明したいと思います。
 それで本題に入ります前に一寸皆さんにお聞きしたいのですが、去年ものすごく有名になった女の人の名前が二つあるのですけれども、カトリーナとかリタという名前をご存知の方はどのくらいおられますでしょうか。さすがに勉強をして頂いている皆さんでほとんど全員がご存知ですね。このカトリーナとかリタというのは、アメリカを襲ったハリケーンです。かなり大きな被害を与えたわけですけれども。このような原因はどこにあるのか、ということなんですけれども、これはこの写真はそれと関連していまして、北大のポプラ並木の4割くらいを倒した台風の後の写真です。その次が、これがカトリーナとかリタというハリケーンの写真ですけれども、丁度このカトリーナが来ている時に私はアメリカのテキサスの国際会議に出ておりまして、テレビでは時々刻々ハリケーンが近づいているとか、避難している人の写真とかが放送されておりました。それで、その時にそのテレビなんかでもどうしてこの大きなハリケーンが成長したのか、ということも説明しておりましたけれども、一番印象に残って分かりやすく説明をしたのが、海面の温度が上がりまして、蒸発する時には、水1g当たり539カロリーですかね、水1gの温度を1℃上げるには1カロリーでいいのですが、蒸発させる場合には何と550倍近いエネルギーがいるんですね。
それで蒸発をした水が大気中で冷やされて水に戻るわけです。その時に逆に蒸発する時に持ちこんだエネルギーを吐き出すわけです。そうすると1gの水の水蒸気が539カロリーのエネルギーを出すわけです。そうすると熱を出しますので周りの空気の温度を暖めて、それで、そのおかげで周りの空気の温度が上昇して上昇気流が大きくなって、それでどんどん、どんどん上昇気流が空気を押し上げて、低気圧になったところにまわりから風が入り込むというようなことで、巨大なハリケーンとか、台風もそうですね。そういうものは海面の温度上昇が原因ではないかということが言われておりまして、アメリカではこのように天気予報の番組でも説明しておりました。最近、日本でもそうですし、海外でもそうですが、非常に局所的な大雨が非常に沢山降る。それで、洪水とかの被害が非常に目立っているということ。これは皆さんもラジオ・テレビ等で良くご存知だと思うのですが、一寸昔を振り返っていただきますと、そういう局所的な大雨というのはうんとうんと少ないと思います。その原因は先ほども申し上げましたように、異常気象ということで地球の温暖化です。温暖化が一番大きな原因ではないかという事がいわれてきています。その地球温暖化を起こしているのは何か?というとグリーンハウスガスという地球を毛布のように上から覆いまして地球から赤外線として逃げていく熱を反射して地球を暖めていく。炭酸ガスとかフロンとかが増えてきて暖めているといわれているわけです。最近、この地球の異常気象、それから地球の温暖化について「それほどでもないのではないか」という人もおられるわけです。世界の中には。で、そのような人の考え方をまとめて一つの小説がありまして、それは「STATE OF HERE」という小説の題名で、日本語では「そこにある恐怖」そんなふうに訳されているのですが。ともかく温暖化が進んで、異常気象の原因は温暖化だという意見が結構あちこちで聞かれるのですけれども、そうではないです。
普通は右上がりで気温が上昇しているデータが出ているのですけれども、地球上では、そうではなくて年と共に温度が下がっているところもあるという事実、これは事実なんですね。ですから、一概に地球の温暖化も、みんなの考え方が一致して地球温暖化が進んでいるという状況ではないと、そういうように認識をしておく必要があるのですけれども、身の回りの情報、ニュースを見る限りではそういうことが最近は目に付いてきたということがいえるかと思います。それが、温暖化をさらに上がっていくのではないかという危惧があるわけで、それを押さえるためには先ほど言いました炭酸ガス、こういうのを出さないようなエネルギーを使わないといけないと、そういう一つの考え方があります。
 
「オイルピーク」時代を迎えての現状と課題
 それから、もう一つ、最近かなりあちこちで議論されつつあるのが「OIL PEAK」オイルピークの時代が近づいているのではないかといわれています。これは、このカーブは、1950年代にアメリカのハバードという人が、アメリカで発見される石油の量を事実に基づいて、統計的なデータを処理した結果、石油の供給量とか発見量とか、どこかピークをもって、それからは一方的に下がるという予測をしました。その時には誰も信用をしていなかったのですけれども、どうも実際のデータを黒とすると、これくらいの予測をしたのでしょうか、その予測カーブが非常によく予測しているという事実が明らかになっています。それから、このカーブをこちらに並行移動したものがこれですが、これも今までの実績データに当てはめますと、アメリカのデータが非常によくあっていて、それで、そういう観点で見ますと生産量はこれから減っていくのではないか。ここから先どうなるのかは分かりませんけれども。エネルギーの供給量が今までのように使おうと思ったときに常に確保できる、ということがいえないような状況になってきているということが言えると思います。私たちは原子力を学校でもやっていますけれども、その原子力を何とかうまく使いたいという気持ちの根本にはこういう、一つには地球環境を守るということです。多分、私たちとか皆さんたちの時代は何とかやっていけるでしょうけれども、若い世代を考えた時にその人たちが我々と同じような生活レベルを維持できるのだろうか、という事を考えますと、今のような状況でどんどんどんどん石油を使っていくことは続けられないだろう、というふうに心配すること、将来のためにも天然資源、化石燃料はある程度残しておかなければいけない。それからこのオイルピーク、こういう状況が見えてきたので、何とか今の生活レベル、安全で健康的な生活を維持しつつ、みんなで、日本だけではなく、全世界でも同じように生活を維持する上には是非ともエネルギーは必要なのでしょうけれども、そのエネルギーはどのような供給源に頼るか、という事から考えますと、信頼できるエネルギー源というのは、量的に、質的に信頼できるエネルギーとは現状では化石燃料のほかはやはり、原子核の中に閉じ込められているエネルギーを、時間的にはどのくらいか、この前にも連合の勉強会でも指摘されていましたけれども、過渡的なエネルギーという認識は今ではそれで間違いではないと思うのですけれども、それに代替するしっかりしたエネルギーが出てくるまではある程度は今の原子力を有効に使っていく必要があるのではないかという認識に立っているわけです。
 
日本におけるプルトニウム利用
 それで、今度はプルトニウムの話になるのですけれども、この話しも一回目、二回目等でも議論をされたかと思うのですけれども、使用済み燃料の中にいくらか出てくる、もともとはないのですが、いくらか出てくるプルトニウム。これが原子炉の燃料になるということで少しでも使っておこうではないか、ということです。単に貯蔵するだけ、貯蔵しても枯渇しなければいいのですけれども、ウランも今の状況で使っていくと妥当な値段で手に入るウランの量というのは残り70年とか80年位という予測も出ていますので、枯渇する前に出来るだけその寿命を延ばしておこうというのが一つです。それから日本は原子力の平和利用を宣言しているという事から、余剰プルトニウムをもたないという事を世界に宣言をしています。今日本で原子力発電所が建設をされてから、運転開始から30年以上経つ訳ですからかなりプルトニウムが出来ている。プルトニウムが海外から帰ってきているわけです。それを持つのは良くない。もともとは、後で又小林先生のほうからお話があるかと思いますけれども、プルトニウムは、今使っている原子炉で使うとあまり資源の節約にはならない。まあ10%くらいの節約になるのではないかというお話があると思いますけれども。確かにその通りで、それは事実であると思います。けれども、これからの日本のエネルギー源をどのように確保していくのかという事を考えた場合、少しでも手元にあるエネルギー源を使っていこうというのが現在の考え方だと思います。実際に高速炉というのがありますけれども、これが実現されますとウランの利用率というのが数十倍くらいに跳ね上がるわけです。そうすると、今の使い方でいくと70〜80年といわれているウランの資源量が一挙に数十倍に伸びますので、今の原子力を使っても当分の間心配はなくなるという事がいわれているわけです。だけれども、その高速炉を実現する上にはそれなりの技術的な蓄積が必要ですし、運転経験も必要ですから、このプルサーマルというのはその準備段階と考えたら良いのではないかと私は考えております。
 
プルトニウム・リサイクルが炉心設計に与える影響 −原子炉の特性と評価−
 それで、この後実際の炉心設計の観点からプルトニウム・リサイクルの話をするのですけれども、一寸私は小林先生の話をするのを忘れていましたので、中途になりますけれどもご紹介をさせていただきます。ついついリタとカトリーナから入りまして順番が狂ったのですが、小林先生とは京都大学の原子炉実験所で私ども大学院の学生を連れて、毎年原子炉の実験をやっています。その時の先生が小林先生で、私たちはその教え子に当たるわけです。私も小林先生に京大炉の運転の仕方を教えてもらった恩師でございまして今日こういうところでお会いするというのは奇遇だと思っておりますけれども。そういう間柄の人ですので一寸ご紹介をしておきます。それで話を元に戻しますが、炉心設計とか核設計とか皆さんは余りそういった言葉を聞く機会がなかったと思うのですけれども、このプルサーマル、プルトニウムを使ったときの原子炉の特性とか、そいうものがどのように評価されているのだろうか、というようなことについて、今までの経験を踏まえながら話させていただきます。
 
日本における原子力利用の始まり
 原子力発電がいつから始まったか、といいますと、今から35年くらい前、1970年位に美浜1号が万博会場に電気を送ったということ。丁度そのタイミングです。米国のウエスチングハウスが設計しました原子力発電所で、北海道にある泊発電所とかが採用していますPWRの形式が日本で最初に発電したのが昭和45年、1970年です。ここで三菱重工がこの技術を導入致しまして、美浜2号機、3号機と続いていくわけですけれども、建物をしていきつつその技術を習得していったわけです。このPWRは、泊3号の形式で燃料は、ここにも書いてありますように最初は短い、全長2.8m位の燃料から始まったのですけれども、だんだんと長くして、その分出力を大きくしていきました。それで最近は、日本で使った美浜1号は3.5mですけれども、それ以降は全部これと同じ4.1mです。上からほんのノズルの上から下まで4.1mのものを標準的に使うようになってきました。燃料も最初はウエスチングハウスから輸入していましたけれども、取替え用の燃料は日本で作って供給しているという状態です。
 
炉心の中で起きていること −核分裂連鎖反応−
 それで、原子炉の中ではどういうことが起きているのかということですが、復習も含めてお答え致しますと、皆さんご存知だと思いますけれども、連鎖反応と呼ばれています。
原子核のエネルギーはどこで発生するかというと、ウラン235、天然にはウラン235というのと、ウラン238というのがありますけれども、遅いスピードの中性子で核分裂しやすいのが235です。これで中性子があたってウラン235が分裂すると同時に早い中性子を2〜3つ出します。この分裂の時に大きなエネルギーが出ます。それのスピードが速すぎますので、周りにある冷却剤でもある軽水・水と衝突をさせ、かなりスピードを落とした中性子が又燃料に吸収されて核分裂を起こす。こういうサイクル、こういうことをぐるぐる繰り返しているということです。この辺で、非常にスピードが早い中性子がウラン238にあたると核分裂を起こすものがたまに、3%位あります。スピードが遅い中性子で核分裂をする3%位がここでも、ウラン238が核分裂をします。それから、ウラン238は中性子を吸収します。この吸収によって後で詳細な、どのような変化をするのかという事を見ていただきますが、それがプルトニウムに変わっていくということが起こっています。この中性子はどのくらいのスピードかといいますと、ウラン235が核分裂をした時に出てくる中性子のスピードは、大体秒速2万キロくらいです。1秒に2万キロくらいのスピードで、ものすごいエネルギーをもって出てきます。それがこの水と衝突をしまして大体熱中性子と呼ばれています非常にスピードの遅い中性子を燃やすと、大体スピードは秒速2キロから3キロくらいです。一万分の一くらいにスピードが落ちましてそういうものを熱中性子と呼ぶのですが、非常にスピードの遅くなった中性子を使って核分裂をさせているというのが今の原子炉です。高速炉というのは減速をさせずに生まれてきた中性子をそのまま核分裂に使ってこの部分だけでまわっているのが高速炉と呼ばれるものです。そこが一寸違うだけで、エネルギーの発生原理は全く同じです。
 
核分裂断面積とは(ウランとプルトニウム)
 これは中性子と、これがぶつかる相手の原子核ですけれども、原子炉の設計概念には断面積というような言葉を使って、反応がどの程度おきているのか、という事を表すのに断面積という言葉を使っています。実際の断面積とは、これはコップの断面積と言いますが、こういう実際に測定して得られる大きさではなく、反応のしやすさを図る目安と考えていただければいいと思います。この断面積を見ますと、プルトニウムとウランと比較しますとどうなるか、と言いますと、こんなふうに違います。横軸は中性子のエネルギーです。縦軸は核分裂のしやすさです。核分裂断面積と書いてありますけれども、核分裂のしやすさで、上にいくほど核分裂がしやすいということです。グラフを見ていただきますと、ウラン235はこの線です。見ていただきますとお分かりのように、中性子のエネルギーはこっちへいくほど低くなっています。十分の一、十分の一と低くなっていますけれども、この辺が丁度秒速2キロくらいの中性子のエネルギーです。この位のところを見ていただきますと、500〜600くらいのしやすさです。中性子のスピードが上がる、要するにエネルギーが高くなるとだんだんしずらくなってきます。こういう特性を持っています。こういうのを断面積と呼んでいます。で、プルトニウムは、通常原子炉の中で出来るのは239と240と241と242と4つのプルトニウムが原子炉の中で出来ています。で、実際に分裂しやすいのはこの中の奇数です。239と241こういうものは核分裂が非常にしやすくて、こういうものが原子炉の中の燃料となるわけです。ウラン235と同じような感じです。で、ウラン235はす−ッと自然に落ちてきますけれども、プルトニウムは確かに核分裂がしやすいのですがこのエネルギーのところで一寸しやすくなるところがあるという事がありますので、これが今までのウランの炉心と、プルトニウムを入れたときの炉心の特性が一寸変わる原因になります。
 
吸収断面積とは
 先ほどは核分裂のしやすさを示したものですが、これは中性子を吸収してしまうものです。これもウラン235はほぼ単調に減少しますけれども、プルトニウムの239,240,241,242はこの辺に一寸大きなところが、大きな山、非常に吸収をしやすいというところがありますけれども、ウラン235と比べると一寸違う、というところです。まあ、ウラン238もエネルギーの高いところは、一寸大きな山がありますので、全くプルトニウムを使うと今までのウラン235と238を使ったのと全く違うようになるということではなく、一寸特性が変わるというような程度の変化を与える、と理解していただければと思います。これがどうしてプルトニウムが出来るかということです。先ほどウラン238というのがございますが、これが中性子を吸収しまして、これは他のものに比べて非常に不安定です。で、一寸ここで放射線崩壊をしましてネプチウムというものになって、放射線崩壊をしましてプルトニウム239というのが出来るということです。これが中性子を吸収して出来る。241と242というのは、またこれが中性子を吸収してだんだんと順番で出来ていきます。これが、プルトニウムがなかったところでプルトニウムが出来てくる理由になります。こういう反応は普通の運転中にも起こってくるという事になります。設計ではこういう特性、プルトニウムがどのくらい経てば、1立方センチメートルの中にウラン235が何個あってウラン238が何個あって、それからプルトニウムがいくつかと全部計算をして1立方センチメートル当たりどの原子核が、どのくらいの個数があるかという事を全部入れて、それで計算してどのような特性変化になるかということを計算する、これが原子炉の設計の一つの大きな目的になります。それで、先ほど中性子の吸収を見ましたけれども、プルトニウムはあまりエネルギーの大きくないところで、低いところです。この辺のところで沢山吸収しますので、原子炉の中の全体の中性子のエネルギーが、それぞれのエネルギーの所で中性子がどれくらいあるかという事を表すのがこのグラフです。縦軸は中性子の存在率のようなものです。横軸はエネルギーです。中性子が核分裂をするのがこの辺りです。核分裂で生まれてくる中性子はこの辺りのエネルギーは非常に高いエネルギーで生まれてくるわけです。軽い原子、水とか、衝突をしながらエネルギーを落としてきてこうなるのですが、プルトニウムがあると中性子を良く吸収しますので、エネルギーの低いところのこの辺の中性子は、その個数は、ウランだけのときと比べ一寸少なくなっているという事を表しているわけです。このような事を、最近ではパソコンでも計算が出来ますけれども、コンピューターを使って計算をする事によってこのような特性が得られます。
 
ウランとMOXの燃えやすさの変化と燃焼によるほう素濃度の変化
 それから次ぎは、ウラン炉心・ウランだけの場合と、プルトニウムを入れた炉心で、運転の経過と共にどのような特性が変わるかという事を一つ、一つ非常に大きなパラメーターであります増倍率というのがあります。これは中性子が、一つ世代前の中性子の数を分母にしまして、その一つ後の中性子の個数を分子にしてその比をとったものです。それがどのように変わるかということですが、こちらは燃焼度というのがあります。これは、泊のものでは1ヶ月、こちらに1万メガットデーパートンとありますが、1万メガットデーパートンですと一ヶ月するとこれくらいの燃焼度となります。ウランの原子炉を運転しますとこれは落ち方が早いです。ということが分かります。プルトニウムはゆっくりです。こういう特性の違いがあります。これは、ウランの場合、ウラン235だけで核分裂をしてどんどん減っていくのですが、プルトニウムの場合は、239とか240とかが出来ますのでその分ゆっくりになるということです。こういうものを考慮して原子炉の運転期間を計算することが出来るということです。ここで、実際に運転する時のPWRということの増倍率です。臨界という事はどういう状態かといいますと、一世代前の中性子の個数で次ぎに生まれた中性子の個数を割る、そういう概念でいいますとこれは丁度1.0の場合です。増倍率が1.0の場合を臨界というわけです。これは前の世代と今の世代の中性子の総数が等しいということです。1.0より大きいということは、前の中性子の個数に比べて新しい中性子の個数のほうが多いということなので、この増倍率が1より大きいということは臨界を越えていまして、どんどん世代を超えるごとに中性子の個数が増えていくということを表しているわけです。ここで見ますと増倍率は1より大きいですけれども、どんどん増えていくのではないかということですが、その中性子が増える分を制御棒と同じように、ホウ素、これは目医者さんで目を洗ってもらう時に使うホウ素そのものですが、ホウ酸です。これを水の中に溶け込ませます。これは中性子を良く吸収します。この量を調整することによって1より大きい増倍率を丁度1.0に調整して一定の出力で運転するという事をやっています。
 
燃料の取替と炉心設計
 先ほどのこのカーブでウラン炉心ですと燃焼する、ここで1ヶ月、ここで1ヶ月、10ヶ月、20ヶ月、30ヶ月とこういうような、運転日誌におきかえるとこうなります。それに従ってどんどん下がっていきます。で、この1からの超過分をホウ素で押さえているわけです。それで1.0に調整をしているというわけです。それが最初の直線のグラフが燃焼と共に下がっていくに従ってホウ素濃度を下げていくわけです。それで丁度臨界を保っていくわけです。ところがホウ素濃度が0以下にはできませんので0近辺になると運転を止めまして、新しい燃料、良く燃えた燃料を取り出して新しい燃料と入れかえる。そういうことをやっています。それが燃料の取替えということです。この炉心の中には、泊1・2号ですと燃料集合体が121体入っていますが、大体三分の一を入れ替えますが、その燃料を置く場所は沢山の計算を行いまして、どの燃料をどの集合体をどこに置くのが一番良いのか、という計算を行います。それが燃料取替えの設計を行う取り替え炉心の設計という事になります。その時に、中性子のエネルギー分布はどうなるかとか、燃料の中にどのくらいウランとかプルトニウムがあるかという事を考慮しましてそれで計算を行って、原子力の中の出力がどうなるかとか特性を評価していきます。これは設計値と測定値を比較したものですが、設計値、測定値ほぼあっています。このようなことで設計の検証も同時にやっているということです。原子炉容器はこれは何回かご覧になったことがあると思いますが、こういう形です。これが燃料集合体です。これを圧力容器・原子炉容器と言いますけれども、これは大体内側の直径が3.5m位です。高さが15mくらいありまして、原子炉の熱を取る冷却剤はこちらからこう入りまして、この下を、灰色の仕切り版と圧力翼の間を通りまして、ここで方向を変えて、燃料を冷やして出て行く。こんなルートで水は流れています。後は制御棒です。この冷却剤が入ってくる温度ですが、100%運転している時の温度は285℃位です。出て行くのが330℃位になりますかね。普通は水は100℃で沸騰しますけれども、280℃、300℃、330℃くらいの水を使っているので、沸騰させないようにこの中を150気圧くらいに加圧して運転します。これが加圧水型原子炉・PWRと呼ばれている理由になります。ここの燃料が並んでいるのを輪切りにして上から見るとこのような形になっています。大体円筒に近いような形に並べられています。それからここに丸印で書かれているところが制御棒の入る場所です。後で小林先生のほうから話があると思いますが、プルトニウムを使いますと、先ほど吸収の断面積を見ていただきましたけれども、プルトニウムは結構吸収の山がありましたね。ここのところは中性子を良く吸収するものですので、プルトニウムのあるところはエネルギーと中性子のグラフでも分かりますように、プルトニウムのほうが中性子は低くなっていましたね。そのプルトニウムのあるところにこの制御棒を入れますと相対的に、制御棒が吸収する中性子が減りまして中性子の効果が小さくなります。だからこの制御棒はプルトニウムの燃料集合体には入れない、プルトニウムの燃料集合体は、一つの燃料集合体は、集合体ごとにプルトニウムを使う燃料と、ウランだけの燃料と分けて作りますので、設計上の工夫としてこの制御棒を入れるところにはプルトニウムのところには入れない。出来るだけ、ウランの燃料集合体のところに制御棒を入れるようにする。だから、制御棒があるところにはウランの燃料集合体を持ってくるというような工夫をするわけです。このことによって制御棒の効果が小さくなるということがない。カバーできるわけです。プルトニウムの総体数、全体に対する割合は、三分の一ぐらいに押さえますので、そういう対応が可能になります。それから、設計上注意するというところは、制御棒の効果を確保する価値というのは、制御棒の効果のことですが、それを確保するという事は設計上の配慮です。それから、炉心の中の出力ピークですが、これは燃料棒1本1本の出力を見たときに、炉心の中で一番出力が出ている燃料の出力のことを、その総体値を出力ピーク、最も出力が高いということですが、それを出来るだけ押さえておく。すると燃料の温度は極端に高くならないで安全の範囲で運転できるということから、原子炉の中にある全ての燃料棒の出力レベルを一定の力に押さえることも重要なチェックポイントです。それから制御棒の回収を確保すること。それから、何らかの関係で原子力の出力が上昇するようなことがあると自動的にブレーキをかけてくれるような特性をあたえる、というようなことも設計の時に考慮するチェックポイントになります。出来るだけ均等にどの燃料棒も同じような出力にする。最も、どれも同じようにするという事は出来ないのですが、燃料棒1本1本の出力がなだらかになるように、局所的に出力が集中しないようにするということが、燃料の安全性を確保する上で配慮すべき点ということです。実際にはピークの値にどのような挙動をするのかということが、これは一例ですけれども、これはこちらが運転期間です。これは先ほどと単位が違います。一ヶ月、二ヶ月運転をしていくと炉心の中の一番出力の高い燃料棒は平均値に対してどのくらいの値が出ているのか、ということを表したグラフです。これを見ますと、一度下がってそれから上がっていく。これが原子炉の設計によって最初は高いところから下がっていくものもありますし、これは一つの燃料棒ではなく、ここにある燃料棒はこのままずっと下がっていきます。それから、このように上がっていくのは、最初はずっと低いところから上がってそれぞれの時点では一番大きな出力を出している燃料棒の履歴を書いていますのでこうなっていますけれども、1本の燃料棒がこのように変化するのではなくて、何本かの燃料棒が交代に一番高い出力を出しているということです。こういうような特徴を有する炉心で、このような事を計算で評価しまして制限値を超えないという事を確認するわけです。このプルトニウムは、ウランの燃料集合体の場合はこの図は、この四角のところに燃料棒があるという事ですが、全部同じ濃縮度の燃料棒でいいのですね。ところが、プルトニウムの場合は、この燃料集合体は先ほど炉心の断面図で見てもらいましたがここに、隣に燃料集合体がありますね。するとこの間のわずか1mm位ですが隙間があります。この隙間のところに水が流れまして、水があると、こことここに比べて水の所、ここは燃料があります、水だけがありますのでここは中性子が一寸他に比べると中性子の数が多くなっています。プルトニウムの場合は、その中性子の、水の領域で中性子が増えることによって同じ濃度のものを使うと、隅っこのほうの出力が高くなりすぎるという事がわかっていまして、ですから隅っこは少し濃縮度を下げているわけです。中は、周りの水の影響が少ないですから、同じ濃縮度のものをおいてあるということです。こういうような工夫をして、プルトニウムとウランとの特性の違いをうまくカバーするような配慮をする事によって今までのウランと同じような特性を確保するとというように工夫をしているわけです。
 
炉心の計測と設計の妥当性確認
 それから、今まで原子炉を設計する時のチェックポイントとかについてご説明をしてきましたが、設計というのは、計算機で行う作業です。いろいろな基本的なデータを入れまして、燃料の配置を決めて計算することによって制御棒の効き方とか、燃料棒1本1本の出力がどれくらいの出力が出ているのか、とかいうようなこと、それから、出力が上がりすぎていないか、ブレーキは掛かるのかという事をチェックするのですが、あくまでも計算上のことです。PWRでは、運転を始める前に実際に測定します。計測します。原子炉を臨界して出力を出す前に臨界状態にしますけれども出力は出ていません。パロメーターを計測します。これはその一例ですが、制御棒がどのような効果を有しているかを測定したものです。これは制御棒が、228ステップの一番上にありまして、これは、ゼロステップというと制御棒が一番底、燃料の下まで入った状態です。制御棒を上から徐々に入れていったときにどのくらい効果を有しているかという事を示したものです。それから、実践で書いてあるものが計算値です。いろいろな基礎的なデータを入れまして設計・計算で得られた予測値、設計値です。それに対して実際に測定した結果をプロットしたものがこれです。積分価値と微分価値とがありますが、一寸その辺は省略をしますが、これを見ていただきますと多少誤差はありますけれども最終的には非常によくあっているということが分かります。これは毎回、全出力運転の前にこのような測定をして、設計値が同等であったかを確認する事をやっております。先ほど出力が上昇するような状態が起こったときにブレーキをかけてくれるような仕組みにしてあるというようなことをご説明しましたけれども、それは、マイナスのフィードバック効果が働くと我々はいうのですが、例えば、誤動作をして制御棒が引き抜けて出力が上昇するような方向に間違って動いた時に、出力が上がりつづけていくとチェルノブイリのように原子炉の破壊に繋がりますけれども、ある程度上がると自動的にブレーキが掛かってくれる。どこかで安定したと落ち付いてくれる。そのような特性が要求されます。日本の原子炉を運転する時は必ずこのような事を付与しなさいという特性がないと運転してはいけないという規則がありますから、このような特性を有しているという事をまず設計で確認をしまして実測でもこれを測定して確認をしております。そこで出力を上昇させる前に設計士が妥当だという事を確認できますと、運転出力を徐々に上げまして運転を継続していくわけですけれども、その途中も、原子炉の中に計器を入れるとか、外にある計器を使って実際の出力分布、それぞれの燃料棒出力を設計値で評価したものと矛盾がないかという事を確認しながら運転を継続していきます。
その時にはどのような計器を使うかということですけれども、先ほど言いました圧力容器はこれです。この外側に中性子検出器という中性子の強さを測定する計器が4箇所にありまして、これは平面図で見ると4箇所ですけれども、これは原子炉の全長をカバーしていまして、上から下までの中性子の分布を測定をするようになっています。後、こちらにあるのはうんと出力が低い時です。このような検出器を使いながら原子炉の運転中の特性もしっかり見ているということです。見ることによって何が検証されるかというと、設計されたことが妥当であるかどうかを確認することが出来るわけです。もう一つは、今は原子炉の外側からの測定装置でしたけれども、中を、詳細分布をどのようにしてみるかというと、これで燃料棒の出力を評価することが出来るのですが、燃料集合体の真ん中のチューブは空洞で燃料が入っていなくて、ここに非常に小さい、直径0.9mm位のもので中性子の検出器をここから、ケーブルを使って下から入れて集合体の中に検出器を入れて、そこから上から引き抜く時に中性子の信号をとりまして、この原子炉の中の出力分布がどうなっているか、その出力分布の上から下までに渡る出力の出方、それが設計値と矛盾がないかどうかという事を見る時に、このように原子炉の中に検出器を入れまして詳細に測定するということもやっています。このような事を美浜1号以来、PWRの運転の歴史は日本では30年以上になっていまして、その間にPWRだけでも23基ほどありますが、それをほぼ1年に1度ずつやっていますから原子炉の設計の数は、100とか200とか沢山の実績があります。その原子炉の設計値そのものは、運転中と、起動試験で設計の妥当性というのは確認してきていまして大きな問題はないという事を検証していますので、設計仕様そのものと制度というものは、ある程度実績を持って確認をされている。プルトニウムを使うにあたっても同じ道具で同じ手法に従って設計するということです。違うのはペレットの中にあるウランの個数とか、ウラン235と238の個数の場合と、それからそこにプルトニウムが加わっているというような条件で計算をするか、ということが違います。そのようなことを行いまして、原子炉のプルトニウムが入った時の原子炉の特性を評価できると考えておりまして、その妥当性、評価の制度につきましては国の安全審査、規制官庁の専門員の先生方が審査して設計手法とか、設計の結果、今までの運転結果等を考慮して問題ないというようなことを認めていただいているということです。運転中はJCO以降、保安官というのが常駐しまして異常がないかということを常時監視しているという体制になっております。それで、最初にも一寸申し上げましたけれども、プルトニウム、プルサーマルというのは、ゆくゆくは私が思うのは、利用率が1%から数十倍に上げるには高速増殖炉という技術の実用化が必要なんですけれども、今いっているプルサーマルというのは、それだけで軽水炉の中でリサイクルするだけではあまり芸がない。そのとおりだと思います。ただ、そのことで技術的な経験を積むということ、プルトニウムの燃料を作るにしても一挙に高速増殖炉の燃料を作っていく実験炉はありますけれども、そういうところに大量に一挙にいくわけにはいきませんから、軽水炉でも小型の実験炉、原型炉と呼ばれている高速炉でも技術を積み重ねて、最終的には燃料の供給に心配ないような状態を作るというような観点からこの実用化が必要で、そのためのステップと考えていけば良いのではないかと考えております。これからはまとめになりますけれども、日本はもともとは米国から軽水炉の技術を導入したわけですけれども、今は軽水炉技術の積み重ねとそれを基礎とした高速増殖炉を発展させてエネルギーのセキュリティーを確保しようと努力しているのが今の状態であろうと考えております。丁度時間になりましたので一応終わります。
結論を言いますと、プルトニウムというのはそのままおいておけば、特に日本は96%のエネルギー支援を外国から輸入しているという状況を考えますと少しでも使えるエネルギーを有効利用する。それは将来の高速炉に繋げる上でも価値があるだろうということです。
そういう認識のもとで今プルトニウム、プルサーマルというステップを経験して技術を向上させようとしているという状況と考えていただければいいのではないかという事を私は思っております。以上でございます。ありがとうございました。
 
 
【小林講師】
 今、紹介をしていただいた小林です。私は、島津先生から紹介をしていただいたように、京都大学原子炉実験所にかつて務めておりまして、その間毎年のように島津先生と一緒に学生の教育にあたったそういう間柄です。すでに定年退職をして4年目を迎えておりますので、島津先生のようにスマートにパワーポイントでやるというような、私が現役のころにはまだ流行っていなかったので、OHPで失礼します。今、島津先生は現役の大学の先生ですから非常に学問的にきちっとご説明を頂いたわけですが、私は島津先生とは一寸観点を変えましてむしろプルサーマルというものを批判的な視点でお話をしたいと思います。最初にプルサーマルの何が問題かという事を考えるわけですが、プルサーマルというと皆さんはまず安全性から入るというのが普通かと思いますけれども、実は、本当の問題はもっといろいろな視点を持たなければ分からない。プルサーマルの全体像というのが見えてこないと私は考えています。そこで、三つの問題を掲げまして、特に最初の1「国際的な道義の問題」という事が一番最初に来るべきだと。次ぎに「果たしてプルサーマルの必要性はあるのか」という事に関して私は疑問を持っているわけですから、その問題をお話する。3番目に、本当は必要性がないとなれば安全性を議論するまでもないのですが、そう突き放してもいけないかと思いますので3番目に「安全性の問題」を話させていただきます。ただここでは、あまり安全性の技術的なことを細部に申し上げても、恐らく何が問題なのかということは理解しにくいと思いますので、どちらかというと私は大づかみにお話をさせていただきます。
 
T.プルトニウム利用は国際道義上問題
 
プルトニウムは原爆の材料
 まず、国際的道義の問題とは何ぞやということですが、そもそも、このプルサーマルというのは今動いている普通の軽水炉です。この軽水炉というのは、低濃縮のウランの燃料を燃やしてエネルギーを得るわけですが、ウラン235がこれが核分裂性物質として熱中性子にあたりまして核分裂をしてその時にエネルギーを起こす。このエネルギーを使って発電をするわけです。今の軽水炉ですと、ウラン235というのはウランの中の約4%、或いは多いところでは4.8%濃縮した燃料を使っているわけで、残りの96%くらいは燃えないウランであるウラン238であるわけです。実際に軽水炉でエネルギーを出しているのはウラン235の核分裂になるわけです。この中性子が出るわけですが、核分裂と同時に新たな高速中性子が発生するわけですが、先ほど島津先生の説明にもありましたように、高速中性子のままでは核分裂がしにくいので、これのスピードを遅くします。そのために軽水というのを使うわけです。軽水は普通の水のことですが。水というと直感的には炉心を冷却するため、或いは熱を取り出すためと考えるでしょうけれども、一番大事なことは実は中性子のスピードを遅くするという、そういう役割でして、遅くした中性子によって次ぎの核分裂を起こす、これがどんどん続いていくという形で、時間的に一定割合ずつ増えも減りもしない形で丁度コンスタントに核分裂が発生しつづけるという状態が臨界なわけです。この核分裂の時に新たに発生する中性子というのは、平均して二つないし三つ出てくるわけですが、当然余剰の中性子というのがあるわけです。あるものは漏れて外へ逃げてしまうものもありますけれども、あるものは燃料物質の大部分を占めております、燃えないウランであるウラン238です。減速した後これにあたって途中の詳細は省略しますけれどもプルトニウム239が出来る。これが使用済み燃料にだんだんたまっていくわけです。一部は運転中でも燃えますけれどもたまっていくわけです。それを再処理工場で回収をして燃えないウランで薄めて、同じ軽水炉で再び使おうというのがプルサーマルです。ここで、核燃料サイクルの基本的な流れを示しますけれども、もともとは天然ウランを採掘しまして濃縮するわけですけれども、濃縮を気体状でやるため一旦転換ということ、つまり固体のものを気体に変えて濃縮致します。それでまた、再転換といいまして濃縮された気体のウランをまた固体の、粉末のウランに戻すわけです。実はこの工場がJCOの工場だったわけです。あれはこの工程ではなく別の工程のときに事故を起こしたわけです。濃縮の後粉末のウランに戻しましてそれを燃料、加工するわけです。加工した燃料、燃料集合体に加工したものを原発に投入するという事をやるわけです。プルサーマルはその使用済み燃料を再処理しまして、再処理というのはプルトニウムとそれからウランが核分裂しまして、いわば核分裂生成物、放射性物質、俗称では死の灰といういい方をしますけれども、それを選り分けて、それの燃え残りのウラン、回収ウランと三つに分ける作業が再処理で、基本的には大規模な化学工場になるわけです。このプルトニウムを濃縮のカスである劣化ウランと混ぜてMOX燃料を作ります。要するにプルトニウムを劣化ウランで薄めるわけです。そうしてMOX燃料にして投入するのがプルサーマルです。或いは同じような過程で投入する発電所が高速炉であれば、高速用のMOX燃料として入れるということです。そういう流れになります。こういう基本的には濃縮とか、再処理とかいう事がこの流れでは、大きな、或いは発電する時のエネルギーを出す原子炉が基本的な装置としてあるわけです。が、もともと濃縮というのは天然ウランから燃えるウランを濃くしてあるという作業は、これは広島型の原爆を作るために開発された技術です。一方原子炉ですが、その後発電に使われていますけれども、原子炉というものが発明された、或いは再処理する技術が開発された、これは何のために開発されたかというと、もともとは長崎型のプルトニウム原爆を作るための技術として開発されたわけです。実は、人類における最初のプルトニウム利用というのは、とりもなおさず、長崎原爆であったわけです。こうして見ますと、濃縮にしても、或いは原子炉にしても、再処理にしても、いわば原爆を作る技術と基本的には同じなわけです。
 
核兵器の拡散をもたらした「平和利用」
 ですから現在、世界中を騒がせています核兵器拡散の問題、つまりこれまで核兵器を持っていない国が新たに核兵器を持とうとする、或いは持つ、北朝鮮がつい先日核実験をやったと発表をしたわけですが、ああいう事態が起こるわけです。そういうことから、NPT条約、核不拡散条約というのを1968年に作られまして、この中心になったのが、もうすでにその時核兵器を持っているアメリカ、旧ソビエト、イギリス、フランス、中国のそういう国が締結し、そして核兵器を持っていない国に対して核兵器開発を断念させる。断念すれば原子力のいわゆる平和利用という原発を使ってやる、使う、そういう利用の仕方を、技術と必要な物資を供給するという条約を結んだわけです。現在これに180数カ国加盟しているはずです。北朝鮮が脱退するとか何とか言っていましたが北朝鮮も加盟国だったわけです。このようにプルトニウムというのはまさに原爆の材料ですから、非常にこれを作る、或いは使うという行為は、国際的に非常に機微な問題になっているわけです。
最近でいいますと、98年にインドが核実験を成功させました。インドの核爆発実験というのは、1974年が最初ですが、これはインドが、原子炉はカナダから輸入し、原子炉に使う減速材、今の軽水という減速剤ではなく重水ですが、これはアメリカから購入して、そして平和利用の名目で動かし、使用済み燃料からプルトニウムを取り出して1974年に核爆発実験をやった。そういういきさつがあります。ですから、世界は平和利用といっても、イランが濃縮装置を動かす、造るという事を他の国が批判していますけれども、イランは、これは平和利用で原発燃料を作るためだといっても信用されない。それはとりもなおさず濃縮とか或いは再処理にしてもそうですが、そういう技術がいわゆる原発用の燃料を作るための平和利用であろうと、それから原爆を作る作業であろうと、技術的な区別がつかない事に根本的な理由があるわけです。
 
世界はプルトニウム利用から撤退
 そういう状況は実はだいぶ前から見えておりましたので、世界的にみますとプルトニウム利用というのはどんどんみんなどこの国も、実はそれが一つの原因になって撤退する方向にいっています。プルトニウムの利用というのは大きく分けて二つあります。高速増殖炉の利用と、プルサーマルの利用があります。高速増殖炉に関してはアメリカも83年にすでに撤退しましたし、イギリスは撤退を88年に決めて実際には94年に完了しております。ドイツは91年に撤退しまして、フランスも撤退を92年に決めまして最後の高速炉が2009年に止まるという状態です。残るロシアとインドが、高速炉が動いているのではないかという話ですが、実はロシアの高速炉というのがプルトニウムの利用ではなく、燃料は濃縮ウランです。最近ロシアで、その高速炉でプルトニウムを燃料にする試みが始まっていますが、あれは日本が考えている増殖炉の意味ではなくて、核兵器から解体して取り出したプルトニウムを焼却処分するためにやっているもので基本的にロシアの高速炉はプルトニウム利用ではありません。それからインドに1基あるわけですが、これは今年の5月でしたか、アメリカとインドの原子力協力合意というのを見ますと、どうもインドの高速増殖炉というのは軍事用に分類されております。だから一寸論外という感じがします。出力も非常に小さいです。一方プルサーマルに関しては、ここで見ると高速増殖炉の開発から世界はみんな撤退している現状であるわけです。プルサーマルに関しますと、アメリカが80年に撤退していますし、オランダは89年に撤退していますし、スウエーデンは75年、イタリアが77年に撤退している。イギリスは初めからプルサーマルには手を出していません。大きな再処理工場があるにもかかわらずイギリスではプルサーマルはやっていないです。ベルギーは2001年以後の再処理を中止を決めております。ドイツは2005年7月以後の再処理を禁止、再処理をしなければプルトニウムは取り出せないわけですから、プルサーマルはやらないという事を意味しているわけです。スイスは10年間の再処理の凍結を決めております。フランスは継続をしているけれどもこれ以上の拡大はしない。という現状で、世界的にはプルサーマルは、止めたか止める方向にある。この中でアメリカやオランダやスウエーデン、イタリアというのは、かつてやったのですが、やった数が非常に少なくて、例えばオランダは燃料集合体の数にしてわずか12体、スウエーデンではわずか3体、アメリカでも100体程度、イタリアで数十体程度です。つまり、ごく試験的にやった程度といえると思います。商業的規模にルーチンでやったとは必ずしも見えない。そういう意味でルーチン的にやってきたところというのは、ベルギー、ドイツ、スイス、フランスですけれども、これらはいずれもフランス以外は事実上止める方向になっているという状況です。
 
日本のプルサーマルは世界の流れに逆らい国際道議に反する
 こういう中にあって、日本がプルサーマルをやるということは、これはこれまでは手をつけなかったプルトニウムの大量生産、大量使用というものを商業規模でやるということを意味しているわけですから、その日本の動きを見て外国の核開発熱、核というのは核兵器のことですが、核開発熱を刺激しかねない、そういう危惧があるわけです。現にイランは、自分のところも日本もNPTに入っている。同じ入っていながら何故日本にだけ許されているのか、という口実に使うなどの状況にあるわけですから、そういう状況に、これから世界の流れに反して日本がプルトニウムの大量生産、大量流通をやるということはやはり国際的な道義に反すると私は考えます。これがやはりプルサーマルを今やる上で一番大きな問題としてあるだろうと思います。
 
U.プルサーマルに必要性はない
 
プルサーマルはウラン資源の有効利用にはならない
 次ぎに「必要性についての疑問」ですが、私は、ここ北海道以外では島根のプルサーマル問題で県や松江市に呼ばれて意見を聞かれたことがあるのですが、島根の場合は中国電力ですが、同じように説明の方が来られていました。その時にプルサーマルが何故必要かということが議論になったわけですが、これは中国電力に限りませんが、四国電力も九州電力もそうでしたが、三つ上げていました。ひとつには「プルサーマルはウラン資源の有効利用」、二番目に国際的に公約している「余剰プルトニウムの焼却」、3番目に「高レベル放射性廃棄物の低減のため」と言っています。しかし、この三つは私には納得が出来ません。一つにはプルサーマル、ウラン資源の有効利用にはならないと私は思っています。
それから、二番目に「余剰プルトニウムの焼却」これは国際公約を果たすためにやるとおっしゃっているわけですが、現実には六ヶ所の再処理工場が、それも非常に急いで稼動されたという事実がありますし、そうなるとこれから毎年毎年、全プルトニウム量でいって稼働率が予定通りに稼動しますと、年間8tずつ出てくることになる。一方で作っておきながら、一方で余剰プルトニウムを焼却するという、これは根本的に矛盾しているのではないかと思います。これが本当に必要理由なのかという事を強く疑問に思っています。
3番目の「高レベル放射性廃棄物の低減のため」にプルサーマルをやるといっていますけれども、これは放射性廃棄物の処分をどうするのかという問題と、プルサーマルをやる目的と直結しないと、廃棄物処理の問題は処理の問題として別にある。これはプルサーマルの目的ではないと思います。こちらの、今日は北電の方も来られているようですが、北電の一般住民に対する情宣活動ではどのような表現をされているかは分かりませんけれども、私が聞いた西側の各電力会社は、こういう理由を挙げるわけです。二番と三番の理由は以上の問題ですが、一番だけ一寸だけ立ち入ってお話をしたいと思います。まず、ウランの節約、資源の節約になるという話ですが、これは加圧水型の例としてもともとはどうも電気事業連合会で作られた資料のようですが、これが各電力会社のほうで、住民の説明用の資料の中に同じ図が入っていて、しかもタイトルが「プルサーマルによる資源の節約効果」といってこれが入っているわけです。例えば最初にウラン燃料を1000kgあったとします。濃縮度が4.1%であったとします。使用済み燃料を見ますとそこに10kgのプルトニウムがたまっています。940kgウランが燃えてなくなっていますから、濃縮度は0.9%になっているわけです。0.9%の回収ウランが940kg残りました。この10kgからMOX燃料130kgが出来ます。一方回収ウランから、新たにウラン燃料として新たに130kgの燃料ができます。これを合わせて約2割5分、足し算をすると2.6割になりますけれども、大雑把に言って2割5分の供給が可能だという、こういう説明をされているわけです。ところがこれは、実は回収ウランについてみますと、これは、ウラン燃料として使いますから、プルサーマルとは直接関係がありません。一方MOX燃料の場合ですが、これを丸々1000kg、これと比較して約2.5割と説明をしているわけですけれども、この使用済み燃料から得られたMOX燃料というのは、10kgのプルトニウムなわけです。それがここで130kgに膨れてしまっているわけですが、これはさっきMOXの作り方で説明しましたように、プルトニウムを薄めるためによそから劣化ウランを持ちこんでくるわけです。それがだから120kg分或いはそれ以上になるわけですけれども、その薄めた材料までも含めて節約量というのは一寸表現が違っているのではないかと私は思います。思いますではなくそうなはずです。では、10kg丸々節約になるのか、というそうではなく実はこのうちの燃えるプルトニウムは大雑把に言いますと約7kgです。この7kgをMOX燃料に加工してプルサーマルで使うわけです。そうなると一体どのくらいの節約になるのか、といいますと実は燃えた量で比較しないと節約かどうかは分からないわけです。そういう意味で燃えた量を比較しましょうとなると、ウラン燃料の1000kgから後に残った使用済み燃料の重さを引きますと50kg分減っているわけです。つまりこの50kg分が燃えた量として考えることが出来るということです。そうすると残りはこのMOX燃料でどのくらい燃えたかという事で比較をすればいいのですが、大体これとこれとの比較から5分の4が燃えるということになりますので、結局さっき島津先生のお話にもありましたように大体10%くらいの節約量になるだろうというのが私の大雑把な試算です。この辺は細かく説明が資料に書いてあります。ただし、この10%は丸々節約量として考えて良いのか、という問題があります。ということは10%のエネルギーを再生するために再処理は必要ですし、それからMOX燃料の加工が必要ですし、それほど資源の使用量は多くないでしょうが輸送とかにもエネルギーが必要になってきます。そういう、いわゆるプルサーマルでエネルギーを出すために使われた、投入分のエネルギー資源量というのを10%からさらに差し引かないといけない。そうすると果たして優位な節約量が残るのか、というのが非常に疑問です。悪くすればマイナスなるかということさえ疑われるのですが、そこまでいかなくてもほとんどメリットがない、ということです。
 
日本におけるプルサーマルの歴史
 これは、皆さんに配りました資料の4ページにプルサーマルのこれまでの歴史を表にしてみました。これをご覧になると、プルサーマルとは実は名前は随分昔からあったわけで、1961年に第二回の原子力開発利用長期計画というのがありまして、我々は長計、長計と言っていました。それが発表されたわけです。その時にはじめてプルサーマルが国策として登場したわけです。つまり、プルサーマルが国策となったのが今から40数年前です。少なくても95年が大きなターニングポイントでして、僅か三十数年ですけれども、三十数年間プルサーマルに関して一体何が行われていたかというと、実はほとんど何も行われていません。唯一行われているとしたら86年の敦賀1号ですけれども、これは、沸騰水型ですけれどもここで300何体の内の僅か2体だけの少数体試験をやっています。それから88年に加圧水型では美浜1号で121体のうちの4体で少数体試験をやっています。これ位で事実上何もしていない。ところが、1995年に「もんじゅ」で事故が起こりました。ここで、この事故が起こったほぼ直後といっていいのですが、ここから実際のプルサーマルをやる動きが突如として非常に、急速に始まったわけです。97年1月に総合エネルギー調査会原子力部会で、プルサーマル推進策が発表される。すると、立て続けに通産省や科学技術庁が原発の立地である福井、福島、新潟3県知事に宜しくとお願いをする。電気事業連合会の方ではプルサーマル導入計画を発表する。導入計画とはこういうものであったわけです。最初は原発の名前を具体的に出さずに1基・2基と基数だけだったのですが、2000年までに東京電力と関西電力でそれぞれ2基ずつやるとか、こうやって2010年までに合計16基だとか18基やるという計画が出されました。この辺の動きが非常に急だったわけです。だから、これが何を意味しているかと言いますと、つまり、国策には上がっていましたけれども、プルサーマルというのは資源的なメリットがない。だからそれほど関心がなかった。ところが、もんじゅ事故が起ってそれを受けて突然のように動き出した。そこに何があったかということになるわけです。
 
プルサーマルは原子力政策破綻の隠蔽策
 この図は皆さんの資料にも掲げましたけれども、原子力のハンドブックとか教科書みたいなものに良くこういう図が載っているわけです。これは、横軸は転換比といいまして、使用済み燃料を再処理というか、さっき言いましたように例えばプルサーマルですとウラン燃料を燃やしますとプルトニウムが出来る、その中に燃えるプルトニウム239と241がある。燃えた燃料に対して新たに生まれたそういう燃料になる物質がどのくらいの割合生まれているか、というのが転換比です。ですから、0.5というのは燃えた量が1であれば、その半分に相当する燃えるプルトニウムが出来ているということを意味しています。さらに1.0となりますと、これは燃えた燃料に対して新たに燃える燃料が同じ量生まれたという事を意味しています。この1.0を越えますと燃料は増えていくわけです。その燃料が増えていくのを、使った燃料よりも新たに生まれてくる燃料より多くなるのを増殖といっています。1.0を越えた上からは転換比といわずに増殖率、増殖比と呼んでいる訳です。横軸はそんな指標です。縦軸は普通の方眼紙と違って、同じ桁を、一つの桁を等間隔に目盛っています。ここは0.1でそれに対して10倍の1がここに来ます。この1の10倍がここにきますという様に桁を等間隔に目盛っている、そういう特殊なグラフです。これは、縦軸はウラン資源の利用率を表しています。この利用率のカーブを書きますとこういうカーブになるわけです。つまりウランの利用率は高速増殖炉において飛躍的に大きくなる。それに対してプルサーマルはどうかというと、プルサーマルは大体0.4〜0.6の範囲にあたりますから、平均して0.5としますと大体1%に過ぎないということになります。1%でも資源になれば良いのではないかという考え方もあるかもしれません。実はこれは、プルサーマルはプルサーマルでも使用済みMOX燃料、再処理、再加工、そして再投入というこれは無限回にこの循環を繰り返した場合の値です。ですから、プルサーマルを一回もやらない時は転換比としては事実上ゼロに相当するところになるわけだから0.5位になるわけです。0.5%くらいしか利用できない。これが今の軽水炉の利用の仕方の状況と考えたほうが良いわけです。その再処理を何回繰り返すかということによってだんだんだんだん無限回繰り返した時にここになってくる。そうすると、使用済みMOXの再処理をやって、2回目のMOX燃料を作ることを一回だけやるとしても、それは僅かにこっちへ来ることに過ぎない。だから1%というのはあくまでも机上の話なわけです。現実にはこの辺に来る感じになります。こういう事実というのは実は原子力界では充分昔から分かりきったことだったわけです。だからプルサーマルは資源的メリットがないということでほとんど熱心ではなかったわけです。それが何故もんじゅ事故で急に盛り上がってきたかというと、実は日本の原子力政策は偏にこの高速増殖炉の開発に集中されていました。ですから高速増殖炉の夢を持ちつづけている間は、軽水炉の使用済み燃料は、とにかく将来の高速増殖炉の大事な燃料資源という位置づけだったわけです。ところが、もんじゅ事故が起こって高速増殖炉の見通しがあやふやになってきますと、どうなるかといいますと、これまでの軽水炉の使用済み燃料、これが資源だ資源だといわれたのが一体どうなるのか、その行方はどうなるのかと立地の各自治体から疑問が出るわけです。下手をするとこれは永久に核のゴミとしてこの場に、或いは運び込まれた六ヶ所村とか、或いは各立地の原発サイトへ永久にとどまるのではないかという恐れさえ住民に与えたわけです。そうすると各自治体は、例えば青森県ですと使用済み燃料の搬入を拒否する。各自治体も使用済み燃料が増えていくわけですから、その貯蔵量の増加を増やすことに抵抗するという形になりますと、これはいずれ原発を止めなくてはならなくなる、ということが危惧されてきたわけです。これは大変だ、ということで何とかプルトニウムの使い道を明らかにする必要がある。ということで持ち出されてきたのがプルサーマルなわけです。つまり、資源的な観点から、もんじゅ事故後プルサーマルが持ち出されてきたわけではなくて、どちらかというと、日本の原子力政策、つまり高速増殖炉を中心にすえてた流れというものがここで疑問になってきたために、つまり政策の一種の破綻ですね、そこで見えてきた破綻、これを覆い隠すためにプルサーマルが代わりに持ち出されてきたということが非常に強いということが歴史を見て私は強く感じたわけです。では、高速増殖炉はどうなるのか、という話しが当然出てくるわけですが、これはあまり時間が無いので省略をしますが、先ほどもいいましたように日本に先行して高速増殖炉を開発していた各国は、みんなもう止めた訳です。どうしてやめたか?ということについてはいろいろな理由があるわけですが、大きく分けて三つありまして、一つは『軽水炉に比べて危険性が非常に大きい。』特に暴走しやすいとかそういう性格がある。どういう面で暴走しやすいかといいますと、軽水炉と正反対な性格があります。一つは先ほど島津先生がお話しした出力が上がったとき。例えば制御棒が誤って抜けたときに今の軽水炉ですと、何もしなくても、まあ何もしないというのは本当はあまりよくないのですが、まあ放っておいてもある程度のところで頭打ちになってそこから下がってくる。勝手に暴走していくことは無い。そういう性格が軽水炉にはあります。ところが、高速増殖炉の場合は、普通の運転をしているときはいいのですが、例えば事故が起こって、冷却剤、この場合は水ではなくナトリウムを使っているわけですけれども、ナトリウムが沸騰しますとチェルノブイリが暴走した、あれと同じ性質で、暴走が暴走を更に加速するという逆の性質があるわけです。もう一つ大事な暴走の性質があるのですが、そこはちょっと省略をします。それから冷却剤にナトリウムを使っているわけですが、ナトリウムは、運転中は500℃を超える高温ですから、漏れたときに外側が空気ですと燃えます。これは、もんじゅで起こったことです。更にこれは電気を起こすために、水を蒸気にする熱源として高温のナトリウムが使われるわけですから、水に熱をわたすときに蒸気発生器というものを使うわけです。これは、約3点数ミリの金属の壁を通して、内側を約150気圧の水が流れている、その外側を数気圧の高温ナトリウムが流れている。で、内側の水を熱して蒸気にするわけですけれども、この管の内と外の圧力差が約150気圧もあるわけですから、もしどこかに、今、軽水炉で時々起こるような電熱管に穴が開くとすさまじい勢いで中の水がナトリウム中に噴出する。すると、ナトリウムと水は犬猿の仲ですから、非常に激しい勢いで化学反応を起こす、そういう危険な性質を持っているわけです。これが一つ、大きなネックになっています。それから、核燃料のプルトニウムを使う。これはさっき冒頭に言いました国際的な問題。特に問題なのは高速増殖炉では、軽水炉での使用済み燃料の核燃料というのは、燃えない燃料がトータルで30%以上ありますから核兵器にするにしてもかなり高度な技術がいて中々難しいところがあります。高速増殖炉の場所の一部で出来るプルトニウムというのは、燃えるプルトニウムが98%占める訳だから、非常に核兵器のプルトニウムとしては今までのプルトニウム以上に上質なんです。そういうプルトニウムが出来る。それから、地震に弱い構造で、これはある程度ちょっと止まない宿命にありまして、そういう危険性があるということが一つです。二番目に安全対策も含めて非常にお金がかかる。経済的に成り立たないという問題がある。成り立ちにくいという問題がある。それから三番目に、ここでも出ました核兵器拡散の問題が出てくるということで高速増殖炉は、各国は止めたという事実があるわけで、そういう事態にあって日本だけがどこまで高速増殖炉をやれるのか、というのは非常に疑問に思います。
 
V.プルサーマルの危険性
 
性質の違うウラン燃料とプルトニウム燃料(MOX燃料)
 必要性の話は以上にしまして、次、安全性に関する問題に入っていきたいと思います。これからプルサーマルをやろうという計画を見ていますと、疑問に思うのは、以上1〜5まで挙げたこの5点になります。まず今の炉を代えながらMOXの燃料を入れるということをやる、ということが一つ問題としてあげています。元々今の炉は低濃縮ウランに最適なように設計されているわけですから、それに新たにMOXを入れるということは若干無理をしてやるということですね。構造を変えないで済むようにいろいろな工夫をしてやろうとしているわけですが、それは先ほど島津先生がお話しをされたとおりです。ただ、それには限界があるのではないかと思います。まず入れられるMOXの燃料が限られる。これが国の指針によって3分の1までとなっています。ちょっと集合体とかペレットという話しがこれからでますので重複するかもしれませんけれども、大雑把に申しますと、燃料の最小単位がペレットといいまして、だいたい高さが1cmちょっと、直径が1cm弱、ウラン燃料の場合は、低濃縮ウランの粉末を焼き固めたものです。MOX燃料の場合は、劣化ウランとプルトニウムを粉末の状態で混合して焼き固めたものです。それを燃料棒の中に下から200〜300個入れるわけです。この被覆管は、ジルコニウムの合金で出来ていまして、この直径もほとんど1cmくらいです。長さが4mくらいです。これを例えば、17×17位に束ねまして、一つの集合体の格好にしたもの、これが燃料集合体です。燃料棒が、17×17くらい並んでいます。こうした燃料集合体の単位で原子炉の中に入れたり、或いは取り出したりとこの集合体の単位で行われます。今いった集合体はこれのことです。二番目には、MOX或いはプルトニウムをプルサーマルで使うにしても、どの燃料にも一応に入れるのではなくて決まった燃料集合体、つまり、MOX燃料集合体にだけ集中して入れます。それが全体の3分の1ということです。これは炉心の入れ方、燃料集合体の入れ方を断面図でみているわけですが、この白い四角一つがウランの燃料集合体です。黒い色の四角がMOX燃料集合体です。白丸が制御棒が入っているところです。こういうように出来るだけ、全体的に平均的にならされるように散らばらすのですが、局所的にいえば、ここではプルトニウムがごそっと入っているけれども隣は、少なくても新燃料のときはプルトニウムが全く無い。こういう形で入れるわけです。例えばこういう表現をよく聞くわけですけれども、今の原発でもプルトニウムが出来ていて、それが運転中に何がしか燃えている、だから、プルサーマルになっても基本的にあまり変わらないという話をよく聞くのですが、実際はそうではありません。よく見ると、今の原発の場合はこのウラン燃料体だけなわけですが、どのウラン燃料体にも少しずつ出来て少しずつ燃えているということが基本的な一応な分布になっているわけですが、プルサーマルになりますとそうではなくて、ここにはウランが無い、若しくは少ない。それに対して隣にはごそっとあるという違いがあるわけです。そこからいくつかの安全上の問題が出てくるわけです。だから、本当に安全性を考えたら理想ですが、プルサーマルをやるにしてもどの燃料体にも全部、一応にプルトニウムを入れて炉心全体を作ればいいわけですが、何故入れる燃料集合体を全部にプルトニウムをばら撒くようにしないかというと、1体の燃料集合体を作るのにウラン燃料集合体に比べたらMOX燃料集合体の方が値段的に数倍高いということを聞いております。そういう経済的な問題であろうと思われます。それから、プルトニウムの含有率が非常に高いです。特に日本の場合は。つまり、同じMOXにしても、外国のMOX燃料と違って日本のプルサーマルをやるMOXというのはプルトニウムの含有率が非常に高いです。これも安全上の問題になってきます。それから、ウラン燃料とプルトニウム燃料には画期的な性質が若干あります。それは島津先生がお話しをしたとおりです。特に中性子を吸収する能力というものはウランとプルトニウムではかなり違います。
 
炉の性質と運転にかかわる危険性
 それから、5番目に上げたのは試験過程がかなり省かれていると私は印象を持っています。こういう基本的な問題点がどういうところに現れているかということをいくつかご説明したいと思います。もうあまり時間が無いので、ここには危険性と書きましたが、安全性でもいいのですが、大雑把に並べますと、主なものを8点くらい挙げたのですが、まず「制御棒や制御装置の効きが低下する」ということがあります。それから、これをもう少し説明しますが、島津先生のところでも出てきました。この絵は資料にもありますが、模式図です。実際に計算でやった結果をそのままグラフにしたというものではありません。大雑把な模式図です。下が原子炉の縦断面と考えて下さい。赤いのが、プルトニウム燃料集合体と書きましたが、MOX燃料集合体です。白いのがウラン燃料集合体です。多少誇張して書きましたけれども、ウラン燃料だけ、MOXがなくて全部ウラン燃料というときの中性子の分布は、正確に言うと多少でこぼこしていますが、ここでは説明のためにならしました。どこもあまり大きく違わないということで大体なだらかです。それに対しまして、プルサーマルにしますとMOX燃料のところで、MOX燃料は中性子を非常に吸収しますから、ここでは熱中性子の数が大きくへこんで、分布がこうなります。でこぼこします。何故制御棒の効きが悪くなるかというと、ウラン燃料の場合は、熱中性子がこのレベルですから、比較的沢山あって、この中性子が吸収することによって制御しているわけです。ところが、プルサーマルにしますと、MOX燃料の中には確かに制御棒は入れないのですが、隣にいますと若干影響を受けますから、中性子の数が減っている。その減った中性子の数の中の何がしかを制御棒が吸収するわけですからこの違いの分だけ制御棒の効きが悪くなるわけです。こういう問題が出てきます。これはその次の二番目の問題に挙げた「燃え方にむらが起こる」ということですが、これは島津先生のお話にありました。なぜこう引っ込むかということですが、これが勿論中性子を吸収するから引っ込むのですが、吸収のうちのかなりの部分が、吸収することによって核分裂をして燃えるわけです。丁度このへこんだところは燃えるところと読んでもいいわけです。これも島津先生のお話にありました同じ図ですが、今のウラン燃料ですと、一つの四角が1本の燃料棒ですけれども、どれも同じ濃縮度のウラン燃料で出来ているわけですけれども、MOX燃料にしますと、隣がウラン燃料ですと、隣のほうに沢山熱中性子があるものですから、隣からどっと熱中性子が流れ込んでくるわけです。そうしますと、プルトニウムはよく吸収しますから、外側はほとんど熱中性子を吸収してしまうわけです。それで、内側にはあまり通ってこない、ということになります。逆に吸収をするということは外側が良く燃えるということになります。特にこの角の部分が良く燃えるということになります。この角はプルトニウムを一番薄くしまして、外側でも、角ではないところをその次に薄くしまして、内側のプルトニウムを濃くするという、そういう今までの、プルサーマルをやらないときの炉心と違って燃料集合体の中身、構造がかなり複雑になります。そのように一応対策をとっている訳です。ただ問題は、この対策で本当にいいのかということになりますが、一応解析計算で国が定めた限度以下で満足しているわけですけれども、こういった問題は後で総括で一括して私の見解を述べさせていただきます。それから今いったのは燃え方のムラです。
 
燃料に関する危険性
 後「異常が起こったときの炉心の音が早くなったり、大きくなったりする」という話しがありますけれども、この4番目からの話をちょっとしたいと思います。まず「燃料ペレットからの放射性ガスが出やすくなる」という話しです。燃料ペレットから出るわけですから、そこから外へ出るわけではなくて、被覆管の中に出るということです。これはフランスのデータで、横軸に燃焼度をとりました。どのくらい長いこと燃やしたかというのが横軸です。縦軸にFPガスというのは、核分裂生成物のうちのそういうものの出る率を縦軸にしてパーセントにしてあります。赤く塗ったのがウラン燃料棒のデータです。これは実測値です。上は、製法はいろいろ変わりますが、すべて色がついていないのはMOX燃料の実測値です。40ギガットデーパートンというこの位の燃焼をしたところでは、ウランもMOX燃料もあまり変わりありません。ところがこれを越えますとウラン燃料もなだらかに上がってきます。それに対してMOX燃料はここからかなり放出率が高くなる。こういうように違いができます。これはどうしてかというのは、大きく分けて二つありまして、一つは、島津先生のお話の中で、中性子増倍率という表現で出てきたと思いますが、ウラン燃料は燃やしていくとどんどん急激に増倍率が減ってきまして、それに対してMOX燃料の場合は、なだらかに下がるという図があったと思うのですが、あのようにある程度燃焼率が上がってきますと、ウラン燃料よりもMOX燃料のほうが温度が高くなる。だからガスが出やすくなるということです。ということが一つ。もう一つは、このMOX燃料を作るのは、ウランとプルトニウムという全く異質の物質を粉末の状態で混ぜるわけです。こういう時は完全にきれいに混ざらない。どうしてもプルトニウムのあるところでは塊になって残るということは避けられないわけです。これをプルトニウムスポットといっています。この写真がプルトニウムスポットを映した一例ですが、メロックスというこれから日本の電力会社は、ほとんどこのメロックス社でMOX燃料を作ってもらうことになると思うのですが、この白い丸がプルトニウムスポット、プルトニウムの固まりです。こちらは、ベルゴニーウケア社が作ったもので、どうもこちらのほうが良いですね。そういうものを実際に製品を輪切りにして、写真を見て測定した例です。これ以外に、MOX燃料というのは5種類のプルトニウムが混ざっていまして、それぞれがウラン燃料よりもアルファー線をいっぱい出します。およそウラン燃料の15万倍出すといわれています。アルファー線はヘリウムですから気体です。するとさっきの核分裂上のガス状の気体とこのアルファー線で、燃料被覆管の中にだんだんガスがたまってきまして中の圧力が高くなります。この内圧ですが、加圧水型のデータがあるといいのですが、一寸見当たらなかったので申し訳ないのですが、沸騰水型のデータをお示しします。加圧水型がこれと同じ挙動をするかどうかというのは分かりませんが、恐らく似たようなことになるのだろうと思います。これは、ウラン燃料の時に、作るときから中にヘリウムガスを加圧して封入します。それからどんどん燃やしていくわけです。すると中に核分裂生成物のガスやアルファー線のガスで圧力が高くなってきます。だんだん高くなって、最後使い終わる時はこの辺で出すということになります。それに対してMOX燃料の場合は、最初に加圧するガスをこれは対策としてずっと低くしておきます。半分くらいにしておくわけです。この低圧のガスを封入して、それでも運転中にガス圧がどんどん高くなりまして、被覆管の内圧がこんなに高くなります。途中でウランを追い越す、というほぼ同じくらいの圧力になったところで取り出す。という話です。その上に、ガスだめはウラン燃料に比べてMOX燃料にするとずっと大きくして、いっぱいガスをためることが出来るよう容量を大きくしている、こういう対策をしています。対策をしているからいいと思われるでしょうけれども、一寸ここを注意していただくと、最初に封入するガスが何故封入するかというと、これは外側の圧力が、被覆管の、燃料棒の外側の圧力が非常に高い。これは沸騰水型ですから外側が大体70気圧くらいですけれども、加圧水型になりますと、外側が大体150気圧くらいになります。そうすると、外の圧力で被覆管がつぶされないようにという事が大事なわけで、そのために加圧するわけですが、本当はこの加圧が余裕を持って必要なわけですけれども、これだけ下げるということは、それだけ外圧に対する抵抗力を下げて使う、余裕を低下させて使うということを意味しています。
 
プルサーマルは安全余裕を低下させ、事故のきっかけを増やす
 あと、この資料にもありますけれども、これも沸騰水型で申し訳ないのですが、燃料の融点が、加圧水型でも同じですが、MOX燃料にする事によって燃料の融点が下がります。その差の分だけ余裕が減っていくわけです。一方その熱伝導度がMOX燃料になると小さくなりますから、燃料棒温度が上がりやすい。その燃料棒の温度が、MOX燃料、これがウラン燃料です。この融点との差がいうならば余裕になるわけですが、ウラン燃料に比べて余裕が減るということ、これは沸騰水型の例ですけれども示しました。こういう安全上の問題を、一口でいうとどういう話になるかというと、結局プルサーマルにおける安全上の問題は何か、と言いますと、この安全要因を削ることになる、という事がいえるわけです。これがウラン燃料の場合の安全要因がこの位とします。それがプルサーマルにしますと、ほおって置くとこれだけに低下する。この低下した分を何とか工夫でがんばりましょうというのがプルサーマルの今のやりかたなわけですけれども、果たしてこれが本当に出来るのか、というのは個別の問題を見ても疑問ですし、もしこれが何らかの事故が起こったときに、例えば安全融合がこれだけあったときには事故に対して抵抗力が比較的あったのに、それが安全融合が減ったために事故になって被害を大きくするとか、或いは拡大することにつながっていくということにもなりかねない。安全余裕は何のためにあるのかというのは、言葉で説明をして資料に書きましたのでそれをご覧になっていただければと思います。
 
日本のプルサーマル計画は外国に実績がない
 さらに最後に言っておきたいのは、資料にも書きましたが、どうも日本のこのプルサーマルに関する安全審査の基準が非常にずさん、悪い言い方をするといいかげんだという感じがしました。特に世界の規制の現状と比べますとプルトニウムの含有率、或いは負荷度これは燃えるプルトニウムの割合を言いますが、この規制値をみますと外国に比べると日本は随分大きくとっています。国によって負荷度で規制しているところと、含有率・つまり燃えないプルトニウムを含めた率で規制しているところと両方あるわけですけれども、このように日本は8、よそでは4〜6まで。含有率でいうと日本は13%、他の国ではせいぜい7〜8%というように留めているわけです。日本よりずっと前にやっているにもかかわらずこういう状況です。何故日本は負荷度を8%、含有率にして13%を許したのかについては、指針を見てもきちんと書いていない。どういう実験に基づいてやったのかという事を見ましても、せいぜい6.4%までの試験を参考にしてしかやっていない。これは私が見る限り、それ以上のものが指針には書いていないということでいっているわけですけれども。しかもこれは沸騰水型の指針で書いてあるわけで、加圧水型の指針も含めた平成7年に発表された指針では、その根拠は一切書いていない。どうもかなりいいかげんで、この辺が私は、省略をしましたけれども、試験を経ないでいきなり諸事情でスタートするという問題として掲げた件です。おおよそ、1時間を過ぎたかもしれませんけれども、時間ですので私の話はこれで終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
 
< 質疑 ・ 応答 >
 
<島津>
 今小林先生から色々安全性について、安全要因の低下とか、融点の低下とか、計測分布が変わるとか、色々不安点を列挙されました。だけど、全てそれが特性を無視して原子炉の設計をすれば確かにいろいろな不安は出てくるのでしょうけれども、今の解析は、実証された解析手法で全てそういうような情報を考慮して、その上で強化した結果を持って安全かどうかを審査をされているはずなんです。はずというか審査されていますので、今先生がおっしゃったいろいろな不安材料はあるのは間違いなく事実です。でも、それをちゃんと計算上、設計上考慮して、それなりの対応、評価をしているということを頭に止めておいて頂きたいと思います。設計上は全てそれらを、分かった知見はすべて反映した上で設計しているということが現状です。そしてそれらの結果を判断して国の一次審査、二次審査で妥当であるという評価になっているということだと思います。後、どんなことでもご質問がありましたらどうぞ。
 
□質 問
<空知地協 鈴木>
 先生の18ページの上のところに、設計と安全規制の関係の中で「運転中は規制官庁の保安官が発電所に常駐している」と書いてあります。ただ、実際に事故が起こったときにこういう保安官が常駐していて逐次報告されているという報道は一度も聞いたことがないのですが、どうなっていますか?実際は常駐していないのではないですか?
 
□回 答
<島津>
 いや、泊ではオフサイトセンターというのがありますからそこに常駐されています。京大原子炉にはすぐ隣にあるオフサイトセンターがあってそこに保安官が常駐されていまして、それで、毎日来られて状況把握をされています。今は事故があるとすぐにオフサイトセンターから各地方公共団体、政府のほうへ一斉にFAXを送る準備が出来ていましてその連絡体制はかなり整備されている状況です。私どもは、原子力安全委員会から携帯電話を持たされていまして、何かあるとすぐにメールが来て、電話が来て、もし事故があるとすぐに集合せよとなっていて、連絡網も年に何回か訓練もあるし、この10月にも防災訓練が計画されています。
 
□質 問
<電力総連 田中>
 先ほど小林先生は各国の規制数値を見ると日本の場合は甘いということでしたが、島津先生のほうでも何か見解があればお願いします。
 
□回 答
<島津>
 濃縮度が先行している国が低いというのは根拠があると思います。というのは、今までも、美浜1号とかが動き出したころは一年に1回ずつ燃料をとりかえるということで、10ヶ月運転をしまして燃料を取り替えるというのが基本の設計思想でした。ところが最近は稼働率を上げるためにだんだんと、一度燃料を入れたら止めるまでの期間を長くしています。法律上は1年プラス・マイナス1ヶ月。13ヶ月まで運転できるようになってきました。そうすると、9ヶ月、10ヶ月で止めて燃料取替えをするのと、13ヶ月ずっと続けて運転できるようにするのとでは、最初に入れておくべき燃料の濃度を一寸上げておかないと持たないわけです。そして、このプルトニウムの濃度を決める考え方は、ウランと同じように炉心の中に燃焼したときに、同じ寿命を持つように決めようという考え方で、等価的に考えられるように、同じ寿命で燃料の取り出しが出来るようにと、そういうことから、昔は取替え燃料が3.1%とかの濃縮度でしたが、今は4.8%まであがってきていますから、それに応じてプルトニウム濃度も上げてきたという、現在も使っている長い運転期間用の燃料に合わせたプルトニウムの濃度を決めたのがこういう値になってきているんだと思います。後、小林先生のほうで指摘がありました燃料集合体の中の濃度を変えるという設計があります。これは、PWRは確かにこうです。今運転しているBWRの燃料は、ずっと昔からこういう燃料棒ごとに濃度を変えたり、そこに入れる別のものの濃度を変えたりして集合体の中に、燃料棒ごとの特性を変えた設計はもう30年以上続いていますので、こういう設計の実績は、プルサーマルがはじめてとかそうではなくて、ウランですけれどもすでにそういう設計はやっています。MOXではないですが。ですから、そういう設計はすでにあるという事です。あと、フルMOX炉心というのがありまして、今度電源開発株式会社が大間に作る原子炉は、全部MOX集合体で炉心を設計するという方針の原子炉の予定です。ですから、先生がおっしゃった3分の1の、というのは今の原子炉をそのままの構造で替えずに使おうとすると3分の1位にしておかないといろいろな制限が顕著になってくるという考え方に基づいていると思います。
 
<小林>
 同じ件に関して私の見解を一寸申し上げたいのですが。プルトニウムの含有率が、日本が外国に比べて突出して高いというのはなぜかという意見に関しては、理由の一つは確かに島津先生がおっしゃったとおりだと思います。問題は、そうだったら、それだったら、というのはMOX燃料の健全性に影響を与える要因というのが大きく二つありまして、使用による要因です。ひとつは燃焼度です。燃やせば燃やすほど健全性に対する影響が大きくなります。もう一つは、燃料棒の中に何パーセントプルトニウムを入れるかというその含有率の多さによってもその健全性に対する大きな影響を与える要因になります。ですから、MOX燃料の健全性からいうと含有率が少ないほうが良いわけです。そこで、悪く解釈をしますと、ウラン燃料と同じように燃やしたいから、ある意味で経済性を優先した、そっちの要因を優先したととれなくもない。というのは、フランスは、今は規制値が7.08%になっていますけれども、最近これを高める、ウラン燃料並にしたいという申請をしました。ところがこれはフランスの規制当局によって、却下まではいきませんが延期されているわけです。「健全性に対する余裕度の実証がない」という理由です。フランスはこれ以外にも、僕から見ると日本に比べたらかなり慎重だなという感じがします。まず、フランスのプルサーマルは諸外国の、日本を除けばスタートが一番遅い。本格的には、チェルノブイリ事故が終わってから始まっているわけです。それと同時に規制値をどの国よりも低く押さえている。同じ、決まったタイプの原発でしかやらない。つまり、日本には出力が違ういろいろなタイプの加圧水型がありますけれども、フランスの場合は、このタイプと決めてそれでしかプルサーマルはやらないと決めているわけです。しかもその炉でプルサーマルをやる時には、日本のように改造しないというのではなく、改造して、それまで53本だった制御棒の数を57本に増やしてそれでやっているわけです。ですから、フランスが世界でもっとも沢山プルサーマルをやっていると言えども、そのやり方は非常に慎重で、それに比べると日本は一寸乱暴ではないかという感じが私はしております。