(第51号) 2006年5月30日(火)
政策調査情報 連合北海道 総合政策局
■内容;第6回税制改革アドバイザー会議議事要録・2006年3月14日(火)
 
【神野座長】 第6回目のアドバイザー会議を始めたいと思います。本日は、公平・公正な税制の実現に向けてということで議論をしていきたいと考えております。事務局から説明をいただいたうえで議論をしていきたいと思います。
【事務局】 では事務局から、お手元に連合の「第2次税制改革基本大綱」を資料として配布いたしましております。このなかで本日は特に、公平・公正の視点ということで、その後の情勢の変化等々を踏まえて、引き続き検討、補強が必要ではないかという項目が幾つかあると考えております。
 第一に、総合課税を実現すべき、納税者番号制度をあわせて導入していく必要があるということです。しかし、政府は総合課税ということではなく、金融所得課税の一体化という方向でやろうとしています。こうした流れに対して具体的にどのような対案を持って対応すべきなのかということが一つポイントになろうかと考えております。
 損益通算のあり方、あるいは金融所得の課税に対するあり方についてご示唆いただければと思っております。
 納税者番号制度については、政府税調では、今の段階では基礎年金番号、あるいは住基コード、この2つが主要な選択肢として挙がっている状況になっております。その一方で、小泉首相は先ごろ、社会保障番号の検討を指示したと報道されています。これは、経済財政諮問会議において民間議員が社会保障に関する個人勘定を提起したこととの関係で、社会保障の負担と給付が一連でわかる形の番号が必要という認識に立ったものということです。さらに税務とのリンクということも一定程度想定されるますので、これについてどのように考えるのかというのも検討課題と考えております。
 第二に、所得税の税率構造です。90年代以降、段階的に所得税の最高税率が下がっています。連合としては逆に引き上げていくことを求めております。大綱の中では、定率減税を導入する前の所得税と住民税の合計の最高税率、これは55%ですけれども、他方で住民税を一律10%にしますので、所得税の最高税率は当面45%にすべきと言っています。一方、低所得者層については所得税率の引き下げをやるべきということを求めてきていますが、これらの点について今後どうあるべきかということが課題だろうと考えております。
 第三に、給与所得控除について、この間、控除にはそれぞれ根拠があるということをご議論をいただいてきたわけでございます。今度は、具体的にどのような主張の仕方といいますか、税調での議論、あるいはわれわれがさまざまなキャンペーンを張っていく中でどういうふうに主張していくべきか。これは連合に任せられた課題であるわけですが、ご示唆をいただければと考えております。
 またいわゆるクロヨン問題をはじめとする所得捕捉格差の問題。格差の是正ということで、納税者番号制度を含めた所得捕捉を徹底すべきだということを連合は求めてきたわけですが、自営業者などから見ると、特に給与所得控除は恵まれ過ぎであるという逆の立場の主張も一方であります。連合としても反論してきているわけですが、自営業も含めた国民全体として、負担の公平をどういうふうに考えていくのか。連合の考え方を補強していく上で一つのポイントになると考えております。
 給与所得控除との関係でいきますと、いわゆる特定支出控除は大変使い勝手の悪い制度になっています。連合としては、特定支出控除の適用範囲を広げる等々、制度の改善、実効性を上げる制度改善を求めてきていますが、さらに実効性を上げる工夫が考えられないのかということがございます。
 それから、給与所得控除は控除額が右肩上がりで青天井という言われ方をされていますが、これについてどのように考えるべきか検討いただければと思っております。昭和48年までは給与所得控除に上限が設けられていましたが、これをどのように見るのかということもあろうかと考えております。
 第四に、人的控除の見直しということです。連合の考え方ということでいきますと、ひとつは配偶者控除と扶養控除の統合、あるいは夫婦間での課税の公平ということで二分二乗制度を求めています。他方、子育て世帯の支援ということで、現行の扶養控除、特に16歳未満の扶養控除については、児童手当の拡充とあわせて控除から手当に振りかえることを求めています。一方で、政府税調は、配偶者控除をなくし、特定扶養控除もなくすことを念頭に置いている。扶養控除についても、一定の年齢以上については適用対象から外すことも考えているということです。それに対して、具体的にどういう攻め方というか、対案も含めて具体的に検討が必要であると考えております。
 扶養控除の関連は、子育て世帯に対する支援はどうあるべきか。税額控除という方法、あるいは控除から手当にかえていくべきではないか、幾つか選択肢があるということでございます。
 政府税調では、この間、家族に関する控除について、3つの見直し方法について議論しました。1つは、配偶者控除と扶養控除を統合するということ。2つ目は、配偶者控除をなくし、扶養控除についても限定的にするかわりに基礎控除を増やすということ、3つ目は、基礎控除の拡充はするけれども、配偶者控除あるいは扶養控除をなくしていって、かわりに児童の扶養について税額控除方式を入れるという、3つの考え方です。
 また、世帯課税か個人課税課かという問題について、税調では、二分二乗あるいはN分N乗方式というものも検討対象にはするということですが、どこまで具体的に検討するかは不透明です。もう一つ、これは特に夫婦間での課税の公平ということで、移転的基礎控除について。
 移転的基礎控除を入れた場合に、配偶者特別控除等をなくしてこれを入れると増税になる世帯が多いという問題点があったわけですが、配偶者特別控除の上乗せ部分が廃止されましたので、これについて一定の検討があってもいいのではないかと考えております。さらに配偶者だけではなく扶養家族も含めた控除制度を入れた場合、一体どうなるのかということも検討の余地があると考えております。
 なお、連合としては、二分二乗方式、N分N乗方式、それから基礎控除の移転方式について、それぞれメリット、デメリットはあるけれども、この3つが選択肢として考えられるのではないかということを、過去に議論をした経緯があるということでございます。
 第5に、消費税の問題です。連合としては、益税、あるいは逆進性の解消、是正をしていかなければいけないということを提起してきたわけでございます。益税問題については、免税点あるいは簡易課税方式を廃止の方向で見直していくということ。その中で、インボイス方式の導入を急ぐべきだということもあわせて議論をしてきました。特に、免税点は1,000万円までが下がりましたが、ヨーロッパ等ではもっと低い設定をしているところもあります。今後どういうふうに見直していくのか議論をしておく必要があるのではないかということでございます。
 もう一つ、消費税が抱えている大きな問題として逆進性を改善していく必要があると考えています。複数税率、ゼロ税率なのか、軽減税率を設けるという方法もありますし、所得保障、給付による調整など様々な方法が提起をされています。どのような仕組みがよいのか、議論が必要と考えています。
 各国をみますと、特に食品だとか水、雑誌、新聞等々、生活に不可欠な部分について、軽減税率が多くの国で適用されています。他方で、軽減税率等を入れた場合、税が軽減されるものと、そうならないものの境目をどういうふうにすべきかという問題があります。政府税調の石会長は、一定程度税率が上がらないと、なかなか複数税率という議論にはなり得ないのではないかという認識を示していますが、それについてどう議論をしていくのかということも考えなくてはいけないと思っております。
 第六に、金融所得あるいは資産所得についての課税の強化ということです。連合としては、現行の相続税あるいは贈与税の課税方式について、一生のうちでどれぐらい資産を形成したかという点に着目して課税する、これは納税者番号制度を入れないと機能しないわけですが、そういう方法に改めることがあるのではないかということです。他方で、中小企業の事業承継にも配慮しなければいけないという問題もあるということで、さらにもう少し補強が必要ではないかと考えております。
 もう一つ、資産課税ということでいけば、これもこの間、何度かご議論をいただいたわけでございますが、純資産税について検討すべきではないかということであります。資産であればすべてが直ちに課税対象になるかというと、現実問題としては、税の執行上どうしても一定の限界は出てきます。課税額の算定が難しいものも中にはあります。したがって、当面は金融関連資産、あるいは一定の不動産といった資産について課税の検討が必要ではないか。その中で、連合は8,000万円という設定をしているわけでありますが、一定の資産については課税対象から外しつつも、純資産税を課していくことが検討されなくていけないのではないかと考えています。これについて、もう少し詳細にご意見等、ご示唆をいただければと考えております。
 最後、第七に法人課税というところでございます。ひとつは、これ以上税率の引き下げはすべきではないということでございます。もう一つは、法人に対するさまざまな租税特別措置について見直しを図っていく必要があるということでございます。
 法人事業税の外形標準化は、地方税のところで一定の範囲で導入されました。外形標準のあり方は、今後また議論になる局面もあるかと思います。そのほか、法人に対する地方での課税、法人住民税、法人に対する事業税について、財界では地方法人税を軽減、撤廃すべきだという議論が出てきています。どのような対案で我々は主張していくのか、もう少し詰めなければいけないと考えております。
 租税特別措置については、法人税では1兆7,000億円という規模での租税特別措置が設けられておりますが、10年前の1996年には法人税の租税特別措置は約3,600億円程度であったということで、約4倍に増えました。今度の税制改正では、法人関連で4,600億円ほど新たに措置された一方で、租税特別措置の改正では、法人関係で約9,000億円の見直しがされましたので、差引き4,000億円ということです。しかしまだ1兆3,000億円の租税特別措置があるということです。
 他方、所得税のほうでも1兆5,000億円規模の租税特別措置があるわけですが、最大の項目である住宅ローン減税は段階的に縮小されてきています。法人税の租税特別措置をどういうふうに考えていくのか。これも議論が必要ではないのかと考えているということでございます。
 やや駆け足で、かなり幅広い課題を事務局の考えとして説明させていただきました。これ以外にも、こうした視点があるのではないかということがあれば、あわせてご提起をいただきご議論をいただければということを考えております。事務局からは以上でございます。
 
【神野座長】 まず税制における公平とか公正という概念を整理しておかないと混乱するかと思います。教科書的なことになりますけれども、現在では税制の基本理念は、公平、中立、簡素と言われているんです。
 そのうち公平を考えていきましょうということになると思うんですが、実は税調の議論を聞いていても、公平と中立ということがまず混乱されている場合があって、びっくりしたことがあります。この間も金融所得に関する税の議論のときに、金融商品に投資をして得る収益に総合課税をすると、豊かな人々のほうは収益が少なくなって、貧しい人は多くなってしまう、これは不公平だというんです。
 本来の概念からいうと、これは中立性の概念です。中立性の考え方というのは、税があることによって意思決定、通常は市場における意思決定に、影響を及ばさないようにするということです。公平とは何かということと、中立性ということが混在されて使われているのです。
 それは価値観の問題だからということになってしまうのですけれども、少なくとも我々は、市場で行われている所得分配を歪める価値基準として公平とか公正とか使っているのではないと思います。そういう言い方ができないわけではないんですけれども、それは中立性の概念であって、それとは違った概念で使わないと価値基準として意味がないのではないかということが一つです。
 それから、我々の伝統的な公平や公正の議論からいえば、応能的と応益的という考え方があります。応能的というのは経済力に応じて税金を負担するということだし、応益的というのは公共サービスが受けている利益に応じて負担をするということです。応能的な公平と応益的な公平をどっちでどういうふうにやるのか、どういうふうにバランスするのかという問題がありますが、普通の考え方で言えば、国税は応能的公平でいき、地方税は応益的な公平でいきましょうということになっています。
 そして、応益的な公平といったときにも、個々のサービス、受益者負担みたいものについて応益的と言うのではなくて、公共サービス全体の利益をどう受けているかというのが応益的な考え方です。アダム・スミスは、所得が多い人は公共サービスの利益を多く受けているし、少ない人は少なく受けているので、比例的にとるのが応益的だと主張しました。個々のサービスについては手数料とか使用料とか受益者負担でいけばよい話で、応益的というときに租税でいくべき話ではないということです。
 それから、応能的原則に立ったとき、担税力に応じた課税をするということを言った場合に、担税力とか、税金を担う力とか、経済力を何で定義するのかということにかかわってくるわけです。それは所得なのか、消費なのか、あるいは資産でやったほうがいいという議論が本来あるはずで、所得はゼロでも豪勢な消費をしている人もいるから、消費に掛けたほうがよいというのがカルドーの考え方です。いろいろな考え方があるので議論しなければいけないと思います。
 ただ庶民はわりと経済力というのを実感として分かっていて、お金持ちという概念に表れていると思うんです。例えば全然財産を持っていなくて1,000万円の給与所得で生活している人をお金持ちとはいわないでしょう。しかし広大な敷地を持っていて、地代だけで1,000万円の所得を得ている人、あるいは株式を持っていて1,000万円の配当所得だけで生活をしている人は、お金持ちというのでしょう。所得税だけで担税力、経済的に応じた課税をできるのかといえば、ほかの税金を組み合わせるか、控除を使うかというようなことしなければできないだろうということですよね。
 それぞれの税目について言えば、課税ベースと税率の両方があるので、課税ベースが抜け穴だらけになっていれば、形式的に税率を累進税率にすることでは経済力に応じた課税はできません。形式的な累進性と実質的な累進性を少し分けて議論しなければならないと思います。
 あとは、租税特別措置などにかかわることですけれども、租税特別措置は応能的な観点から導入されているんでしょうか、それとも中立性から入れているんでしょうか、そうでなければ税制によって政策をやろうとして入れているのでしょうか。経済政策、社会政策を含めた政策と税制という関係でも、たぶん公平とか公正を歪めることになるということだと思います。
 日本では、租税特別措置は本則に書き込むと租税特別措置ではなくなるんですよね。本則に書き込まないと租税特別措置になってしまうので、個人所得税にはいかにも租税特別措置が多いような感じがするんだけれども、逆に本則の中に出てくる問題があるということです。このような概念について気をつけながら議論をしていかければいけないと思います。
 それでは、どうぞご自由に討論を。最初は、できれば所得税関係で、議論としては最初、総合課税の話からいけばいいんですかね。
 
1.総合課税と納税者番号制度について
【逢見主査】 入り口としては、やはり総合課税と納番の話ですよね。これは連合創立以来、ずっと主張し続けてきたものなんですが。
【神野座長】 総合課税と納番に対してはいいとこ取りをしているんです。少なくても財務省は、総合課税に対して、もう時代おくれで、事実上、二重所得税制が理想だということを言っているんです。これはクノッセンの議論にのっとっているんですが、事実上インチキなんですよね。例えばこの間の、社民党の福島瑞穂党首と小泉総理の議論でいっても、日本は最高税率が50%まで行っていない、低いのではないですかと言うと、二重所得税論でフラットでやっている国だって多いんですと言うわけです。しかし、フラットでやっているといっても、スウェーデンの場合には最高税率が50%を超えているんですから。
 ところが、財務省の資料によると、スウェーデンの税率は二段階で20%と25%です、と国税だけ出して、最高税率を抑えるときの資料として利用するんです。「日本の所得税は結構まあまあの水準ですよね、ほかの国だってそれほど高い最高税率を適用しているところはありませんよね、二重所得税を利用していれば低く抑えられますよね」という資料として利用するんです。
 ところが、給与所得と金融所得を総合課税すべき、給与所得の税率を低くすべき、という議論をすると、今の財務省は、「二重所得税論でいけば金融所得と給与所得を分けて課税すべきです。しかも二重所得税では給与所得に対しては税率を高く、効率性を考えて税率を高く適用し、金融所得については低い税率を適用していますよね」と言ってくる。資本所得に対しては30%の税率ではないですかと言ってくるわけです。
【池上委員】 はい。
【神野座長】 それで資本所得は比例税率です、勤労所得に対してはこれだけの累進税率を適用しているんですと言うわけです。だけど、これは正確に言うと31%の地方所得税なわけです。ところが財務省がスウェーデンの税率を説明する資料では、20%と25%という2つの税率しか書いていないわけでしょう。地方税31%を加えれば51%と56%になるはずなのに、税率の比較のときには全然触れません
 スウェーデンは、31%の比例的にかかる給与所得にだけ払う地方税と、20%ないしは25%の比例税率でかかっている国税を合わせると、給与所得について累進税率になるんです。国税のほうは一部のお金持ち、高所得の給与所得者、全地方所得税納税者の10%ぐらいが納める税金として設定しているということなんです。
 では、資本所得のほうは比例税率だけではないですかと言うと、ここには純資産税をかけるんです。資本所得には、ストックに関して純資産税がかかります。資本所得に関して純資産税がかかりますという話をしないのは、いいとこ取りというのか、悪いとこ取りというのか、明らかにこれは操作という気がするんです。
 それから、総合所得課税と納番という話でいけば、スウェーデンは納番というような話ではないです。金融取引をやるたびに番号が必要、なければ金融取引できないんですから。銀行の預貯金を出し入れするのにも番号が必要で、全部わかってしまうようになっているんです。しかも資本所得を比例税率化したのも、キャピタルゲインとキャピタルロスを抱き合わせて、お金持ちが税金を納めないからという趣旨で設けているんです。デュアルインカムタックスをやっている国では納番になっていることについて説明をしないのは、都合のよいところだけ焦点を当てて強調していることになります。
 私に言わせれば、別に総合課税でなくてもよい、そのかわりデュアルインカムタックスだったらきちんとやってください、資本所得は30%でかけるんならばやっていただいて結構ですと。
 それから、実質のスウェーデンの租税負担率を見ると、所得階層の真ん中のところが低くなっていて、あとは累進税率になるように組み合わされている。それを控除でうまく調整しています。これは、LOの組合員が一番多い所得階層だから、LOが政治的な圧力を加えて減らしているのでしようがないですといっているんです。そのような調整も導入してもらわなくは困ると、連合も言わないと。
 それは、かなりいいとこ取りしていて、私に言わせれば納番をきちんとやりながら、総合累進課税をやっていきましょうと。それに対する反論で出てきた二重所得税論についても同じことで、きちんとした資産所得を漏れなくやって、そこに高い税率をかけるという趣旨は一貫して同じことなんです。だから、どちらの制度でやってもらってもいいと思うんですけれども。
【池上委員】 各国の所得税制をみると、やたら総合課税というところが目立ちます。スウェーデンは分離課税、日本は源泉分離とか申告分離課税、代替総合課税というところもあって、こう見たときに、各国とも制度の中身はいろいろあって、唯一の正しい税制があるということではないんですが、でも総合課税が時代おくれという考え方はあまりないと思うんです。
 それで、カナダの経済学者が書いている財政学の租税政策なんかを見て、キャピタルゲインの課税がどうなっているかというと、今はキャピタルゲインの半分を総合課税しているんです。ちょっと前までは75%だったんですが、算入率を下げたらしいんです。基本的に全部は総合課税しない。それはなぜかというと、日本よりもカナダのほうが物価上昇率が高いので、要するに名目キャピタルゲインに100%課税してしまうと課税し過ぎだから、物価調整という意味があるようだということです。
【神野座長】 キャピタルロスはどうなったのですか。全部非課税にしたのですか。
【池上委員】 たしか控除をしているんですけれども、問題は、だいたい物価は長期的には上がっているので、消費者物価指数などを使って調整し、実質キャピタルゲインに直せば、総合課税するのが当たり前だという議論になっているわけです。
 それが投資に対してマイナスではないかという議論は確かにあることはあるんですけれども、しかしやはり公平、フェアネスと言っているから公正と訳すのかもしれませんけれども、これは大事だと。経済学をやっている人はまずそう言う。
 税法の教科書を見ると、総合課税が当たり前だという議論になっているわけです。日本は経済学と称する人たちの声がやたらと大きくて、ごく一部の人を除いて税法の人たちがおとなしいんです。そういうところが日本のかなり歪んだところで、だから公平とか公正という議論がどこかに行ってしまっているところがあると思うのがひとつです。
 あと、クノッセンの2000年の論文では、確かにこのようなことを言っていますけれども、かなり限定的なんです。デュアルインカムタックスが出てきたのは、本当はデンマークなんですが、デンマークはやめてしまって累進税率に戻しているんです。いろいろな理由があるようですけれども、そういうように北欧を十把一からげになかなかできないところがあるということです。
【事務局】 要するに池上先生が言われるのは、総合課税が主流ではないかということでしょうか。
【池上委員】 そう思うんです。
【事務局】 財務省がクノッセンなる人を持ち出して、そこで極めて特殊な議論を展開しているのではないかという感じがするんですが。
【神野座長】 クノッセンというのは、ヨーロッパの税制の統一みたいな、例えば付加価値税を統一しましょうとか、法人税の議論のベースになるような国際比較をやる人ですよね。
【池上委員】 そうです。
【関口(智)委員】 金融所得課税の一体化にどのように対応すべきかということで議論をしているとすれば、金融所得課税の一体化までは、つまり金融所得の範囲内でキャピタルロスを限定するという考え方までは、私はよいのではないかと思っています。複雑なものを簡素にするという考え方なので、そこまではいいのではないかと思うんです。
 問題は、キャピタルロスを控除した後の所得を合算することをもって総合課税と言っているかどうかですよね。キャピタルロスがどこまでも食い込んでいってしまうというデメリットというか、あまりよくない状態が起こると思うんです。給与所得のほうまで食い込んでしまうという形になると思うので、そこまで合算して課税するのかどうかというところが論点ではないかと思うんですが。
【神野座長】 少なくともスウェーデンで資本所得を一本化して課税しましょうと言ったときには、キャピタルロスをうまく利用して損益通算されるとほとんど税収が上がらなかったから、これを入れたんです。今、スウェーデンではキャピタルロスはどうしているんでしょうか
【関口(智)委員】 要は分離ですよね。デュアルインカムでやっている。
【神野座長】 ロスは認めないんでしょう。資産所得のときには。
【関口(智)委員】 食い込まないということですよね。そうです。
【神野座長】 ロスは全然認めないのですか。
【関口(智)委員】 それをどこまで認めるのかという話が議論になるんだと思うんです。たとえば、ロス控除の最大の上限がキャピタルゲインのところまでだというふうに。
【神野座長】 いや、そこが重要なんですよ。日本のほうはどうしたんでしたっけ。一体化のときにはキャピタルロスとゲインはどうなるんですか。
 米国ではキャピタルゲインは全額課税、それからキャピタルロスは全額非課税として控除できるという制度でやっていたわけですよね。有名なモルガン事件というのが起きて、モルガン一族とモルガン商会との間で巧みに株式をやりとりすることによって、膨大な所得、キャピタルゲインを得ているのに、全然税金を払っていないという事態が起きたので、キャピタルロスの控除を認めないんだけれども、キャピタルゲインについては、あのときは4分の1課税だったかな。キャピタルゲインの何%課税ということで逃げるんです。だから、全額課税、全額控除というやり方じゃなくするわけ。ロスは認めないんだけれども、そのかわりゲインの一部しか課税しませんというやり方をとるんですけれども、今、一体化でどうしたんですかね。
【事務局】 ちょっと今、調べています。ただ、キャピタルロスが出たときに、具体的にどこまでの範囲というところまでは煮詰まっていなかったと記憶していますが、例えば一定の範囲でキャピタルロスの、一つは何年間か繰り越しができるようにする。というのは一つ方法としてはあり得るのではないかというまとめ方をされていたと記憶していますが、正確なところはまた調べて報告をします。
【池上委員】 奥野委員会報告が出た段階だから、まだ法制化されていないのではないですか。あれは単に考え方ということで出されただけであって、それに基づく税制改革はやっていないんですよね、まだ。単に税率を下げただけで、ほんとうの損益通算とか何とかについては、その小委員会報告がそのままになっていて、抜本的か何だか知りませんけれども、だから、そういうのが今度出てくるんじゃないですか、正式に税制改正にしようという形で。あのときは、要するに税率を下げましょうというところだけやって、損益通算のところは昔と変えていないんじゃないですか。
 キャピタルゲインとキャピタルロスとの関係を通算するのか、遮断するのかというそれぞれの話と、総合課税するのかというのは別の話なんですよね。包括所得概念でいけば、総合課税をやってしまえばいいだけの話ですよね。
【関口(智)委員】 だけど、それをやってしまうと、ロスが大量に出たときにどこまでももぐり込んでいってしまうわけですよね。
【神野座長】 だけど、総資産ですから。つまり包括でやるからそれは問題ない。全部入れてしまうから。期首と期末の財産の差でかけるわけだから。ですよね、増加の場合には。ゲインであろうと、ゲインじゃなかろうと。ただ、その場合に、包括的な概念でいけば発生主義でやっていますから、本来のやり方で。現金主義は認めませんから。できるかできないかは別として。
【関口(智)委員】 未実現はどうするかという話になってしまいますね。
【神野座長】 すみません、森永委員、我々もまだ煮詰めていないのでいいかげんなところがあるんですけれども。
 
2.税率構造、最高税率について
【森永委員】 いやいや、総合課税に一本化するのが応能負担という意味では当たり前の話なので。私がもう一つ気になっているのが、所得税の最高税率を適用するポイントなんですね。実は、最高税率をどんどん引き下げてくるときに、最高税率が適用される金額も下げてきてしまっているんです。だから、これを戻すときに、要するに最高税率を引き上げるときに、もっと高いところの税率をどんどんつくっていけばいいと思うんです。今、1,800万円で所得税の最高税率が37%になっていますよね。今度、地方税が10%になると40%になるんでしょうけれども、その後、例えば幾らかわからないですけれども、1億円だったら50%にして、10億円だったら60%にして、20億円だったら70%にして、私、地方税と合わせて90%ぐらいまでは取ってもいいと思っているんです。なぜかというと、そんなのは一生懸命働いても絶対に稼げるはずがないんです。天から降ってきた金、何の努力もしていない金には高い税率を課していいと思うんです。
【神野座長】 ブラケットの問題ですよね。
【森永委員】 実は、普通のサラリーマンでも労働基準法を無視して死ぬほど働くと、1,800万円ぐらいは稼げる金額なんです。そこのところと、何十億円と稼いでいる人の税率が同一というのは、私は明らかに不公正だと思うんです。そこをちゃんと言わないといけないのではないでしょうか。
【神野座長】 そうですね。ブラケットは課税所得で決まっているでしょう。そうすると、控除のほうを引き下げていくわけです。いろいろな控除を整理して。そうすると実際にも引き下がっているのかもしれないけれども、事実上始まりが引き下がるんですよね。整理するのはいいんだけれども。
 そこのところがそのままにされているものだから、どんどんブラケットが下がっているんですよね。その分、基礎控除やいろいろな政策的な控除は不公平だから、基礎控除で上げますと言っていないわけですよね。ブラケットは徐々に徐々に落ち込んでいるんですよね。そういう理解でいいんですよね。
【事務局】 そうです。
【神野座長】 だから、最高税率を引き上げる問題とブラケットが下がっていくという問題はうまく利用されているんです。中産階級の人々に最高税率を適用するということが起きると、この人たちが高過ぎると不満を言うわけです。だから、最高税率を抑えるという悪循環に陥るんですよね。本当に豊かな人々に多く税金をかけないとしようがないんだけれども、中産階級に高い税率が適用されている。最高税率を適用される人のなかで、資産所得で上げている人はたかだか20%です。
【池上委員】 米国の税制改革パネルの報告書では、金融所得はどうなっているかというと、要するに利子所得は総合課税だと、これはもう変わらないんです。今もそうだし、将来もずっとそうだと言っておいて、配当はどうするかというと、ブッシュは配当の税率を下げたわけです。クリントンまでは総合課税だったのを、今は分離課税みたいにして、配当とキャピタルゲインについては、普通の所得税の限界税率が15%までの人は5%、それを超える人は15%という2段階の税率にしているんです。それが2008年になると、5%のほうがゼロになるんです。つまり配当とキャピタルゲインが非課税になってしまうんです。
 先月、大統領の予算教書が発表されましたよね。予算教書ではブッシュ減税の恒久化を求めると議会に要求を出しました。配当とキャピタルゲインについては、限界税率が15%を超えない人はかけない、そして15%を超えた人はやはり15%、これを恒久化しろという議論になっています。これをどう考えるかですよね。確かに従来の米国の税制から見ると、ぐっと税率を下げているということは間違いない。ただ、税率の高い人、つまり高所得の人には高い税率、低所得の人にはかけないという、分割を固定化しようとしているという面はありますよね。
 しかし、それはブッシュがやっていることですから、米国の中でも新自由主義的な考え方が一番強い政権でやっていますから、そういうことになるんですけれども、税制改革パネルのほうはもう少し穏やかで、キャピタルゲインに関しては全額総合課税とは言わず、4分の1総合課税でいきましょう、配当は非課税にしましょうという議論です。それで利子は全部総合課税だと言っているので、金融総合課税の一体化どころか、ばらばらなままでいきましょうというのが、どうも米国の今の主張の流れですね。もちろん民主党系の人は、もとに戻せと、総合課税で何が悪いんだという議論をやっていますけれども。
【神野座長】 最近の資産所得の所得階層別分布を見ていないんですが、ちょっと前までは、貧しい人々の資産所得というのは利子所得なんです。課税最低限の人も利子所得を上げているから。財務省からいえば、利子所得を総合課税したくない明らかな理由は、貧しい人々から税金を取れないので税収が落ちるからなんです。貧しい人々、課税最低限の人は総合課税されれば利子所得に税を払わなくていいわけですよね。所得が600万円までの人は総合課税菜なら税率15%で済んでしまうのに、今は20%を納めているんだから、これは大変ですよ。利子所得には総合課税したくないというのは、明らかに税収が減るからということですよね。それが本音ではないでしょうか。
【逢見主査】 最近はインターネット取引で、個人が何回も売り買いを繰り返しています。譲渡のほうで。それをどうつかむかというのがいろいろ議論になっているようです。
【神野座長】 番号をつけてやってしまえば、全部取引番号が入ってしまうので。スウェーデンなんか簡単に捕捉していますよ。
【逢見主査】 だから納番なんですが、全然その議論が進まなくて、住民基本コードと年金番号でどっちかというところまで行ったけれども、そこから全然進んでいないんですよね。それで小泉総理が社会保障番号と言い出して。よくわからないんですが。これをもうちょっと進めたいと思っているんですけどね。もう30年この議論をやっていて、なかなか進みません。
【神野座長】 だから、総合課税と納番というのはセットです。通常、第2次世界大戦後グリーンカードを導入するぐらいまでは、世界的に、番号を入れて資産所得をちゃんと総合課税しましょうと。その背景にあったのは、税制が非常に不公平になっていて、税制は富裕階級の社会福祉制度になっていると言われた時代だったんです。それが1980年代に金融が自由化され、経済のグローバル化みたいものが進んでしまうと、突然、不公平税制の是正が終わっていないのに、広く薄い負担に、直接税から間接税にと税制改革の流れが世界的に変わるんです。新自由主義にやられて。
 そこで、税制の中立性とか効率性とか言い始めて、公平性は言われなくてなってしまった。結局、そんなことをやったら資本は逃げてしまいますよというのが脅し文句で出てくるんです。
 所得税の税率構造について言えば、森永委員が指摘されたようなブラケットの問題と、実質的な累進性をどう見るかという話になってしまう。だから、税率と課税ベースはセットでないと。
 
3.給与所得控除について
【池上委員】 米国の大統領税制改革パネルの報告書で、勤労税額控除の議論をやっています。これは、低所得勤労者に限った提案なので、日本でそのまま取り入れるのはどうかと思いますが、税額控除を勤労所得の評価に利用するという発想は面白いと思います。たとえば給与所得控除を税額控除とすれば、それを定額控除にする、もしくは家族構成によって控除額を変えることもできます。いずれの場合でも、限界税率の影響を受けませんから、現行制度と比べて低所得者に有利になります。
給与所得控除という考え方は、収入が増えていくとだんだん控除率が減ってくるわけですから、それなりに給与所得の高いところと低いところを差別化しているんです。けれども、もし給与所得控除についても税額控除にすると、より低収入階層に有利になるということですね。ただ連合の税制改革論というのはどの程度の収入の人をターゲットにしているかというのがよくわからないところがありますが、そういう考え方もありえるということです。
【神野座長】 基本的には所得控除から税額控除、それが、効果があるという話ですね。
【池上委員】 所得控除と給与所得控除は名前が違います。発想としては、勤労を条件とする控除ですから、勤労税額控除には、資本所得は関係ないわけですね。
【神野座長】 あと、税額控除の控除の設定の仕方です。スウェーデンの場合には、給与所得が低い場合には控除が小さく、徐々に増えていってまた少なくなるんですね。これがLOの丘と言われているもので、LOの組合員のところだけは控除を厚くする。スウェーデンの場合には大学生がみんな働いていますので、所得の低い、LOに加盟していない働く人々というのは勤労学生です。スウェーデンの考え方は、学業に専念しなければならない学生が勤労するなんて不届きであるといって控除を少なくしているという理屈です。
【池上委員】 スウェーデンは大学の授業料を取らないんですよね。
【神野座長】 授業料も取らずに優遇しているのに学業に専念しないのは不届きであるという考え方なんですよね。
 
 
4.人的控除について
【事務局】 人的控除の問題ですが、人的控除についての今の連合案はいいところ取りされかねないところがあって、児童手当等の給付を拡充することを前提に、人的控除は配偶者控除と扶養控除にしていきましょう、二分二乗との選択制を入れるべきと言っています。子育て支援のような考え方を人的控除の中にどう入れていくか。連合内で議論をやった頃より重要性が増してきましたので。
【神野座長】 基礎控除の引き上げに振りかえる選択肢はないわけですね。
【事務局】 このときの議論では、なかったです。
【神野座長】 扶養控除を手当にするというのはいいと思います。二分二乗制の考え方は世帯単位ということですが、日本の場合にはシャウプ勧告を世界に先駆けて入れてしまったから、個人単位になっているわけですよね。ただ、個人単位で適用するというのは給与所得だけに限定されるべきで、資産所得は個人単位で認めないといけません。細かな資産所得までは無理なので、1,000万円以上の資産所得のあるものについては、妻の所得と夫の所得を合算して、家族の所得を全部合算すると。それで累進税率をかける。そうしないで個人単位でいってしまうと、資産の名義を分散して低税率で逃れてしまうという議論があったのですが、消費税を入れるときに、議論がないまま廃止されてしまったんですよね。給与所得には理屈としてわかるような個人単位でやりましょうという話が、資産所得のほうでも乗っかってしまっているんですよね。
 だから、控除についていえば、本来、課税単位を個人とするのであれば、基礎控除一本ぐらいでいい話ですよね。シャウプ勧告は基礎控除ぐらいしか認めていないんです。配偶者控除も認めていますが、たぶん本人控除額よりも額が少なかったと思います。
【池上委員】 そうですね。昔は基礎控除が非常に高かったんですからね。
【神野座長】 ギリシャと日本だけが、個人単位をとりながら政策的な控除、家族控除が多いんです。だから考え方としては、扶養されているかどうかで扶養家族控除一本にしてしまう、できるだけ手当主義でいくということ。もともと配偶者控除とか扶養家族控除を設ける理由は、課税の公平ですよね。担税力に応じた課税をするために入れている制度のはずなのに、その趣旨を度外視して行われているという場合には不公平なので、むしろ基礎控除を引き上げるか、手当主義に変えるか、ということではないでしょうか。もう一つ注意しなければいけないのは、給与所得にかかるような配慮が資産所得までに広がっているというのが結構あるんですよ。そこに気をつけないといけません。二分二乗制なんて高額所得者にたいへんな優遇措置になるんです。
【事務局】 だから連合は、給与所得1,000万円以下を対象にとしています。選択制にして、高額所得者は入れさせないということです。
【神野座長】 二分二乗制は、元来、自営業者や旅館業、農業など夫婦で働いて夫婦で家事労働しているところに理屈が合うわけですよね。給与所得の場合には個人単位でよいのではないでしょうか。
【事務局】 わかるんですけど、女性の就労比率が高まって、しかもパートで働く人がものすごく増えてきています。
【神野座長】 それは職場が別々だから個人単位でいいので、共稼ぎは個人単位でいいんです。自営業者みたいな共働きは、二分二乗というのがおそらく実態に合っているんだと思うんですよ。
【事務局】 パート就労と課税問題というのが常につきまとっています。今までは配偶者特別控除で税の中立性をやろうとしていましたが、それはもうやめようという話になってますので、そうすると、女性がパートで働いているという場合に、二分二乗制にして世帯単位にしたほうが課税の公平感があるのではないかというふうに考えたんです。
【神野座長】 えっ、そうなるのでしょうか。
【森永委員】 労働力供給行動を、家庭を単位にして考えると、二分二乗のほうが中立になるんですよ。今の税制だと、累進課税になっているので、半々で働くのが一番実質的な税率が低くなりますよね。例えば家計収入が1,000万円だとして、500万ずつ稼ぐ世帯のほうが、片方が1,000万円稼いでもう一方が収入ゼロという世帯よりも、圧倒的に税金は少なくなるんです。
【神野座長】 だけど二分二乗制は、片一方の所得が大きいときに有利なんですね。
【森永委員】 二分二乗制にすると、どういう単位で、割合で、夫と妻が仕事と家事を分担するのかというのが、税制から自由になるんですよ。
【神野座長】 いや、逆ではないですか。例えば1,000万所得のある人は、所得ゼロの女性と結婚していたほうが有利なわけですよね。だから、必ずしも働きに出るインセンティブにならないのではないでしょうか。
【森永委員】 私も女性が働いたほうがいいと思っているんですけど、本来はどういう働き方をしてもいいということなんです。今のような個人課税にすると、家計の戦略としてはどうしても半々になってしまうわけです。世帯課税にして二分二乗にすれば、賃金率が一定だとすれば、夫が死ぬまで働いて女性が全部家事をやっても、その逆でも、ニュートラルなので、世帯の労働力供給選択に任せるということになります。
【神野座長】 おっしゃるとおり、米国では累進税率を導入したら、結婚すると不利になるという議論があって、婚姻に対して中立的ではないので、結婚しなくなり、結婚なき愛、同棲になって好ましくないと言われたので、二分二乗制を入れたんですよね。入れた瞬間に何が起こったのかというと、無業の人と結婚をする人が増えまして、今まで働いていた女性がやめるという形になりました。もう一つ重要な点は、結婚すれば有利になるので、結婚に対するマルチギフトだという議論があって、そして、それは愛なき結婚のインセンティブになって働いてしまうと言われ、米国では有利な方を選んでよいという制度になっています。
 二分二乗制をやっているところはフランス、メキシコの支配下だったところが多くて、もともと結婚すると財産が共有名義になってしまうんですよ。それを根拠にして二分二乗制が成り立っているので、一緒の職場で働いているというときには二分二乗が公平です。別々な職場に行っているときには個人単位のほうがよくて、片稼ぎのときには世帯単位のほうが公平に課税できると思います。
【森永委員】 神野先生がおっしゃる結婚へのギフトというのを考えると、昨年10月に行われた国勢調査は6月に結果が発表になるんですけど、おそらく30代後半の男性の非婚率が全国平均で50%を超えるんですよ。それはもう社会として壊滅的な状況なんですね。私はもうここまで来たら、結婚へのギフトでいいんだと思っているんです。そのぐらいのことをしないとみんな結婚しなくなって、日本は結婚しないと子供が生まれないので、このままいくと社会がだめになってしまいます。
【神野座長】 ギフトにしてもいいんですけど、ただ配偶者の片一方が豊かであったときには効くんですが、2人とも働かないとぎりぎりの生活ができないという家庭にとっては、二分二乗はあまり効かないんですよ。
【森永委員】 今は普通のサラリーマンが結婚してもらえなくなってしまっているので、それでも結構いいのではないかと思っています。
【神野座長】 だけど単身者でよほど儲けている人以外に、このメリットが働くような所得の人はいますか。こだわりませんけど、いずれにしても一方で今の個人単位があり、世帯単位の二分二乗という道を認めるか。それから米国の場合には、そのような場合の税率表をつくっておいて、税率表で選択できるようになっているはずです。公平性でいく限りは、応能的な公平性から考えて、どれが適当かと。連合が言っていこうとすれば、担税力から考えて公平という道が選べるような方向で提案したほうがいいと思いますが、ということぐらいですね。
【逢見主査】 もう一つ、女性の働き方と税という形でいうと、移転的基礎控除、これも連合がやったプロジェクトの中では検討して、そういう選択肢もあるねというところまで行ったんですけど、どれがいいというふうにまで行かなくて、メニューとしてこういう考え方も検討に値するという紹介はしたんですけれども、移転的基礎控除というものについてどう考えるかということなんですけどね。これも世帯で考えるということなんですけど。
【神野座長】 連合が公平と言っていくときに、あくまでも、担税力に応じて公平性を考えていくんですよと。だから、課税単位を個人で選ぶのか世帯で選ぶのかも、どういう所得でどういう場合に、応能的な意味で公平性が貫けるかというような方向を基本に議論していきますということです。それと、働き方や何かというのは中立性の問題ですよね。税が入ってくることによって結婚や就職の選択が歪むとかという中立性の問題なので、それとどう調和させるのかということは明確に区分してやったほうがいいと思います。ただ往々に、担税力を貫いてもだいたい中立性が成り立つ場合が多いんですけれど。移転的基礎控除はやっているところはあるのですか。
【事務局】 ヨーロッパの1つか2つの国で適用されているという紹介がありました。
【神野座長】 そのときは、ほかの控除はどうなっているのでしょうか。基礎控除一本だけだったりする場合ではないのでしょうか。
【事務局】 そこまではわかりませんけれども。
【関口(浩)委員】 ちょっと話が移転的基礎控除からずれてしまうんですけど、児童手当で拡充するというときに、連合では手当をもらう人ともらわない人の境目をどういうふうに考えているんでしょうか。ただ単に月1万円支給ということになると、課税所得の多い人と少ない人の間での問題も出てくるし、もらう人ともらわない人とのところでも問題が出てくると思うんです。手当のほうがいいと思うんですけど。例えば1万円もらったとき、神野先生みたいに所得の多い人と私のように少ない人が同じ1万をもらったときに、神野先生は……。
【神野座長】 いや、それが公平だということでしょう。所得控除では、まったく所得税を納めていない人は何ももらえないわけですよね。最高税率を適用される人はものすごい控除を得ているわけですよ。手当にすれば、あまねくユニバーサルに、豊かな人間にも、貧しい人間も全然税額控除の恩恵を受けていない人にも配ることができるので公平になる、基本的にはそういう考え方ですよね。
【関口(浩)委員】 そこはわかるんですけど、もらったときの効果を考えたときに、ユニバーサルにしたほうがいいということなんですけど。
【神野座長】 連合で考えているのは、ユニバーサルにするわけですよ。
【事務局】 基本的にはユニバーサルなんです。ただ、要するに所得控除でいくと、現行では扶養控除が1兆円ですね。38万円控除して、トータル1兆円。その下には特別障害者加算が144億円あって、これを給付にして、もし1人1万円一律ということにすると、総額2兆円かかるんですね。特別障害者等に2万6,000円というと、2兆数千億円になるんですけれども、今の現行制度に比べると倍ぐらいの費用がいるので、一気にできない場合にはどこかで所得制限をかけなければいけないかなとなるんです。基本的には、全部に1万円払いましょうということです。ベースは。
【関口(浩)委員】 もし上限をかけてしまうと、もらえるところともらえないところの境目のところで問題が出てこないかなと思います。
【神野座長】 手当は全部ユニバーサルですよ。そうしないと、日本のようにユニバーサルにしないで選別主義にしてしまうから問題が起きるので、手当はユニバーサルで十分に所得再分配的には使える、応能的になるんですよ。
【事務局】 経過的な措置は必要になると思うんですよね。
【森永委員】 扶養控除を廃止したときに、地方税分の扶養控除はどうなるんですか。
【神野座長】 連動しますよね。
【事務局】 そうすると、地方税は単なる増税になってしまうということですか。
【神野座長】 いや、単なるというのは、地方税のほうにも扶養控除が現状ありますので、廃止すれば、たぶん両方とも増税になるわけですね。だからそれを手当に切りかえるというときには、地方の負担を上げないとバランスがとれなくなってしまいます。
【逢見主査】 国と地方の負担割合という問題が残りますよね。
 
5.消費税について
【逢見主査】 消費税については、連合の考え方では、インボイス、簡易課税の廃止、免税点の引き下げというのがあるんですけど、あとは二重課税、特に石油関係租税、いわゆるタックス・オン・タックスの問題。消費税率の引き上げを言う前に、そういうものを直せということを主張しています。またその使途をどうするかというのがあります。社会保障では年金目的税の創設を検討する、要するに、基礎年金を全額税財源にするという考え方があって、それとの整合性をどうとるかというのがあります。。
【神野座長】 私はもともと連合の社会保障の点から主張していたんですけれど、基本的には消費税みたいなものは、ユニバーサルにやっていくようなサービス給付を引き上げるのだったら上げてもよいという仕組みにしておいたほうがいいだろうということです。それから年金でいけば、保険料で所得比例的な年金を賄って、ミニマムペンションみたいなものは再分配なんだから、累進的な、応能的な税金で賄ったほうがいいのじゃないかということです。消費税はミニマムペンションのところには充てないほうがよいというのが大まかな議論なんですね。
 年金は、所得比例的にして、確定拠出型の賦課方式にしておけば、脱税も少なくなります。自営業者が所得を申告しなければ、年金はもらえないということになるわけですよね。養老とか育児サービスについては、あまねく人々が負担する消費税でもって負担していって、年金については確定拠出にし、最低限のミニマムペンションは今のように生活保護よりは低いというのはおかしいので、生活保護とあわせるような形で応能的な国税できちっと賄うというふうにしたほうがいいんじゃないかなというのが基本的な考え方です。
【逢見主査】 そこは社会保障ビジョンの策定のときにいろいろ議論があって。年金目的税とは言っていても、目的税の定義をやや曖昧にしていて、それ以外に絶対使ってはいけないということまでは考えていないんですけど、説得力としてはその方がいいのかなと思っています。あと、インボイス方式には、財務省は全然乗ってこないんですよね。
【神野座長】 はい。だけど、複数税率にしたときにはインボイスを使わないと無理ですよね。税率を引き上げるときには、複数税率にしないともたないですよね。複数税率にするのだったらインボイスを入れないと無理です。5%だといいけど、10%といったら複数税率にしないと無理ですよ。
【森永委員】 複数税率にしたときには、外税は無理ですよね。
【事務局】 今は一応、税額表示方式は統一されて、外税方式は基本的にはだめというふうになっていますけれども。
【神野座長】 ただ、外税方式ではなくても、消費税をいくら払っているかというのは、ヨーロッパは全部わかりますよね。
【事務局】 はい。それをやるべきだと言っているんです。総額表示にしても、必ず領収書の中に、「内、消費税いくら」というのをきちんと出せるようにすべきだと言ったんですけど、そこはあいまいです。今は、全部込みで領収書を出してもいいんですよ。
【神野座長】 インボイスじゃないから、わからないわけですよね。インボイスにして、複数税率にしてやったら、これは出してもらわないとね。
【関口(智)委員】 インボイスを入れないと、複数税率はできないですよ。財務省は納番制を入れてもクロヨンの問題はたいして解消できないという話をしていると思うんですけど、インボイスはクロヨンの是正の話とも連動しますよね。
 つまり、所得・資産課税に対応する納番制でできなくても、消費課税でインボイスを入れると、ある程度、小売業者の所得が把握できるようになると思うんです。インボイスを入れようとしたときに、やっぱり日本でいろいろ反対があったわけですよね。中小企業に対して保護が必要である等の。インボイスを入れろと言ったときに免税点や簡易課税制度をどう整理していくのか。その考えを整理した上で、インボイスはやろうと。なぜならクロヨン問題の間接的な牽制になるから。
【神野座長】 もともと日本は取引高税を第2次世界大戦後に入れたときに、事実上インボイスというか、あれは領収書だけれども、入るわけですよね。入れたことによって何が困難になったのかというと、自営業者が、中小企業業者が脱税できなくなったと。その歴史を忘れていなかったので、中曽根内閣のときに、売上税というインボイス方式の付加価値税を入れようとしたときに、第2次世界大戦後の経験から見ると、脱税ができなくなるじゃないかという議論が巻き起こったわけですよね。
 そこであのとき、納番を入れるか、インボイス方式を入れるかという2つのやり方があるんだけれども、日本はどちらもとらないということになったのです。インボイスは1回入れたことがあるんだけど、そのときはもう中小企業は一網打尽にやられたということです。その経験から、だめになっているんだけど、どうするのかということです。
 インボイスを入れるときには、どうせまた他の徴税のためには利用しないという一筆をとられるんでしょう。いずれにしても税率を上げるには複数税率は不可欠で、複数税率をしようとすればインボイスを入れざるを得ない。水平的公平のために導入しようと連合がいうのは、別に問題ないのではないかと思います。
【関口(智)委員】 インボイスを入れるというところでとめておくのか、免税点や簡易課税制度のほうまで突っ込んでいくと、中小事業者の人たちが完全に引っかかってくるというか、さらに火に油を注ぐ感じになるかもしれないですね。
【事務局】 免税点1,000万というのはなくすべきというのが連合の主張なんですけれど、ただ、どんどん下げていくと、組合としてもいろいろ問題が出てくる点もあると思います。
【関口(智)委員】 であれば、免税点については留保しておいて、インボイスの導入は透明性を確保するというような言い方はあり得るのでは。
【池上委員】 逆に、財務省は複数税率にしたくないからインボイスのほうに熱心じゃないでしょう。だから、この前の北欧諸国への海外調査の報告書を見ても、どうも何か質問にバイアスがかかっていて、複数税率はよくありませんよねという質問の仕方になっているんですよね。ちなみに、売上税とか消費税の成立当時のときの論文をいろいろ見ていたら、石税調会長が、当時は会長ではないですけれど、売上税が失敗して消費税を入れるときの論文では、3%は確かに低過ぎると、将来は10%の標準税率で、5%の軽減税率が理想だというふうに書いているんです。そのためにはインボイスを絶対入れなければいけないとそのときは言っています。
【神野座長】 ただ、インボイス方式を入れてしまうと免税業者になったほうが不利なわけですよね。だから免税点を上げても別に構わなくて、免税業者になれば不利になるので、免税業者にならないという選択を認めてあげると。免税点そのものは、インボイス方式を入れたときに、もう意味がなくなってしまいます。
 
【池上委員】 酒、ガソリン、たばこは二重課税だけど、それは問題なんですか。全然問題じゃないと思いますけど。
【事務局】 蔵出しの段階で税がかかっているのに、小売段階でというのは・・・。
【池上委員】 それは当たり前じゃないですか。
【事務局】 税がかかっているのはおかしいのではないかと。
【池上委員】 全然問題ないですよね。
【神野座長】 もともと多段階型の売上税が入るときに、一般的な税率とそのプラスアルファする税率とやっているので、特殊個別課税が入るのは、認めてもいいのではないですか。
【池上委員】 そうです。
【事務局】 払うほうから言ったら、例えばビールを買うときに、もともと税金が入っている上に、税金の上に消費税を母数として掛けるのはおかしいじゃないかということです。
【神野座長】 趣旨が違うから。もともとたばこは吸ってはいけないという趣旨で掛けているわけですから。
【池上委員】 酒、たばこ、ガソリンだからやっているわけですよ。普通のものについては、物品税は廃止したわけじゃないですか、消費税導入時点で。その話はそのときにもう終わっているんですよ。そこで残ったものは、もう個別にこれはだめ、消費を抑制すべきではないからという議論をすれば別ですけれども、単に2回掛かっているからだめだという議論は成り立たないと思うんですね。
【神野座長】 それから基本的にまず違うところは、個別にそういう政策的に入れる税金というのは、通常、消費量を抑え込むために従量税で掛けていますから。だから付加価値税のように従価税で掛けるということはあまりしないんです。理屈が違う税金がかかっているということですよね。
【事務局】 自動車でいえば、取得税や重量税などが掛かっていて、自動車を売るときにまた消費税がかかります。そういうもともと税金かかっているものに消費税をかけて売らなければいけないということに対する問題が一点。それから、今度は自動車に乗るときに、毎年毎年、自動車税を払っているにもかかわらず、また、ガソリンで高い税金を払っている。自動車業界にとっては、非常に過重な税金を掛けられている。連合の組織内議論では必ずこのような意見が出ます。
【神野座長】 だけど公平な税金ということで連合がいくのであれば、例えば固定資産から得ている所得についていえば、その固定資産から得ている所得から固定資産税を払ってください、それから所得税も払ってくださいというようなことでバランスをとるわけですよね。担税力に応じた形にしましょうねと。それは一括でやれば、一つの税金で済む話なんですけれども、いろいろな担税力のあらわれ方があって、それをいくつかの税金で、いろんな観点から抑え込まないと無理だという前提になっているので、それぞれ課税の根拠が違うわけですよね。それはしようがないんじゃないでしょうか。税金には価値観が入っているので、社会が環境や健康についてどう考えるかということですよね。社会全体で意思決定すればいいということですよね。
 
6.資産課税について
【逢見主査】 資産課税について、連合は、相続税と贈与税を一体化して一生累積方式を入れるべきという主張をしております。我々としてはかなりいい案ではないかと思っているんですけれど。
【神野座長】 これはシャウプ勧告によって導入されたわけですよね。導入されて、実際にやったんだけれども、昭和28年に、帳簿上の記録が困難であるという理由だけで廃止されたんですよ。ところが今は、コンピューターで一生累積することが技術的に可能になっているので、この方式は導入できるんですね。だからいいんじゃないですか。ただ問題なのは、フランスのカナールという人が「旧税は良税なり」といっていて、税制というのはしょっちゅう変えてはいけないんですよ、経済を混乱するだけだから。相続税だけはあんまり変えると、死んだときによってたいへん不公平が生じてしまいます。制度上の安定性が必要なので、移行過程をどう仕込むのかという問題になるかと思います。いいとは思います。アイスランドがやっているんですよね。こういうことをやるためにも、資産を毎年毎年把握できるので、純資産税を掛けておいたほうがほんとうはいいですけれどね。
 
7.法人課税について
【逢見主査】 法人税は、その地方法事事業税、外形標準の議論は連合の中でもいろいろあったんですけど、とにかく中途半端ですけれど入っています。いま、法人地方税を軽減するなり、廃止するという主張がありますが、連合は、基本的には法人税は現行維持で、租税特別措置を見直すべきだという立場なんですけど。
【神野座長】 それでいいんと思うんですが、日本の場合には法人課税が高すぎるという主張がされているわけです。田近教授は、日本の場合にはGDP比5%台で、ほかの国は2%ぐらいと言っているんですけれども、日本はもともと利潤が大きく出てしまうんですよ。なぜかというと、支払賃金に対する租税負担が少ないから。フランスの場合では、企業が社会保障負担をしているわけですから、日本の3倍負担しています。その支払賃金に対して負担している税金はコストとして引けるので、フランスの場合にはもともと利潤が小さく出てくるわけです。だから、フランスの企業が国際競争力上、問題だというのは、賃金にかかっている税金を減らしてくれと言っていて、職業税という地方税の賃金負担部分を非課税にしたりしていて、日本と違ってフランスは組合がきちっとしているから。フランスでは、団交の席上で経営者側が「社会保障負担を何で企業が全部負担しなくてはいけないのか。国際競争力上弱いので、労働者も負担しろ」と言えば、組合がもう実に簡単に、「第2次世界大戦中に祖国のために戦ったのはだれだ。祖国を売ったのはだれだ」と言うので、経営者側はあっさり負けてしまって、依然として基本的には100%社会保障負担は企業が負担しているわけですよね。その部分は利潤から引けるわけですよね。国際比較するなら日本も企業負担を一緒にしてもらわないと。ドイツも社会保障負担が大きく、大体日本の3倍ぐらい企業が負担しています。
【池上委員】 OECDの統計を見れば分かるんですよ。前回会議での田近教授の説明資料にあったグラフは財務省がつくっているんですけれども、法人負担は法人税だけで、社会保障負担とは別に書いてあるんですよね。社会保障負担を、雇い主負担と雇われる側の負担に分けていません。分けると全然違ってくるんです。スウェーデンも雇っている側の負担がずっと高くて、それを法人に加えると、ヨーロッパの法人負担は大幅に増えます。あれはわざと見えないようにしてあるんですね。
【神野座長】 その比較資料をつくっていただけないでしょうか。
【池上委員】 それは簡単につくれます。
【神野座長】 そもそも国民所得統計を見てもらってもわかりますが、そもそも日本は利潤が大きいので、GDP比じゃなくて、利潤に対する税負担比でいけば、日本とヨーロッパの間にはそれほど差はでません。だからあまり根拠はないと思うんですよね。ここを避けられると、結局、給与所得か消費税を引き上げられてしまうことになるんですよね。
【関口(智)委員】 あと、日本では法人税の対象になっている企業が多いと思います。ほかの国、たとえばドイツでは人的会社という会社形態は法人税の対象ではなくて個人所得課税の対象になっているので、法人税のところだけで比較すると結構危ないのではないでしょうか。
【逢見主査】 法人の数は圧倒的に多いですよ。
【関口(智)委員】 それを関係なく比較してしまうと、すごく危ういですよね。国の特徴を踏まえた適正な比較がされていない感じがします。
【神野座長】 ヨーロッパの場合には、労働組合の経営参加が義務づけられているので、有限責任の特権をとってしまうと、つまり法人成りしてしまうと労働組合を経営に参加させなくてはいけないんですよね。だからドイツでは、労働組合を経営参加させなくて済む無限会社が、大企業であっても非常に多いわけですね。
 時間が来ました。それではまた次回ということにしたいと思います。
── 了 ──