2005.05.27


新しい世紀における日本の進路 その4
EU憲法の理念と現実


 5月27日、北海道対外文化協会が主催し、標記の学習会が開催された。
 これは、04年2月に国内問題(田中秀征、ロナルド・ドーア)、04年12月に国連(最上敏樹)、05年1月に朝鮮半島(パク・チョルヒー)と続けてきた、憲法論議に資するための連続学習会の締めくくりとして開催された。
 まず始めに遠藤 乾北大助教授がEU憲法の仕組みと現状について解説し、25ヶ国に拡大したEUが憲法を採択した後には、世界に大きな影響力を行使する巨大国家になることをふまえ、その憲法の理念について、「人権重視と補完性の原理(小集団=現在の国家を補完する機能)」を理念として、外交等に特化した国家となることをめざしていることや、間違うと大国主義や軍事優先になる可能性などの問題点を指摘した。
 ただし、憲法の見通しについては、フランスやオランダなど状況は厳しいものがあるが、今回失敗しても、EU体制として存続し、より議論の深い憲法がめざされるだろうと予測した。

 次に、ドイツ社会主義党(PDS)名誉総裁のハンス・モドロウ氏が講演し、「EUは東西対決のなかに出発点があり、結局西側の勝利の結果の組織である」と、元東ドイツ首相としてEU体制が公平な規準を持つものでないことを述べた後、「憲法は何時の場合も戦争の結果生まれている。ドイツ基本法、日本国憲法もしかりであり、その教訓を生かして制定されてきた。EU憲法も“冷戦”の結果として生まれたものといえる」。憲法の問題点として「325ページもある憲法が十分理解されるとは考えられない」「NATO加盟国以外の国では軍備の拡大が科せられ、ヨーロッパの左翼連合は反対している。」と批判的な立場を表明した。
 その上で、「西・中央・東の欧州の貧困対策や格差の縮小が憲法成立の環境には必要である」「今回はだめでも、また議論が始まり、よりよいものがつくられるだろう」と見通しを述べた。
 ハンス・モドロウ氏は95年にも来道し、東西ドイツ統合5年の問題点を指摘する講演を通じ、国境無きグローバル社会における国民生活の保護政策などについて問題提起し、EUに幻想を持たないよう警告した。

 この学習会は、私たちに何を考えさせるだろうか。
 それは、民主主義の先進地域であるヨーロッパといえど、統合にはまだまだ時間を必要とする現状にあること。しかしその後には人権を重視した高次の民主主義に裏打ちされた国家が誕生するであろうこと。
 同時に、東アジアに目を転ずると、いまだにナショナリズムの花盛りで、統合の入り口にも立っていない現状、国家間に信頼関係すらないことを再認識させたものといえるのではないか。