私に賛成の人とも、反対の人とも、
同じ距離で接していく。 ニセコ町長 逢坂誠二さん
人の上に立つ者は、フェアでなければならない。
縁故や個人的な利害に惑わされていては、全員が納得できる利益の分配ができないからだ。
迷走する北海道。進路を変えるために必要なものは、過去の手法ではなく、満身創痍にな
ろうとも、理念を貫くリーダーの「強い意志」だろう。常に中立の立場に身を置き、”いま、
ここに必要な判断”を下しながら、地方自治やまちづくりに斬新な感覚で取り組んでいる
逢坂誠二さん。全国から注目を集める「時の人」に、求められるリーダー像、北海道への
提言、平和への想いなどを語っていただいた。
ニセコ町長
逢坂 誠二(おおさか・せいじ)
1959年4月、北海道ニセコ町生まれ。倶知
安高等学校、北海道大学薬学部製薬化学科卒業
後、1983年、ニセコ町役場に就職。企画観
光課企画広報係長、総務課財政係長をへて、
1994年、史上最年少の35歳でニセコ町長に
就任。現在3期目。
■国土審議会専門部会委員、北海道生涯学習審
議会委員、北海道大学大学院研究科附属高等法
政教育研究センター研究員、札幌国際大学非常
勤講師
■自治体学会会員、地方自治経営学会会
員、札幌地方自治法研究会会員、日本自治学会
会員、公共政策学会会員
http://www5a.biglobe.ne.jp/~niseko
●家族構成:妻、4人の娘
●趣味:旅行、読書、音楽(アメリカンロックを
中心になんでも)
●座右の銘:特に無いのですが、強いて言えば、
「虚心坦懐」かな?
●好きな色:特になし
●好きな食べ物:麺類(一日3回麺類でもOK、
嫌いなものはなし)
いつも、一緒にはいられない
だからこそ、「想像力」が大切
……逢坂さんは、独自の行政手法で全国に知られる首長のお一人ですが、この時代、リーダーに必要な条件は何だと思いますか。
逢坂 これまで、リーダーというのは、カリスマ的な存在に奉られてきたような感がありますが、諸々の問題が複雑化してきている今は、リーダーは前面へ出ることが求められています。 そんな時代のリーダーに第一に必要な条件は、強い意志だと思います。それが備わっている上で、人と人とのつながりやネットワークを駆使する力、仲間を広げていって肩を組んで仕事に向かっていける力、勢いや精神論で人々を引っ張るといった古いリーダーシップとは異なる科学性のようなものも必要でしょう。また、複雑なことや抽象的なことをいかに噛み砕いて説明するかといったわかりやすさも大切です。
……わかりやすさという点で、逢坂さんがふだん留意されていることはありますか。
逢坂 私が町長に就任したばかりのとき、政策の目標を記した紙を職員に配りました。ところが、職員はほとんど見向きもしませんでした。私に対する反発もあったと思うのですが、私の頭の中では整理されていることでも、その示し方に具体性が乏しかったせいか、職員に意図がうまく伝わらなかったのです。そのことに気づいてから、「こういうことをやってみよう」と具体的に説明したり、場合によっては絵を描きながら指示を出すように変えました。そうすることで、職員の理解が進み、また、理解が進むことによって、職員が恐れずに仕事に向かっていけるようになりました。
……リーダーに必要な条件を一つだけ選ぶとしたら、それは何でしょうか。
逢坂 「想像力」ですね。困ったとき、楽しいとき、どんなときであれ、リーダーがあらゆる場面に立会い、そこにいる住民と同じ感情を共有することはできないわけです。でも、同じ痛みなり喜びなりを感じ取ろうとする姿勢は必要で、そのためには想像力が必要です。あるいは、何か物事をやろうとしたとき、結果がどうなるか、どんな影響が出るかを推し量れなければい
けません。町長を9年間やってみた今、そういった想像力の必要性を強く感じています。
……北海道の行政は、さまざまな問題を抱えています。現状を変えていくには、何からスタートすべきだと考えますか。
逢坂 情報をきちんと発信し、公開し、道民のみなさんと共有することが不可欠です。それができた上で、住民のみなさんが自発的、自主的に問題意識を持ち、問題意識をベースにして自発的な活動を行っていくことが非常に大事だと思います。
……行政に携わる人々の姿勢では。
逢坂 まず、我々は、住んでいる地域を少しでも良い方向へ持っていきたいという意志を強く持って、地域の皆さんのために仕事をするという基本姿勢を忘れてはいけないと思います。行政の仕事は、リーダーだけでできるものではなく、組織・職員が一体とならなければ進みません。しかし、「地域や住民のために働く」という理念は抽象的です。この抽象的な理念を、職員が実感として感じ取れるようにするには、どんなに小さなことでもいいから具体的な改革を試みて、それに対する住民からの評価を得る機会を持たなければなりません。何かを試みて住民から喜ばれたときにはじめて、職員にとっては、理念を具体的なものと実感でき、それをきっかけに意識が変わり、組織も変化していくのだと思います。
……そのような日常の積み重ねがあるから、ニセコ町は元気なんですね。では次に、首長と議会の望ましい関係についてはどうですか。
逢坂 鳥取県の片山知事が、「今の議会は学芸会だ」とよく言います。シナリオも結末もあらかじめ決まっていて、議会という舞台でお互いが読み合っているだけだと。片山知事は、そんな議会ならやらないほうが良いとおっしゃっていますが、私もその通りだと思います。シナリオというものは、本当は、議会の場で、作っていくものです。準備がない中で直接対決をするとトラブルが多くなるでしょうし、あるときは、言ってはいけないことを言ってしまうような場面も出てくるでしょう。しかし、そのような生のやりとりがあって初めて議会というものが意味を持ってくるわけですし、議会がそのような場になればこそ、行政の側も議会の皆さんもレベルアップし、住民のみなさんからも「期待が持てる議会だぞ」と関心を寄せてもらえるのだと思います。実際、議会で生のやりとりを行って誤りが出たとしても、多少のことなら認め合うという気持ちをみんなが持てるようになれば、まっとうな議論ができるでしょうし、住民も首長も職員ももっとやりがいが出るんじゃないでしょうか。
不都合な部分を排除するには、
嫌われても毅然とした態度を
……逢坂さんは、お歳暮を一切受け取らないそうですね。
逢坂 はい。町長に初就任してすぐ、年末を迎えたところ、ものすごくたくさんのお歳暮が届きました。町民4,600人の町の町長にも、考えられないほどのお歳暮が来るんです。私は驚いて、送ってくださった方全員に「私がご連絡していなかったので、今回だけはいただきますが、今後はいただけない」と手紙を書きました。翌年からは、全部手紙をつけて返送しています。また、私は、選挙で私を支持しなかった方であろうと、必要がある方には手を差し伸べます。もっといえば、私は、友達以外は、個人的に人と会うということはしていません。利害関係が発生する可能性のある方とは、必ず複数で会います。すると部の方から、「お歳暮も受け取れないくらい度量の狭い人間なのか」、「なぜ、反対した人に手を差し伸べるんだ」、「あんなに応援したのに、どうして応援した人間の声を聞かないんだ」など、いろいろ言われます。しかし、私は、それぞれの方々と同じ距離で接することがとても大切だと考えているのです。今まで日本の政治や道政が抱え込んでいた不都合な部分を排除するには、意志を持って、嫌われようとも、毅然とした態度をとるしかないのですから。
……逢坂さんは、市町村合併には反対ですね。
逢坂 頭から反対しているわけではありません。日本全体を眺めてみたとき、合併によって、国が求めている効果を出せる地域もあるでしょうが、そうでない地域もある。その多様性を認めないで、ひとつの方向に推し進めていこうというのは、相当ムリがあると思っているのです。いまある市町村合併論には、入口と出口がありません。分権によって地域を強くするという目的がまずあって、それを達成するための多様な選択肢がある中で、合併という形を選んでいったわけではありません。合併ありきから、話がはじまっています。また、合併を進めた先にできあがる日本という国の像も見えていません。単に合併を進めると、特に北海道で想定されやすいことは、中心となるマチだけが栄えて、そうでないところはどんどん衰退が進んでいくという状況です。結果、経済合理性に合わない地域は、切り捨てられていくのではないかという不安があります。最終的に日本が、そのような国になっていいのでしょうか。私には疑問です。
……支庁制度改革についてはいかがですか。
逢坂 支庁制度については、そこに住んでいる人達の生活実態や市町村の実態を見た上で、どんな枠が必要かを考える、そこから話を進めていくことが大事だと思います。支庁制度改革は、市民に身近な行政サービスを提供するには、権限や財源を持っている組織が身近であるほうがいいという考えにそって進められてきたわけですが、私は本当にそうだろうかと疑っています。今、地域が悩んでいることは、誰しもがマニュアルを見てわかる、判断できるようなことではありません。最終的には政治の判断、北海道(道庁)の進む方向にそって、マニュアルや要項にはない新たな拡大解釈をしなければならないような問題について、なぜ、我々地域の気持ちが伝えられないのかを悩んでいるわけです。このような悩みは、支庁にどんなに権限を与えようと解決がつかないものです。支庁制度改革には、各市町村の目線からあり方を見直すことと、北海道の政府機能をいかに発揮させるかという観点を融合させることが必要です。ただ、現に支庁がある市や町で大幅に人員が減るとか統廃合が行なわれると、地域の生活が崩壊することも考えられます。そういった現実的な視点も必要だと私は感じます。
……道州制の議論についての意見は。
逢坂 道州制という言葉はありますが、その内容がいかなるものかについては、日本全体で定まった考え方はないわけです。道州制議論については、情報を整理し、同じ認識に立った上でスタートさせないと、同じ船に乗っているはずが、目指している方向はみんな違ったということになりはしないかと危惧しています。道州制が道民にとってプラスなのか、北海道が日本の中でどんな役割を果せるかの二点を頭に置いて考えるべきでしょうね。
多様な選択肢の中から
目的をかなえる手法を選ぶ
……北海道のエネルギー政策については、どうお考えですか。
逢坂 このエネルギーが良くてこのエネルギーはいけないというような、二律背反で白黒をはっきりさせられる時代ではないとは思います。とはいえ、それでは今の原子力政策をこのままのペースで進めていけるかというと、不透明な部分が多すぎるとも感じています。ここでも、多様な選択肢をみつめながら、原子力に依存している現状の体質から脱却していくプログラムを作っていくことが不可欠だと思います。燃料電池や光、風、波など、多様なエネルギーをどう活かしていくか。北海道は、エネルギー政策に新しい風を吹かせていける可能性にあふれていますし、それを実現していける理想郷になるのではないかと私は思います。その上で環境問題を充分に考え、北海道こそ日本の環境政策をリードする土地になれば、理想的です。
……北海道は、深刻な雇用問題も抱えています。雇用創出へのアイデアはありませんか。
逢坂 新卒者の雇用に関していえば、20年、30年前とは状況がかなり変わっています。若い人の間には、学校を卒業してもすぐに働かなくていいという考えがあり、働く側と雇用する側の意識には相当のギャップがあります。このギャップを埋めるために、新卒者を中心に、広い年代を対象にしたトレーニングの場を用意してはどうかと思います。単なる職業訓練ではなく、意識変換も含めたトレーニングの場ですね。また、自治体でも雇用相談ができるようになりつつありますから、もっときめの細かい相談窓口を地域に設けても良いのではないかと思います。それから、産業形態の転換に伴って、特に公共事業に頼っていた産業は、今後業態転換を図らなければならないでしょうから、そこでの雇用の創出を図っていくこと、三点目は、教育や環境面での新たな雇用を生み出していこうという目線が必要ではないかと思いますね。
……歳入不足と歳出超過がかさなっている状況で、どういった手法が必要だと思いますか。
逢坂 財政を切り詰めることもひとつの手法ですが、今持っている100の力を150に上げることも、危機を乗り越えるためのひとつの手法です。ニセコ町の具体的な取り組みでいえば、情報公開を徹底したことで職員の仕事に対する姿勢が変わりました。町民にいつも見られている、あるいは、私が作っているこの書類は将来どこかで公開されるんだと思うことで、仕事の質が上がるわけです。また、役所の中のファイリングシステムを変更したところ、仕事の効率が良くなりました。職場を改善していくということは、なにも切るということだけではありません。どういう手法をとれば、よい方向へ向かうかを、多様な選択肢の中で十分に考えることが大事だと思っています。
……歳出の優先順位の決め方では、なにをポイントとするべきでしょう。
逢坂 これからは、忌避政策をいかに実施していけるかがカギでしょうね。予算を削っていく上で、ある補助を2,000円減らさなければならなくなったとします。そういう嫌な政策を住民にいかに丹念に説明し理解していただき、その結果、みなさんの納得の上で実施していけるか。いろいろな人の意見にフラフラしていると、忌避政策は取れませんから、リーダーには強い意志が必要ですよね。また、住民のみなさんにも、まず、自分とは違う人がいるということを知ってもらい、地域全体の中での優先順位を理解してもらわなければなりません。たとえば、補助金を上げてほしいと要望するグループがあったとして、一方で、同じ地域に、まったく水道が通っていない地区もあったとします。その時に、水道を通すことを優先させるには、補助金を要求しているグループのみなさんに、「私たちの主張よりも水道が先だよな」と、納得してもらわなければなりません。そのようなプロセスを踏んでいくことが必要なのです。
……財政の面からも、NPOや住民との協働が、今後さらに求められると思いますが。
逢坂 平成15年、ニセコ町に図書館的な施設がオープンするのですが、維持・管理・運営は、地域のお母さん達を中心とするグループにやってもらうことで準備を進めています。これまでの例でいえば、役所から館長さんを派遣し、事務職員などを雇うという発想でしたが、限られた財政の中で、館の使用形態、目的を考えれば、本に一番詳しく、本を一番使いたいと思う人が管理することが、目的にかなっているからです。単に財源を浮かせるためだけではなく、各事業の目的を達成するために、NPOやボランティアの方々に協力してもらうという考え方が望ましいのではないでしょうか。
……21世紀は環境と人権の世紀と言われています。平和についてのお考えを、最後にお聞かせください。
逢坂 どんな主張があっても、基本的には戦わないこと、それが大事です。戦って相手を傷つければ、あとに絶対に拭い去ることのできない恨みつらみを残し、それが次の戦いを生みます。ですから、どう考えても戦うことは避けなければならないと私は思っています。アメリカでのテロが起きるまでは、私は、世界のみんなが仲良くなる、世界中に情報が流れる、世界の物をいろいろなところで手にとれることをすごく大事なことだと思っていました。ところが、それは必ずしも正しいことではなく、また、ある方にとっての平和は、ある方にとっての平和ではないということも実感しました。今までは、「みんな一緒で、みんな仲良く」が良いことだと考えられてきました。しかし、実は、みんなは一緒ではなく、みんな違っているんですね。ですから、21世紀は「みんな違う、けれど、みんな仲良し」という社会を作っていくことが課題でしょう。そのためにも大事なことは、想像力を養うこと。それがポイントだと思います。
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